第148話 神子島蹂躙戦
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神子島戦線攻略、開始!
神子島戦線。
日ノ本とハーベストの最大の激戦地にして、もっとも長く戦いが続く場所。
およそ10年にも及ぶ激闘は、数多の戦士の命を奪い、数多の悲劇を生み続け、そしてその何倍もの命を守り、悲劇を防いできた。
誰しもが……小説版においてはヒーローたちでさえも、真っ当に取り戻すことを諦めた、その場所を。
「日ノ本軍地上決戦用契約指揮車“鬼笠子”より、神子島解放軍総司令六牧百乃介が命じる! 全軍抜刀! 全速前進!!」
「「「おおおおおーーーーーーーーーーーっっ!!!」」」
今、人々は真っ向から奪い返さんとしていた。
5月9日。
この日から始まる『神子島奪還作戦』と記されるこの戦いは、しかし、後の世間ではこう呼ばれている。
その名を――“神子島蹂躙戦”と。
※ ※ ※
「おーっほっほっほ! 皆様ーー! 本日もこの私、天に輝くキララ星! 天常輝等羅が、絶好調で参りますわよ!」
「精霊楽士専用複座型精霊殻“響輝”、霊子音響快調。最大広範囲で奏でます、お嬢様」
「よろしくてよ細川! さぁさ、世界よ! 私たちの合奏を、よぉくお聞きなさいっっ!!!」
戦場に、雷音の如き演奏と、それに勝る高らかな歌声が響く。
精霊たちを、契約武装を強化する精霊楽士たちの魂の音楽は、最前線の戦士たちをどこまでも鼓舞し、踏み締める足に、振るい回す手に力を注ぐ。
「ここにこの私が、天常家当主天常輝等羅がいる限り! 人類に負けはございませんわぁ!!」
「うおおおおおおお!!!」
リアルタイムライブ配信によって戦場の天上高くに表示されるその英姿。
どこまでも高潔な態度で晒す、ボディラインくっきりの契約鎧と金髪縦ロール。
琥珀色の瞳に闘志を宿し自信に溢れた笑顔を浮かべるその姿は、まさしく戦場に舞い降りた戦乙女。
「前進ですわ! 私たちの護衛は頼みますわよ、一二三さん!」
「了解ッス」
お供に専属の従士を連れて、戦乙女は堂々と前線を押し上げていく。
「テンション、上げて参りますわよ! 2曲目は一夜志基地救護隊第3班、九條めぐぐさん他多数からのリクエスト『マジ神☆まじかるーぷ』で行きますわぁっっ!!」
「「うおおおおおお!!!」ですー!」
最初からクライマックスだとばかりに轟くアップテンポの歌声が、停滞していた戦場を揺さぶり、目覚めさせた。
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「こちら解放軍第6機動小隊! 押されている!!」
「くっそ、やたら数ばかり揃えやがって!!」
日ノ本軍とハーベスト、彼我の個体比1:8。
圧倒的な数の暴力を前にして、日ノ本軍の精兵も悪態を吐く。
「攻撃を集中させろ! とにかく数を減らしていけ!」
「了解!!」
響く歌声、適切な作戦指示を受け、彼らもまた最善を選んで立ち向かう。
そこへ――。
「――こちら天2独立機動小隊。援護します」
「おお! 天2の援軍か! 最新鋭の精霊殻なら……ぁ?」
聞こえた声に歓喜するも、辺りに自分たちの駆る精霊殻以外の影はなく。
「西住百剣長! 下です!」
「下? あっ!」
よもや幻聴かと落胆しかけた彼らの目に入ったのは、一人の機動歩兵。
青く輝くパワードスーツが、両のこぶしを打ち合わせていた。
「行くぞ! “開新”!!」
胸元に掲げる緑のパワーストーンを輝かせ、男が駆け出す。
「疑似超過駆動! うおおおおおお!!!」
猛る筋肉の躍動! ブースターの如く迸る緑の燐光!
小さな影は、大量の敵が固まったそのど真ん中へと飛び込んで!
「唸れ、我が全身の筋肉! 精・霊・拳!!」
ドゴォォォッ!!
