第142話 緑の風、前進!
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さあ、夜だからやりたい放題よー。
月明かりの下を駆ける。
アスファルト敷きの基地から飛び出せば、地均しされたハゲ山とかろうじて残る樹木に包まれた山々とが織りなす、戦場へ続く曲がりくねった道が拓かれている。
「ッシ! 速度、上げてくぜ!」
身にまとう新しい契約鎧に備わった機能をONにして。
戦いにおける相棒へと声をかける。
「手を貸してくれ、ヨシノ!」
『……これは、少々勝手が違いますね』
頭に響く返事があった。
だが、その声には幾分かの困惑が含まれている。
「やっぱり精霊殻じゃないと難しいか?」
『……いえ、いえ。問題なく舞ってみせましょう。私の舞踏は、常に貴方と共に』
何だったらその辺オールマイティなユメに頼ろうかとも思ったが、そこは戦闘センス抜群の戦闘特化な精霊殻の精霊さん。即座に契約鎧と繋がって、疑似超過駆動システムにも対応してみせる。
さすがはヨシノ。おかげでグッと、体が楽になった。
「よっしゃ、ダッシュだ!」
『参りましょう』
加速と同時に緑の燐光が舞う。
精霊殻とは違い、肌に直接空気が当たる感覚を楽しみながら。
「目指せ、神子島最前線!」
『はい』
跳ぶ。
木々から木々へ次々と飛び移り、そのしなりを使って山から山へ。
「うおおおお! この新型契約鎧、超動きやすい!! よく伸びるし対衝撃性能も段違いだ!」
『同調誤差修正。終夜。次は、さらに加速できます』
物語の忍者みたいに夜の闇を駆け、山々の道なき道を最短距離で、静かに派手に跳んでいくのだった。
※ ※ ※
「……っと、いけね」
だいたい3つくらい小山を跳んだあたりで、俺は思い出しざまにそれを装備する。
「これでよしっと」
スチャッと頭に装着したのは、新開発の機動歩兵用インカム付きヘッドバンド。
腕に付けてる結晶端末と連動し、なんと、中継器なしで通信できるようになる優れモノ!
これさえあればたとえ敵陣深くに突っ込みすぎても、オペレーターの、つまりは指揮車からの司令官バフが貰えるのだ!
え、普通は連絡取れない指揮圏から出るワケがない? それはそう!
「あーあー、こちらアンチェイン。コントロール、どうぞ」
事前に決めてたコードネームに従い、設定されたチャンネルへ霊子通信を送る。
すぐさま左耳に取り付けられた受信機越しに、相手からの返事があった。
『はぁい。こちらコントロール。って終夜ちゃん、もうそんなところまで行ってんの? ヤバぁ……』
「これなら目標地点まで1時間もかからないと思うから、そのつもりで頼む」
『……だってさ、姫様。こりゃ、さすがにわたしたちじゃ付いていけなかったねぇ』
『いいえ、いいえ。この贄、終夜様にお許しさえいただければ、この身が千切れても同道いたしましたよ。タマちゃん様』
返事の声は2人分。
タマちゃんと姫様、今回俺のオペレーターとして支援してくれる二人だ。
(ふっふっふ。俺とて成長している。ただ独断専行するもんかよ)
天久佐撤退戦のときは、それで天2のみんなを思いきり心配させたからな。
今回はきっちり、協力を仰いで行動している。
(まぁ、全員に伝えたワケじゃあないがな)
あくまで独立先行の隠密任務。根回ししたのは最小限。
六色世界絡みの情報を共有している姫様を筆頭に、情報の扱いが天才的かつ面白そうだからってノッてくれそうなタマちゃん。そして……。
『さっそく今夜調べに行くのか!? いや、お前ならそう言うか。……よし、このボクに任せろ! このボクに、な!』
上への根回し全般を佐々君に任せて、俺は今回の行動に移った。
今の俺はあのころとは違う。
頼れるところは頼り、最善の手で目的へ向かうのだ!
