第151話 ダブルマッチアップ
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混沌とした戦局はなおも動き続けます。
神子島戦線最終攻略地点、桜花島。
まんまと釣り出された俺の後ろ。
神子島解放軍の本隊が、新たな亜神級による奇襲を受けた。
(……原作HVVでも戦える“海渡るオオカミ”や“空泳ぐクジラ”は当然として。まだ、海一つ越えた華国を攻めてる亜神級“凶獣”が呼び寄せられるってのまではわかる。だがっ!)
“偽りの妖精王”オーベロン。
人類が最初に目撃した亜神級ハーベストにして、西欧諸国を壊滅させた張本人。
史実でも最後の最後まで討伐されず、英国を地獄へと変えていた最大最悪の強敵!
それが今、なぜかこの場に現れ牙を剥き。
「どらっしゃああああっっ!!」
その出現とほぼ同時。
俺の本隊合流を阻止するかのようなタイミングで現れた、第一級重要存在!
「黒い精霊殻……“暗夜”! いや……黒い“明星”!」
神子島開放と同レベル、あるいはそれ以上に人類にとって大事な存在。
世界を救うヒーロー……真白一人を乗せた精霊殻が。
『終夜!』
「わかってる!!」
隠密からの不意打ちで俺に刃を振るい、それを払ったところに銃を構えて引き金を引く!
当たれば必殺大火力、短距離銃の“マシンマグナム”(要開発技能レベル4)!
「うおおおおおっ!!」
飛び退き、間一髪で撃ち出された弾丸を回避して。
「飛燕!」
遠隔起動させたサーフボード風移動アシスト契約兵器“飛燕”(要開発技能レベル4推定)に掴まり距離を取る。
「真白君!」
中空から見下ろして、オープンマイクで声を張る。
「今は俺たち戦ってる場合じゃない! 日ノ本軍の本隊が、このままじゃ危険だ!!」
一縷の望みをかけて訴える。
が。
「………」
「……クソッ!」
ドンッ!! ドンッ!!
返ってきたのは、追加の弾丸。
そして――。
ヴンッ!
「……黒木終夜、さん」
「!? 真白君っ!」
「僕はここで、アナタに……勝つ!」
――あまりにも強い、勝利への闘志だった。
※ ※ ※
「……いやいやいやいや。勝つとか言ってる場合じゃないんだって!! 真白君!!」
繋がった霊子通信越しに、遠慮なく声をかける。
海を越えるなら飛燕にしっかりと足で乗る必要があるが、それを相手が許してくれるとは思えなかったし。
「っていうか、RRはどこ行ったんだ!? あいつの傍にいるのは危険なんだよ!」
近くにあの女がいるのなら、今すぐにだって叩っ切らないと!
「教えてくれ、真白君! 今あいつはどこにいる? あいつはすぐにでも倒さなきゃいけないんだ!」
「……ごめんなさい、黒木さん。アナタにRRを殺させるわけにはいかない。それに」
気が逸る俺に対して意外にも真白君の方が冷静に、優しい声で語りかけてきて。
「大丈夫です。彼女なら……あそこですから」
「あそこ? ……あっ!?」
次いで、送られてきたモニターには。
「……みんな!」
晴れていく煙の中から、傷つきながらも無事な神子島解放軍本隊の姿と。
「……っ!?」
その守りを成し遂げたのであろう、謎のバリア膜めいた光を四散させ。
清白さんたちの豪風の肩に乗り、オーベロンと対峙する……RRの姿があった。
不意打ちかつ初見殺しの一撃から、みんなを守っていた。
「黒木さん」
機械を通して届く、真白君の声。
それでも俺には、その向こうで力強く顔を引き締めた、彼の顔がイメージできる。
「僕とRRは、対等です」
「!」
「彼女と取り引きをしました。僕がアナタに勝てば、彼女も話し合ってくれるって了解を得ています。その流れで、RRには日ノ本軍を手助けするよう頼んであるんです」
「………」
嘘……ではないんだろうと、思う。
少なくとも現時点でRRは俺を殺しに来ず、あそこで本隊を守ったのだから。
(頼まれたからって赤の一族相手に利敵行為やってんのは相変わらず意味わからないが、真白君のこの言い様から察するに、そうする理由も、事と次第じゃ教えてもらえるかもしれない)
あの日、確かにRRに俺の刃は通っていた。
だから手負いで来れないって可能性なら考えてたが、モニター越しの彼女は健在で。
それならそれで、あの時と同じように問答無用でぶっ殺しに来ると思ってたから、驚きである。
どんな魔法を使ったかのは知らないが、現状確かに、真白君が言った通り、話し合う余地があるように見えてくる。
(俺が負けたら話をするって、要は俺が戦えない状態……たとえば全身ふん縛られた状態とかなら、相手も話をしてくれるってことだよな。そりゃ随分とお優しいことで)
さすがはヒーロー真白君。
彼の言う通りにしたら、存外事態は上手いこと転がっていくかもしれない――。
『――死ね、黒木終夜』
『黒川めばえを、ラスボスにして……』
………。
「……で、どうですか? 今アナタが投降してくれたら、穏便に話が進むのだけど……」
「………」
「黒木さん?」
「………」
………。
………………。
……………………………………うん、無理☆
「ごめん、真白君」
飛燕から手を放し地面に着地して、呼朝を真白君の明星と向き合わせる。
「キミのその提案には乗れない。真白君のことは信じてるけど、RRのことは信じられないんだ」
そう。
俺にとってあいつは、絶賛ぶっ殺キャンペーン中の相手。
たとえそれで大事な情報を得られなくなるのだとしても、将来多くの犠牲を出す可能性があるのだとしても、絶対に阻止せねばならない未来を、あいつは口にしたのだから。
(話す気があるってんなら、聞いてやるさ)
だがそれは、あくまで俺主導の下で、実行したい。
しなければならない。
「……だから、真白君。キミが俺に投降してくれ。そうしたらキミを人質ってことにして、RRと交渉できる気がするから」
ってことで、こちらからも提案を返す。
けど。
「……ごめんなさい。それはできません」
黒い精霊殻が、静かに大太刀とマグナムを構える。
それは明確な、戦うという意志表示。
「僕は彼女と約束したんです。勝って、話をさせるって。黒木さんのやり方じゃきっと、彼女は納得しないから……!」
「……だろうな!」
交渉決裂。
(本隊は……よかった。ちゃんと動き出してる。だったら……!)