放ったこぶしが、まるでボーリングのピンのように敵の群れを吹き飛ばす。
「あれが、機動歩兵のハベベ持ち……木口、猛……」
「これが……あの日聞いためばえの、緑の風の未来か……!」
もはや小さな精霊殻とでも呼ぶべき力の奔流が、援護どころか勝利への道を切り拓く。
「俺たちも続くぞ! 第6小隊……いや、ムサシ隊の意地を見せてやれ!」
「「了解!!」」
戦場を舞う英雄の輝きは、さらなる英雄たちの活躍を呼び込んでいく。
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「西野、テイラーソン! どうせボクたちのエースはいつも通り時間いっぱい戻って来やしないだろう。事前の打ち合わせ通り、他の整備の手伝いをして回るぞ! 竜胆、お前もだ!」
先行する解放軍を見送った、一夜志基地近郊の臨時拠点。
手早く整備設備を展開し、負傷、損傷した兵や兵器を修繕する天2整備班。
「了解了解。うひー、結局地獄みたいに働かされてるじゃねぇか……っと、そこ! 配線間違ってるぜ。焦らなくてもうちのエースが何とかするからよ。落ち着いていこうぜ」
「了解、千代麿様! はーい! 私のフォロー、欲しい人ー!! わお! いっぱい! 一つずつ回っていくね!」
「はぁい。機動歩兵のみんなぁ~、一列に並んでくださぁ~い! あ、ダーリンが最優先なんで」
事前に根回しを済ませていたのもあり各部隊への支援行為は自然と受け入れられ、その結果、戦線復帰にかかる時間が通常の半分程度まで早まっていた。
「テマリ、すまないが先行して損傷の激しい機体をチェックしておいてくれ」
『キュゥッ!』
中でも整備士として天才的な才覚を持ち、かつ整備系と相性の良い玉兎と精霊契約を結んだ佐々千代麿の動きは、まさに鬼に金棒、水を得た魚の如く猛威を振るった。
「くっ、こんなのどうやって直せば……!」
「任せろ。ここはまずこのコードとこちらの接続を復活させて――」
「無理よ、こんなのっ! 失敗したら爆発のリスクだって……!」
「ん? ああ、これはまず先にこちらの伝達系をこうやって遮断して――」
「なーんか腕に違和感あるけど、ま、大丈夫大丈夫……」
「あっ! こら! 馬鹿者! その契約鎧、整備不十分じゃないか! あそこのゴスロリが目立つ彼女のところへすぐに行ってこい!」
八面六臂、大車輪の大立ち回り。
鉄とコンクリートの世界の中で、ひときわ目立つ紺碧の髪が踊り舞えば。
「て、天才だ……!」
「しかも去り際、優しく労って褒めてってくれる……!」
「さすがは“教育の佐々”の次期当主」
「あんな華奢な体のいったいどこに、あれだけの力が眠っていたというのだ……?」
「でも、彼がいれば整備班はこれまで以上に……回る!」
「あぁ……青髪の、王子様……っ!」
誰しもがその雄姿を認め、同時に理解する。
最前線に天常家在りと語るなら。
最後尾には佐々家が在り、日ノ本軍は盤石なり、と。
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「ロック、シュート!」
「ドラゴンが、一撃で!?」
「はぁーいお嬢さん。この地図の通りにマーキングを破壊してきてくれるかい? この先へはボクが代わりに行くからね」
「きゅんっ!」
「ちんたらしてたら置いてくぜ先輩! オレたちゃスピード第一なんだからよ!」
各地で、彼らは暴れまわる。
「はいはーい、情報処理部のみんなー。タマちゃん印の新アプリ使ってねぇ♪」
『よぅ! 霊子妖精クマモノくんVer3だ。ヨロシクな!』
「ぎゃっ! システムが乗っ取られ……すごい勢いでデータが処理されていく!?」
「この身に治癒の緑の力を、転身! ……手傷を負った人たちを集めて、気力が続く限りは治療するわ!」
「「はいお姉さま!」」
一人一人が一騎当千。一人一人が独立独歩。
それぞれ最強。
それぞれ有能。
いったいどんな運命が彼らを導いたのか。
その小隊を構成するすべての戦士が、英雄と呼ぶにふさわしい活躍を果たしていく。