『にゃふっふ。それにしても、終夜ちゃん。姫様から聞いたよぉ? この世界には上位世界があって、その世界からの干渉がこの戦争を起こしてるってさぁ。とんでもない話じゃない?』
「あ、姫様タマちゃんには話したんだな?」
意外にも、姫様がタマちゃんと情報共有していた。
『はい。タマちゃん様が情報の扱いを失敗することはないと、贄は確信いたしましたので』
『にゃはっ。そう言われると照れちゃうと同時にプレッシャー感じるねぇ』
風を切るほどの速さで移動しながらも、二人の声はよく聞こえる。
『……ほんと、世界ってば面白いじゃん』
世界の真実を知ったであろうタマちゃんの声は、ほんの少しだけ震えていた。
「その辺わかってるなら話は早いな。俺がこれから会いに行く推定真白一人君は、その戦いを終わらせるキーパーソンなんだ。最低でも接触、コンタクトを取って……可能なら日ノ本軍に合流してもらえるよう交渉したい」
『ういうい。姫様にもちょろちょろ調べてってお願いされてたからねぇ。真白一人君についてはわたしもある程度把握してるよん。もしも彼が終夜ちゃんの言う通りの人物なら、確かに例の謎の精霊殻に乗って無双してるって可能性はあると思う。利用されてる可能性も含めて、ね』
「確証はないが俺の直感がそう言ってる」
事の真偽は、実際に確かめてから見極めたい。
何においても、ヒーローの存在は、真白一人の存在は、今の俺の最優先事項だ。
『終夜様がそう仰るなら、確かめる価値はあると思います』
『同意見! ってなワケで。対象の捜索と戦場でのサポートは、タマちゃんにお任せだよぉ!』
「感謝する」
ここにきて強めに信頼できるサポートを得られたのは行幸だな。
単に技術だけ当てにするより、いくらも心が軽やかだ。
『ってことで、その先からはもう前線だよ。目標地点はまだ奥だから、切り抜けてってね! コントロールオーバー、どうぞ!』
「応っ! アンチェインオーバー!」
軽やかな気分のまま、幾度目の大跳躍。
肌に感じる冷たい空気に、異質な熱と、金属の香りを認めて。
「ヨシノ! 蹴散らすぞ!」
『存分に』
忍者タイムはここまで。
ここからは、緑の風のお通りだ!
※ ※ ※
「ピギィィィ!」
「ゴブギャアアーーーー!!」
「GIYAOーーーーーー!!!」
「グボォォォーーーーーーーー!!!」
俺の耳に、ハーベストたちの断末魔が真っ直ぐに届く。
「フェアリー、ゴブリン、ゴーレム、キマイラ……妖精級ばかりじゃあなぁ!」
最前線までまだ遠い。
こんなところの敵の大小なんかに区別なく。
等しくみんな、雑魚である。
「な、なんだぁ!?」
「何かが、何かが物凄い速度で移動して……敵を蹴散らしているだとっ!?」
「お、おおっ。支援感謝する! 味方識別は把握しているが、所属を教えていただきたいっ!」
ゴーレムに押されてた、大型盾を持った精霊殻を助けたところで通信が来た。
「タマちゃんヨロシク!」
『ういっ』
戦いに集中したいから、その手の連絡はタマちゃんにお任せ。
「GAOOOONッ!!!」
「GUROROROッ!!」
「どっせぇぇぇぇい!!」
俺を格別の脅威とみなし畳みかけてきたゴーレムの群れを、DO-TANUKIによる返す刀で切り抜けて。
「は、はぁ!? 緑の風ぇっ?!」
「表示された黒犬のエンブレム、間違いありません! 緑の風、ハーベストハーベスター……天2の黒木終夜千剣長です!」
驚くパイロットたちを尻目に、俺は消え行くゴーレムの背中を蹴って、さらに前へと飛び出した。
「うおおっ、緑の何かが駆け抜けてった!」
「ぐああああ! もうダメだぁぁ……!!! ……あれ、死んでない?」
「くっ、こっちに新手が……って、あれ? 消し飛んでってる?」
ざわ、ざわ。
戦場が、ざわつき始める。
「え、なんだあれ?」
「機動歩兵が前線に? 夜に!?」
「なんだあれ、なんだあれ!?」
行く先々でついでとばかりに敵を討ち、ちょっと脇道寄り道繰り返しつつ。
「た、隊長! 個体識別情報来ました!」
「あれは何……って!? 緑の風!?」
「黒木終夜千剣長……って、パイロットですよね!?」
「なんで契約鎧で戦ってるんだ?」
「いや、そもそも予定じゃ今日一夜志に来たばかりのはず……!?」
ちょっとずつ、俺のことが周知されるごとに、目の前が拓けていく。
「開けろ開けろ! ハーベストハーベスターのお通りだ!!」
「彼の前の敵は放置でいい! ぶち抜いてってくれる!」
「噂通りの化物……いや、英雄だ! 緑の風を見逃すな!!」
気づけばもう、真っ直ぐ進むだけでよくなっていた。
『あーい、終夜ちゃん。後はよろしくねぇ』
『存分に力をお振るい下さい……終夜様』
「了解っ!」
破損した剣を捨て、新しいDO-TANUKI……新開発のMK-Ⅲを呼び出して。
「ヨシノ! “精霊羽織り”で行く!」
『お望みであれば、幾刻だろうと重ねましょう』
疑似超過駆動を超えた大出力で。
「うおおおおおおお!! めぇばぁえぇーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」
やっつけ負けなどあるものか。
いつか、八津代城址で見合った奴らもかくやな群れを、真正面からぶった切り。
「ピギャアアーーーーーーーーーー!!!」
「GIYAOーーーーーー!!!」
「グボォォォーーーーーーーー!!!」
「前進、前進! 前進だ!」
緑の燐光撒き散らし、俺は神子島戦線最前線へと向かうのだった。
天2が参加した戦闘からは、犠牲者が出なくなるそうです。不思議ですね。
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