第144話 月夜の邂逅
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ついに出会った主人公(本作)と主人公(原作)。
2020年、5月。
月の大きな夜。
隈本・神子島の県境にあたる山の片隅で。
「「………」」
このHVV世界で前世の記憶を手に入れてより延べ6年。
俺は、とうとう――。
「――改めて。会いたかったぜ……真白一人!」
真の主役と、顔を合わせた。
「……っ」
精霊殻のコックピットを開け、その肩にへばりついた俺を見上げる真白君の表情は硬い。
明らかな警戒と、不審。そして困惑の目が俺へと向けられている。
“どうしてここに?”“何が目的で?”“自分をどうするつもりだ?”
考えてるのは大体この3つだろうか。
小説版HVV戦役編終盤の、追い込まれたときを描いたイラストを思い出す。
あれはたしか、戦いたくない相手と戦わないといけない迷いがそうさせていたっけか。
(正直、生で真白君のガチ顔拝めるだけで感謝の五体投地したいくらいの気分だが、それができるほど神子島戦線は甘い場所じゃあない)
周囲を警戒してくれているヤタロウから、イエローアラートが届いている。
これがレッドになる前に、少しでも多く彼と言葉を交わして交渉を進めないとだ。
幸い今ここに、白衣の男はいないっぽい。
盗聴とか突然沸いてくる可能性はあるにはあるが、ここまで来たらやるっきゃない。
(そのためには、まず……警戒を解いてもらわないとな!)
大丈夫。
今日までずっと真白君の生存を信じ、出会えたときに何を話すかは決めてきた。
ここまで集めた情報、考えられる状況、それらをこねてこねてこね回し。
そうしてとうとう導き出した、俺が彼に告げるべき第一声は…………これだ!
「真白一人!」
「!?」
「俺は、キミがヒーローだってことを知っている!」
世界を救うのは俺じゃなく、キミだ。
だから、その力でこの世界を――。
「………ッ!」
――あぇ?
なにその、すべての覚悟を決めたイケメン顔。
風が吹き、彼の白く短い髪が月明かりを反射する。
「……来い! “精霊纏い”!」
「!?」
真白君の手に、突如として古めかしくも美しい、一振りの刀が握られる。
それは、俺が知識として把握している……把握しているが。
「霊刀“蛍丸”だってぇ?!」
ここにあるはずのない武器だった。
※ ※ ※
「はぁぁぁぁっ!!!」
「ちょ、まっ!!」
裂帛の気合とともに、我らがヒーロー真白一人君が突きを放ってくる。
明確な殺意と覚悟を持った必殺の一撃。その手にあるのはチート武器。
「うおおおっ!」
スァッ!
とっさにワイヤーフックを使い無理矢理に下がれば、さっきまで俺がいたところを寸分違わぬ鋭さで、彼の刃が貫いた。
(蛍丸……蛍丸だと!?)
動きを止めた黒い精霊殻の腕の上、肩に上った真白君と距離を取りつつ息を整える。
本来ならこの場所にないはずの武器の登場に、混乱した頭をまず冷静にさせないとマズい。
(あれは、防御がどうとかいう奴じゃない。触れたらアウトのヤベェ奴だ……!)
