表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/226

第153話 少女たちの英雄譚・中編

いつも応援ありがとうございます。


感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。

楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。

誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。


追い込まれる心、続く苦境に清白帆乃花は……!


「キキキィッ!」


 ジリ貧のピンチ。

 答えの出ない思考の迷路。


『ハッハッハ。これは出来損ないだよ』


 思ってもみなかったタイミングで起きた、過去のフラッシュバック――。


「――帆乃花!!」


 不意に聞こえた命ちゃんの声で、私は現実へと引き戻された。


 ……って、あれっ?!



「え? 命ちゃん?」

「今ので9度目の迎撃です、そろそろ次の一手を打つ必要があります」

「え? え? ちょっと待って。命ちゃん今……!」


 呼び捨て? 呼び捨てされた?

 小間使いみたいに扱ってる六牧司令と同じように、様付けなしで……!?


「どういうことなの!? 命ちゃん!」

「深い思考に陥っていた貴女を引き戻すには、そう呼ぶのが適切だと確信しましたので」

「ショック療法!?」

「それよりも、すぐに10度目の爆撃が来ます! 用意を!」

「あっ、うん!」


 命ちゃんの言う通りに、目の前の状況に集中する。

 正面モニターに大きく映る、今私たちが立ち向かっている脅威を、強く強く意識する。



「キキィ……!」


 亜神級“偽りの妖精王”オーベロン!

 幽世の門の向こうから、無尽蔵にフェアリーを呼び寄せて、爆弾や盾に使う最悪の敵!


『オーベロン、妖精爆雷射出!」

「対爆防御、マルチロック完了……!」

「コマンドM・L・M・I! マルチロックミサイル、発射!」


 辺り構わず更地にする勢いで撃ち込まれる、狂った妖精たちの自爆特攻。

 それを豪風のミサイルで迎え撃ち、神子島解放軍への被害を防ぐ。



「おお、また守ってくれた!」

「豪風がいればわたしたちは負けない!」

「二人のハーベストハーベスター、万歳! 俺たちもこの勢いで敵を撃てー!」


 他のハーベストたちと戦ってくれている各小隊のみんなは、そう言って喜んでくれるけど。


『肩部ミサイルパックのストック、9発です』

「っ!」


 サザンカちゃんからの報告に、私の中の焦る気持ちがどんどん膨らんでいく。

 みんなを守りたいのに、このままじゃ守れない。



(こんなに、こんなに頑張ってきたのに……! やっとそれを披露できるチャンスなのに……!)


 黒木くんを、みんなを守れるようになるために、いっぱい頑張ってきた!

 ここで負けちゃったら全部が終わる、全部が無駄になっちゃう……それなのに!


 “出来損ない”


 あの日の言葉がどうして今、こんなにも頭にこびりついてくるの!?



「私、私は……!」

「……サザンカ」

『了解です』

「んぎぅっ?!?!?!」


 シビビビビビッ!?!?


 突然全身を駆け巡るダメージに、コックピットでもんどりを打つ。


 こ、これ!

 意図的に精霊がやるダメージフィードバックって奴だよね!?



「みみみ命ちゃ……! さ、サザンカちゃ……?! どどどどうしてててて!?」


 なんでこんなことを!?


「………」


 痺れながら振り返った視線の先には。


「……っ!」


 大量のモニターを展開し尋常じゃない速度で手を動かして操作する、命ちゃんの姿があった。


 カッ! ドドドドッ!!


 直後、再び炸裂する大量のミサイル。

 私が痺れているあいだに、命ちゃんはたった一人で、相手の爆撃をどうにかしてしまった。


 私はそれが嬉しくて、そして――。



「――この、大馬鹿者!!」

「ええええっ!?!?」


 続く何かを思い浮かべようとしたその前に。

 私は、命ちゃんから聞いたことのない怒気を孕んだ声で、叱られた。



      ※      ※      ※



「サザンカ。これまでの行動データから敵の爆撃の動きを予測・対応できますか?」

『非常ニ困難ナ御要望デスガ……問題ありません。デスガ対応ハ“パージ”マデ、“精霊纏い”ハ……』

「そちらは贄が引き続き対応します。お願いします」

『了解です』

「……? ……??」


 叱られた衝撃で止まった私をよそに、命ちゃんはサザンカちゃんと話を進めていく。

 ダメージフィードバックはとうに止まっていたけれど、今も痺れが残っている気がして。


「え、と……」

「……ふぅ」


 呆けたままで声を出したら、それを見た命ちゃんが静かにため息を一つ。

 シンッと彼女の澄んだ青色の瞳が私を射抜き。


「私の話を聞きなさい、清白帆乃花」

「ひゃい!」


 フルネーム呼びなんて強い圧力で声を掛けられたから、思わずビクッとしながら返事をした。



「清白帆乃花。貴女の良い所は、何事にも真っ直ぐに全力が出せるところです」

「……はい」


 話を聞けって、何が始まるんだろうって思ってたら。

 褒められた?


