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第152話 少女たちの英雄譚・前編

いつも応援ありがとうございます。


感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。

楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。

誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。


まずは、豪風VSオーベロン!


 戦いの最中、日ノ本軍最終拠点にて。


「オーベロン!! アイツ! アレは!!」


 一人の少女が――オリヴィア・テイラーソンが叫んでいた。


「アイツがここにいるってことは! 英国は! パパは! ママは! グランパは……!」

「落ち着けテイラーソン! 今は自分の仕事に集中しろ!」

「千代麿様!! でもっ!!」


 彼女が英国から日ノ本へと疎開する原因になったのは、何あろう彼の亜神級で。

 今は連絡の届かない遠い祖国を蹂躙していたはずの仇敵の登場は、彼女の心を掻き乱した。



「What’s! なんで! アイツ! あいつぅ……!」

「千代麿! 来たわよ!」

「九條! すまない、テイラーソンを頼む!」

「やだっ! 離してっ!」

「ちょ、こらっ、落ち着いてオリー!」


 慟哭し、精神的に不安定になったオリヴィアを救護の九條巡が羽衣で包み込む。

 なおも暴れる彼女に、千代麿が重ねて声をかけた。


「テイラーソン! むしろこれは、チャンスだろう!」

「!?」

「聞く限り、英国戦線は拮抗していた。そんな場所からこいつはここへやってきた。即ち……あちらの戦場は、大いに有利になっているはずだ!」

「あっ」

「そしてボクたちのエースが、アイツをぶっ飛ばさないわけがない。そうだろ? むしろ今こそ、キミのにっくき相手が年貢を納めるその時だ!」

「……!」


 少女の瞳に、光が宿る。


「信じて、今は休んでいろ。そうしたら」

「No.休まないよ。だって、こんなチャンス見逃せない……! だよね?」

「オリー……」

「アイツを倒すチャンスなら、私はその手伝いを……頑張るよっ!」


 戦いの裏の、小さな決意の物語。

 その姿を見つめながら――。


「――世界が、決着に向けて動いている……? え?」


 救護に奔走している少女の端末が、静かに震え出した。


   ・


   ・


   ・


 同時刻。

 日ノ本軍地上決戦用契約指揮車“鬼笠子(ガラカブ)”。

 その車内司令室にて、六牧百乃介は檄を飛ばす。


「疑似超過駆動障壁、どうなっている!?」

「障壁、30%を消失! 表面装甲に軽度の損傷を確認! 次に同レベルの爆撃を受けた場合、走行に支障が出る規模のダメージを負うことが予想されます!」

「なら損傷の大きな精霊殻、機動歩兵を回収後即座に500m後退! 解放軍各小隊に指揮補正範囲の変化を注意喚起!」

「了解っ!」


 突如現れた亜神級からの奇襲。

 最前線から少し離れた場所まで届いだ衝撃を、日ノ本最新技術の結晶は辛くも防ぐ。


 どういうわけか最前線の方がダメージが少ない現実に困惑こそしたが、六牧はその顔にポーカーフェイスを張り付けて、堂々とした態度で指揮を重ねていた。



「あの、総司令!」

「なに?」

天2独立機動小隊(エースたち)への指示は……!?」

「あ、そっちはいいよ」

「えっ!?」

「今更だからね」

「!?!?」


 問いかけたオペレーターとの、一瞬の視線の交差。



(今更僕がどうこう言ったところで遅いし、自分たちのやりたいようにやった方が上手くいくからねぇ)

(今更新たな指示など出さずとも、すでにこのような事態を想定した作戦を練りこんであるってこと!?)



 すれ違う心。


「さぁ、僕たちは僕たちでできることをしよう。あとは信じて待つだけさ」

「……はい! 総司令!」


 状況は今なお逼迫している。それゆえに、緊張とともに再びモニターを注視しだした六牧は気づかない。

 彼を見つめる周りの視線が、いつか自分が天2の面々へと向けたモノと同じになっていることに。


 だがだからこそ、司令部は揺れなかった。

 突然の奇襲を受けても士気は乱れず、多くの兵たちの心に日ノ本の巌ここにありと示して。


((準霊師様が、見守ってくれている……!))