つまりは、当初の予定通り。
「真白君! 悪いがキミの精霊殻をぶっ壊してでも、捕獲させてもらう!」
「させない。僕はアナタに勝って、より良い未来へ手を伸ばす!」
ビッグオーダー“真白一人奪還作戦”の開幕だった。
※ ※ ※
私の、悪い予感が的中した。
「命ちゃん! サザンカちゃん!!」
「対爆防御、迎撃のミサイルを……!」
『ミサイル入力完了! デスガ、間ニ合ワ……!!』
突然の奇襲。
それも直上からの大量爆撃なんて予想外な攻撃に、それでも私たちは足掻こうとして。
「攻撃入力をキャンセルしてください。この一撃は、私が対処します」
「!?」
そこに聞こえてきた、どこかで聞いたような声と。
ヴォンッ!!
ボボボボボボババババッ!!!
直後。
花火のように弾け飛び、爆発していく大量のフェアリーたちを、青く輝く障壁が広がり受け止めたのを。
「……な、え?」
「これは……」
豪風のコクピットの中で、私たちは茫然と見つめることになった。
「……日ノ本軍のパイロットさん」
「!? は、はい!」
爆発の煙で視界が埋め尽くされる中、直接接触で飛んでくる短距離霊子通信に驚く。
それって、この爆発の中、豪風の外に誰かがいるってことだから。
「日ノ本軍のパイロットさん。私はとある理由で手助けに来た謎の人です」
「え?」
な、謎の人?
「詳しくは後程お話を聞く機会もあると思います。ので、私からはこれだけお伝えします」
謎の女の人の声は、戸惑う私に淡々とした口調で話し続ける。
「私にできるのはここまでです。あとは、貴女たち次第で未来は変わります」
「!」
「声の主をインカメラに!」
煙が晴れて。
命ちゃんが即座に、豪風に触れている人物をモニターに映す。
豪風の肩に、全身真っ赤な女の人が立っていた。
不思議と、怪しさよりも安心する気持ちの方が先に来た。
「では……」
「あっ!」
直後、赤い女の人はカメラから消え、サザンカちゃんのレーダーからも消失してしまう。
ヤタロウ君なら追えそうだけど、あの子は今、翼ちゃんを手助け中だったっけ。
「帆乃花様!」
「!? なに、命ちゃん?」
「先ほどの女性はおそらく、終夜様が言っていた対立者、RRだと思われます」
「あの人が……!」
「同時に、終夜様が桜花島にて黒の精霊殻と会敵しています。ですが、そのことは今、重要ではありません」
モニターに新たに表示されるのは、空の映像。
そこにはついさっき、とんでもない攻撃を仕掛けてきた、大きな妖精の王様がいた。
「対象は西欧方面で存在を確認されていた亜神級“偽りの妖精王”オーベロンだと思われます。現状、アレに対抗できるのは……」
「……うん。わかるよ。アレに対抗できるのは!」
即座にコマンド入力を開始する。
誰よりも早く、大きく動いて、アレの目を釘付けにするために。
「「私(贄)たち、天2独立機動小隊だけ!!」」
ドゥンッ!
「!?」
オーベロンの虫羽根を、翼ちゃんのライフルが撃ち抜く。
「ファァァァァィトォォッッ!!!」
「グボォォォーーー!!」
木口さんが、移動する私たちの前に立ち塞がった、大型の敵を引き剥がしてくれた。
それに合わせて、動きが止まってた他の解放軍の人たちも動き出して。
予想外の乱入者を交えての、戦いが再び始まった。
「行こう、命ちゃん! サザンカちゃん!」
「はい」
『了解ッ!』
嫌な予感は的中して、ここに黒木くんは来れない……けど!
「私たちだって、ハーベストハーベスター……ヒーローなんだから!!」
今までにないくらい、私のやる気はみなぎっていた。
次回より、オーベロン討伐戦開始!
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