「そして貴女の悪い所は、躓いたときに一人で抱え込もうとするところです」

「……はいぃ」


 お説教だった。


「調子のいい時に前へ前へと進む貴女の力は、周りにも伝播していい流れを作ります。ですが今の貴女のように悩みを抱え始めると、貴女は自分の世界に引きこもり、自問自答に没頭してしまうのです。それは周りの迷惑を考えての気遣いでもあるのでしょうが、明確な悪癖です」

「……はい」


 ドスドスと突き刺さる、命ちゃんの言葉。

 今まさにやらかしてたから何も……何も言い返せないっ!



(それに、部屋に引きこもって考え事するのは、ずっと昔から自覚してる私の癖だから……)


 白の鳥籠にいた頃から、物心ついた頃からの癖。

 黒木くんに外へと連れ出して貰ってからはあんまり意識してなかったけど、そう簡単には治らないみたい。


「まぁそれはどうでもよいのですが」

「どうでもいいの!?」


 バッサリ切り捨てられちゃったよ、私の悪癖っ!


「重要なのは、貴女が“どうしてこの土壇場でそうなったのか”ですから」

「あっ……」


 もうこの短時間で何度目なのかわからないくらいの驚きの声が出て。


 それと同時に、12回目の爆撃を切り抜けた。



「教えてください、清白帆乃花。貴女は、何を悩んで手を止めたのですか?」

「それは……」


 命ちゃんに促され、私は自分が思ってたことをちょっとずつでもなんとか言葉に変えていく。


「えっと、この戦いは負けられなくて、でもこのままじゃ負けちゃいそうで、私どうしたらいいか考えてるんだけど思いつかなくて、何もできなくて。そうしたら昔の言葉を思い出してもっとどうしようもなくなって、ずっとその言葉が出てきて、頑張ったのにやれるはずなのにって思って……」


 口に出し始めたら早くて、想像以上にするすると、喉から言葉が溢れ出た。


「ふむ、ふむ……」


 命ちゃんは私の言葉を、今この瞬間も戦いながら真剣に聞いてくれた。



      ※      ※      ※



「……なるほど。つまりは勝利に対する責任感と、今日までの努力に対する罪悪感ですね」

「そ、そんな端的な言葉にされるとなんだか微妙な気持ちなんだけどっ!」


 私の心を容赦なく、命ちゃんが短い言葉で言い表す。

 その頃になると私も少し調子を取り戻して、再びオーベロンの爆撃に対抗して豪風を動かせるようになっていた。


 14回目の爆撃対応。

 残りのミサイルパックの数、5。


「現状、ジリ貧なのは間違いありません。このままでは負けます、確実に」

「うっ」


 同じくらい淡々とした言い方で敗北の未来を告げられて、ドキリとする。

 命ちゃんはたまに、物凄く冷たい。



「私たちが敗れれば、オーベロンは次に前線部隊を、そして司令部を壊滅させるでしょう。どこかで終夜様が助けてくださるとは思いますが、神子島解放軍は最悪壊滅するかもしれません」

「そ、そっか。黒木くんが……」


 一瞬だけ。

 黒木くんが最後には何とかしてくれるかもって、安心しそうになって――。


「――それじゃダメだよ!」

「えぇ、ダメです」


 とっさに反対したら、命ちゃんも同意してくれた。


「この程度の者を相手に、終夜様のお手を煩わせるなど言語道断」

「あ、そういう……」


 なんかちょっと思ってたのと違ったけど。


 なんて、気が逸れていたから。



「……ですが、私の力だけでは勝てません」

「え?」


 直後にスッと、投げられた言葉に。

 私はまた、目を見開いて動きを止める。



「貴女の力が必要なのです。清白帆乃花」

「……!」


 それはごく自然に、当たり前のように放り投げられて。

 そうなんだって、私の胸にストンと落ちて収まった。


 けれど、私の心には。


(どうして……?)