 亜神級という特大の畏怖を前にしても、彼らは踏ん張ることができた。



「こちらコントロール・ガラカブより各小隊へ! 被害状況の報告と同時に、マニュアル“佐々”E-04に従って前線を再構築してください!」

「中破クラス以上のダメージを受けた精霊殻は指揮車へ! 一度こちらで回収し、後方撤退を援護します! ここがある限り、日ノ本軍は敗れません!」

「うんうん、みんな有能で助かるなぁ」


 知らず己の株を上げていることに気づくことなく。


(さぁ、こっちは何とか持ちこたえてるよ。だから、何とかしておくれ。うちの化物(エース)たち)


 彼は静かに堅実に、日ノ本軍の大黒柱を支え続ける。

 世界を変える真の英雄たちが、未来を切り拓くことを信じて。



      ※      ※      ※



「「………」」


 見上げれば、そこに。


「……ニィッ♪」

「「!?」」


 倒すべき敵がいる。



「うおおおおお!! 建岩殿! 清白!!」

「ひゃあっ!?」


 ヴンッ!


 突然繋がった霊子通信から、木口さんの大声と、激しい戦闘音が響く。

 いったい何事だろうって耳を傾けたら……。


「……こっちは任せろ! だから、そっちは任せた!」

「!?」


 たったそれだけを伝えて、通信は途切れた。


「……命ちゃん! サザンカちゃん!」

「はい」

『了解ッ!』


 それだけ伝えられたら、十分だった。



「攻撃、開始っ!」


 位置取りは万全!

 命ちゃんが“精霊纏い”で呼び出した突撃銃の二挺持ち。


 サザンカちゃんが狙いをつけて――発射!


 ドドドドッ!


「ギッ!?」


 わずかに反れる軌道を描いて跳ぶ弾丸を、空飛ぶ大きな虫羽根の王様が躱す。

 翼ちゃんがつけてくれた傷は、謎の光が埋めていた。


「ギィッ!」


 羽ばたいて、大きく体を傾けながら移動するのを追いかけて、豪風を走らせる。



「西欧諸国を滅ぼした亜神級、オーベロン……相手は飛行を得手とする敵、雑に空へと攻撃するのでは無駄になります」

「みたいだねっ!」


 こちらを煽るように優雅な動きで空を舞う敵は、まさしく空の支配者。

 いつか見た“空泳ぐクジラ”と違ってサイズ感からくる圧力はそれほどじゃないけれど、人によく似たその姿が、その顔が、明確にこちらに悪意を向けているのが恐いって思った。


「突撃銃で足りないなら、弾速重視! これならどう!?」


 装備変更。

 ムキムキ自慢の豪風に持たせるのは、天久佐奪還戦で黒木くんが使ってたジャイアントスナイパーライフル。


「姿勢制御、サザンカちゃんお願い!」

『オ任セッ!』


 急制動で無理矢理構え、当たりやすそうな胴体狙いでその銃口を向ける。


「……合いました!」

「シュートッ!!」


 その動作中に命ちゃんが照準を整え、普通に狙う何倍もの早さでトリガーを引く。


 チュンッ


 打ち出された高速の弾丸は、相手の回避軌道すら計算に入れてその身に吸い込まれ――。



「――ギィ~~~!!」

「!?」


 次の瞬間、その射線に大量のフェアリーが集まって、一斉に弾け飛ぶ。


 パァンッ! ボボッ!


 直後に打ち込まれた翼ちゃんの支援射撃も、同じように割り込んだフェアリーたちが受け止めた。



「ニィッ♪」

「……ワールドアーカイブで共有されていた通り、アレは妖精級ハーベスト、フェアリーを自在に操るようですね」

「爆弾にも、盾にもできる……配下の命を何とも思わない所業、だっけ?」


 アレが“偽りの妖精王”って呼ばれている理由の、その一つ。

 最初に西欧諸国の人々をその見た目で騙したことも含めて、その伝説級の悪辣ぶりを実際に見てしまうと……考えずにはいられない。


「あんなのに好き勝手させたら……!」


 人の命どころか、そこにあるすべてのモノがぐちゃぐちゃにされちゃう!



「……~~~♪」

「あっ!」


 オーベロンが歌いだす。

 輝等羅ちゃんの歌声にノイズを混ぜて邪魔をして、自分の周りに大量のフェアリーを躍らせる。


 また、あの大爆発が来る!!

 そして今度はもう、あの謎の赤い女の人……じゃなかった、RRさんの援護はない。


 でも!



「今度は止めるよ!」

「はい」

『準備万端、後ハ仕上ゲヲ御覧ジロ、ですっ』


 私たちだって、何もできないわけじゃない!