その結果――。
「――か、神子島解放軍。予定の3倍以上のペースで進軍しています!」
「早すぎる!! 戦線が伸びてしまうぞ! こんな無茶な進軍、負傷者どころか死者も出る!」
「……いえ、いえ! 彼らが進軍している戦場に……死者、及び敵の討ち漏らし、ありません!」
「なぁんだってぇぇぇ!?」
戦いぶりを見守る元神子島戦線総司令は瞠目する。
ここまで、変わるのか……と。
長きに渡りこの地を守ってきた老軍人の誇りが、しかし目の前の奇跡に圧倒される。
「これが上天久佐第2独立機動小隊……六牧準霊師の手腕、か」
「はい。さすがは3度“魔術師の杖勲章”授与相当の方の名差配かと」
「フッ。若き昇り龍が如く、であるな」
老軍人の目が、一つのモニターを注視する。
それはとある追従型ドローンが映す、およそ信じられない情景。
楽士の歌声も届かず、指揮圏からも外れた場所へ真っ直ぐ突き進む、2機の精霊殻の姿。
「関ヶ原んときの島津は……あんな感じだったんかねぇ?」
老軍人の呟きに、隣の秘書官は答えない。
ただただ彼と一緒になって、黒犬印のドローンが映す“生中継される奇跡”をジッと見つめていた。
※ ※ ※
最前線の最前線。
これまでは日ノ本の戦士が隠密しながら潜り込み、哨戒を重ねるだけだった場所。
黒い精霊殻が暴れ、敵を蹴散らしたと言ってもそれは、全体のほんの一部分。
数えきれないほどのマーキングが敷かれ、多くの精霊級ハーベストが蠢くこの世の地獄は、今……。
「……ヒャッハー! 蹂躙だぁぁぁぁ!!!」
「できるよ、命ちゃん!」
「マルチロックミサイル、発射……!」
粉砕。爆砕。光になれぇぇぇぇ!!
「シャグアアアアッ!」
「ブルヒヒィィィンッ!!」
「グルギャオォォォォーーーーーーーーン!!!」
俺と清白さん、姫様で。
絶賛お掃除中だった。
(昨日俺が帰るついでに打ち込んでおいたアンカーを辿っての先行軍。急ぎの戦いとはいえもうちょっと苦戦するかと思ったが……)
ひとつ、嬉しい誤算があった。
「次弾装填! サザンカちゃん、まだまだ大丈夫だよね?」
『問題アリマセン』
「では次は、3秒後に発射いたします」
豪風に乗った清白さん&姫様ペアが、なんか確変を起こしている。
具体的には、連携の練度が二段階くらい上がっている。
「すごいすごい! 私、命ちゃんに付いていけてる!」
「正直に言って、驚きです。前よりも思い切りがいいというか、帆乃花様の操作から迷いが減っておられます」
『事実、昨日ニ比ベ、オ二人ノ入力速度ガ23%上昇シテイマス。控エメニ言ッテ、つよつよ、デス』
「マジか……」
前日比1.2倍!?
いったい何があったのか、変わったのは清白さんっぽいが……。
『終夜』
「ん?」
『私たちも負けてはいられません。実力差を示す“わからせ”を提案します』
「おおっ」
触発されて、ヨシノもやる気を出している。
精霊は機嫌がいいと実際スペックが上がるっぽいし、こういうのは大歓迎である。
俺の中にいるっぽいご機嫌なユメも、スペックが上がっている。
「OK。それじゃあ俺たちもやるぞ! 限界突破駆動!」
『了解。リミットを……5分に設定。少し多めに負担を任せます。よろしいですか?』
「問題なし! ぶち転がすぞ!!」
呼朝の全身に緑の燐光をまとわせて、飛び出す。
「ああっ?! 黒木くん!!」
「追いましょう」
豪風を置いて、ずんずん前へ。
「ぶっぱなすぞ! コマンド入力、S・O・N・B!」
Sprit of Night Break.
機体を限界突破させての全力突撃!!
「おおおおおおおーーーー!!」
派手にかまして、いったいどれだけ巻き込んだか数えるのも面倒くさい数の敵をぶちのめし。
「うおおおおお! まだまだぁぁぁ!!」
目指す決戦の地。
桜花島へと向かって、確実に歩みを進めるのだった。
今の天2がパーフェクトに準備できるとこうなります。
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