 なんて違う言葉が、ふわりと浮かび上がっていた。


   ・


   ・


   ・


 命ちゃんは強い。


 黒木くんとペアを組んで、豪風で大暴れして、5分無双――八津代城址を解放した。

 天久佐の壁防衛戦も、海渡るオオカミ相手に一歩も引かずに戦い切った。


 けれどそのあと、二人のペアは解消される。

 黒木くんに事実上の専用機“呼朝”が届けられたから。


 彼の抜けた穴を埋める形で、私は命ちゃんとペアになった。



「命ちゃん! 私、強くなりたい! だから私を鍛えてくださいっ!」

「はい。それは贄としても、望むところでございます」


 黒木くんを守れるくらい強くなりたい。

 そう思った私は、命ちゃんと訓練・訓練・訓練の日々を送り始めた。


 命ちゃんから沢山のことを教えてもらって、私は数多くの技能やより高いステータスを得た。

 それもこれも、命ちゃんが私のために、ホントに沢山の時間をかけてくれたから。


『そうだなぁ。今の清白さんは、どっちかっていうと姫より勇者とかだよなぁ』


 頑張った成果を黒木くんに褒められたりもして。

 この調子でいけば私も黒木くんの隣に立てる、守れるようになるって思ってた。


(でも、実際は……)


 気づいた時には、黒木くんはもっともっと前に進んでいて。

 私に合わせてくれてた命ちゃんも、彼から突き放されてしまっていた。


   ・


   ・


   ・


(もしも命ちゃんが、私なんかと関わらず、黒木くん一筋で付き従っていたのなら……)


 今、こんなピンチに陥ってなんていなかったんじゃないか。


(私が……命ちゃんの足を引っ張ってしまった。足踏みさせてしまったんじゃ……)


 ………。


 あぁ。

 そうか。


 罪悪感って、そういうことか。



「……ふぇ」

「え?」

「ふぇぇぇ~~~……」

「なっ!? えっ!? あぇっ? 帆乃花様!?」

「ごめん……なさい、ごめんなさい……命ちゃん……私のせいで……そんな……」


 今も、これまでも、足を引っ張ってごめんなさい。

 弱くしてしまってごめんなさい。


 大好きな人から遠ざけてしまって、ごめんなさい。


 命ちゃんならもっともっと強くなれたのに。

 もっとずっと黒木くんの近いところに立てたのに。


 邪魔をしてしまって、ごめんなさい。



「どうして泣いているのですか!?」

『命! 直上!』

「!? しまっ……!」


 あぁ、本当に。

 私はどこまでいっても、出来損ないの存在。


『!? コマンド入力済? 誰ガ……』

「帆乃花、様?」


 ……だけど!!



「だから……どうしたっ!!」

「!?」



 涙を払え!

 敵を睨め!


 今やるべきは後悔じゃない。

 前を向いて、先を見据えて、生きるために戦うことだ!



「ごめんなさい、命ちゃん。私、命ちゃんにいっぱい迷惑かけた!」

「帆乃花様……?」

「命ちゃんならもっともっと黒木くんの傍にいれたし、私のことを無視して自己鍛錬に励んでたら、こんな状況一人で何とか出来てたかもしれない。なのに私なんかのために時間を使ってくれて、いっぱい沢山教えてくれて、その分、命ちゃんを弱くしちゃったかもしれない!」


 でも!


「その分は、私が頑張るから! 命ちゃんのために、一生懸命頑張るから! 命ちゃんが私のために使ってくれた時間が無駄じゃないって、私たちの努力は無駄じゃないって、こいつに勝って、証明する!!」

「!」

「私は、弱い! でも! それでも私は……!」


 黒木くんに。

 命ちゃんに。



「……二人に負けないくらい、強くなる!!」



 17回目の爆撃対応。

 残りのミサイルパックの数、2。



「だから、使うね! ……限界突破駆動(システム・オーバード)っ!!」


次回、決着!


応援、高評価してもらえると更新にますます力が入ります!

ぜひぜひよろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
トラウマ解消回かと思ったら冷静に分析されてあっさりどうでもいいと切られてしまいましたね。命さんパないっす。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