「ピギィィッ!」

「ピギャギャギャッ!」


 どんどん増えていくフェアリーたち。

 それらに命ちゃんが照準を合わせ、ロックしていく。


「~♪ ~~♪」


 オーベロンが、その指を私たち……ではなく、最前線で戦う他の小隊のみんなを指す。

 次の瞬間フェアリーたちが、狂気の笑顔を振りまきながら、一斉に突っ込んでいく。


 自らを爆弾と化した自爆特攻。

 あらゆる命を玩具にする、冒涜の雨。


「させないよ!」

「対爆防御、迎撃準備……!」

『入力、完了済です』


 展開する、肩部ミサイルパック。


「シューット!!」


 降り注ぐ妖精爆雷を、豪風から発射したミサイルが迎撃する!!



 ボボボボボボボッ!!


「耐衝撃防御! 姿勢制御!」

『問題ありません』


 ミサイルとフェアリーとが、衝突する度発生する衝撃を、サザンカちゃんの姿勢制御で耐え抜いて。


「命ちゃん!」

「やっています! パージ! 次弾装填!」


 そのあいだに命ちゃんが、次のミサイルを準備する。


 爆発で発生した煙が晴れていく。



「……ニィ♪」

「……だと、思ってたよ!」


 その向こうにいたのは、フェアリーを再び大量に呼び集めた、悪辣の偽王だった。



      ※      ※      ※



 フェアリーを使った爆撃の波を、私たちのミサイルで迎撃する。

 相手が次の爆撃を放つのと、こっちでミサイルを用意するのは、ほぼ同じタイミングで。


「……今ので5度目の迎撃となります」

『肩部ミサイルパックのストック、14発です』

「相手の攻撃に打ち止めって……ないよねぇ?」

「過去のアーカイブに記録された1戦闘におけるオーベロンの爆撃最大数は、30回です」

「んなっ?!」


 でも、こっちが迎撃できる回数には限りがあって。


「このままじゃ撃ち負けちゃう……!」

「はい。贄たちは現在、ジリ貧、という状況に陥っています」

『泣イテモ笑ッテモ弾数ハ増エマセン。ナンテコッタ』


 頭の中を一瞬だけ。

 爆発に巻き込まれて消し飛ぶ豪風の姿がよぎった。



「迎撃します……!」

「っ!」


 嫌なイメージを振り払う時間もないまま、相手の打つ手に立ち向かわされる。

 現状あの大爆撃を防げるのは、私たちのミサイルだけだから。


(なんとか……なんとかしないと。私たちが勝てなかったら、みんなが……!)


 黒木くんなら、あの爆撃のあいだにサクッと接近してやっつけてると思う。

 でもそれは黒木くんの尋常じゃないテクニックとヨシノさんのフォロー、そして呼朝のとんでも性能のすべてが合わさるからできる、黒木くんたちだけの攻略法だ。



「っ! 今ので8度目の迎撃、です……!」

『オーベロン、不敵に笑っています。不愉快デスネ』


 考えろ。

 考えろ考えろ考えろ!


 私たちは負けちゃダメなんだ。

 私たちが負けたら神子島解放軍は一気に瓦解して、あいつに蹂躙されちゃう!


 私たちの力で、アレを何とかしないといけないんだ!


 でも……。


(これ以上、私たちに何ができるの?)


 もうとっくに限界いっぱいで動いてる。

 今だって考えながら動かして、相手の攻撃を全力で捌き続けてる。


 今日までいっぱい訓練してきて、鍛え上げたその結果、ここまで対応できているんだ。

 普通の人じゃ絶対にできないくらいに頑張って、戦ってる。



(でもでも、その上で何かを今しなきゃ、私たちに“勝ち”はない……!)


 瞬間。

 なんでだろう。


 私は昔の、幼かった時の記憶をフラッシュバックした。



『ハッハッハ。これは出来損ないだよ』


 白の鳥籠で、大人の望む私であることに全力だった頃に聞いた言葉。

 白衣を着た男の人の、たったそれだけの言葉で。これまで私が積み上げてきた全部が一度、なくなってしまった。


 私に価値なんてないって、烙印を押されたあの日の言葉を思い出して――。



「――帆乃花!!」

「!?」


 命ちゃんの声で、現実に引き戻された。


木口くん「姫様たちの大舞台だ、雑魚共はオレたちで蹴散らす! 行くぞー!」

他の小隊の皆さん「「おおおー!! 天2最強! ハベベ最強! 準霊師最強ぉー!!」」


応援、高評価してもらえると更新にますます力が入ります!

ぜひぜひよろしくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
爆撃を相殺しあっている内に外のメンバーが何とかしてくれるといいのですが……
単発だったらそのへんの石ころ拾って投げても誘爆はできそうだが、そんなんでどうにかなるようにも見えんな…。 弾薬切れが困るならエネルギー兵器が有ればまだ戦えそうだが果たして…。
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