命の危機に、俺の心臓はどくどく激しく脈打っていた。
霊刀“蛍丸”。
ゲーム版HVVにおける隠し武器の一つで、正史の小説版にも登場したクソつよ武装だ。
(歴史の表舞台から失伝した刀であり、その実、大阿蘇様が管理する祠に納められた強すぎる武器だ)
曰く。
蛍火の如く霊気を放ち、いかなる守りも意味をなさない一刀である、と。
そのあまりの強さに大阿蘇様が認めた者しか使うことを許されないって設定もあって、ゲームじゃこれを手に入れるにはまず建岩の姫様と恋仲になり、かつ大阿蘇様御目通りイベントをこなし、さらに機動歩兵で500体撃破を達成する必要がある。
小説版では真白君が豪風から明星に乗り換えた際に大阿蘇様から姫様へと与えられていて、戦場に機動歩兵として参加する姫様の、頼りになる護り刀として活躍していた。
(ゲームじゃ各種斬撃コマンドに追加で気力を消費するようになる代わりに、敵の防御無視して火力素通しになる契約兵装だった。これ装備してバイクに乗ったら、機動歩兵が別ゲーじゃねぇのってばかりに近接無双できるんだよな。ドラゴンサクサクだし亜神級ともやり合える)
お。
なんかゲームのこと思い出したら頭が冷静になってきた。
おかげでようやく、俺は目の前の状況を把握し始める。
(おそらく、真白君は俺がラスボスだってもう、知ってるんだな)
ヒーローはラスボスと戦い、決着をつけねばならない。
それが六色世界の奴らが定めた、このHVV世界に今蔓延る戦いを終えるためのルール。
多分だが、それを彼のバックに立つ何者かからすでに聞かされているのだろう。
(ラスボス候補な俺に接近されて、決戦を嫌でも意識して。けれどもだから、さっきは迷って、今は覚悟を決めている)
注目点は、さっきと今の、真白君が見せた表情の違い。
その変化の原因は、俺が示した立場の違いだ。
(黒木終夜が何も知らない様子なら、まだ、ラスボス候補。絶対になるわけじゃないって言い訳ができる。だが、当の俺がヒーローの概念を、世界の真実を知っているなんて言っちまったものだから、彼の中で俺のラスボス度数がグーンと上がってしまったワケだ)
と、ここまで考えて俺は一つの結論を得る。
(……少なくとも、洗脳されているわけじゃなさそうだ)
あくまで推察に推察を重ねるレベルの思考だが、それでも長年HVVコンテンツを楽しみ尽くした前世知識が言っている。
(世界の敵……ラスボス候補にまで情けを見せるとか、すっごいらしいじゃん)
今の彼はあまりにも、俺の知っている真白一人その人だったから。
「………」
冷静に構えを取って、いつでも俺に立ち向かえるようにし続ける真白い髪の真白君。
彼の濃い黄金色の瞳は、俺を切る覚悟を持った今でさえ、そうすることへの悲嘆が見える。
作中で一・二を争うお人好し。
誰よりも明るい希望を胸に抱き、夢に向かってひた走る、根っからのヒーロー気質。
何度も何度もともに戦場と青春を駆け抜けた、ゲームにおけるプレイヤーの分身。
(だったら、俺は――)
彼に対して取るべき行動は、これでいい。
「……え?」
「俺は、キミと戦うつもりなんてこれっぽちもない」
契約鎧を脱ぎ捨てて。
「だから、話をしようぜ。俺と、キミとで」
無防備に足を投げ出す姿勢で、黒い精霊殻に腰かけて。
(今……ドラゴンブレスの直撃とか食らったら、さすがにヤバイな)
なんて、思いながらも胸を張り。
ハッキリと、言ってやる。
「そっちはそのまま構えてくれてていい。俺はラスボス候補だが、ラスボスになる気はゼロなんでな。ラスボスになるくらいなら、キミに殺された方がマシだ」
「!?」
俺の本心からの言葉。
彼の心根を信じて、すべてを委ねる。
「そ、れは……」
それを聞いた彼の瞳に、再び深い迷いの色が浮かんだのを見て。
(……ああ、俺やっぱ真白君のこと嫌いになれないわ)
なんて。
久方ぶりの純粋な推し活魂で、心が満たされるのを感じた。
※ ※ ※
「さて、そんじゃどこから話そうかね。正直、今の真白君に関してはさっぱりなのよ」
「………」
衝突の気配はもうない。
真白君は刀を構えたままだし、彼の口も重いままだが、それでもその切っ先が俺に殺意を向けていない。
「だからまず、お互いに自己紹介から――」
そこまで口に出した、次の瞬間。
「――死ね、黒木終夜」
「!?」
目の前が、赤一色に染まった。
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