第141話 大作戦を前にして
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天2はいつも通り。終夜もいつも通り。
「贄はこれから青井大阿蘇神社へと挨拶してまいります」
「私は……はぁ、撮影と交流会が予定されてるからあっちの療養区画ね。……古巣だし、懐かしい顔にも会ってくるわ」
「お二人とも晩には戻られまして? せめて今日の夕食くらいは一緒に食べたいですわ」
「善処いたします」
「そうね、私も何とかするわ」
天2メンバーの中でも少々特殊な位置にいる、姫様とパイセン。
二人と早々に別れてから、俺たちはさらに大きく二手に分れて行動を開始する。
「それじゃ整備士チームはこのボクに続け! 天2の前線は誰も彼も無茶するからな、柔軟に対応するためにも、現場ときっちり話し合って任せられるところは任せられるようにするぞ! 手果伸はこっちだぞ!」
「私たち戦士チームはいち早くここの空気に慣れますわよ。訓練場はすでに予約しておりますので、各自契約鎧を装着後、用意したメニューをこなしましょう。黒川さん、万一のケガへの対応お願いいたしますわ!」
整備士チームは装備の整備と現地スタッフとの連携強化。
戦士チームはとにもかくにも現場慣れするための調整に入る。
当然俺はめばえちゃんのいる方……もとい、戦士チームとして訓練に参加。
一夜志の空気、というか、激戦区にほど近い場所特有のピリピリとした気配に身を慣らす。
「おい、あれ見ろ」
「あれが天2か……噂通り若い奴らしかいないな」
「ハーベストハーベスターを複数擁し、天久佐撤退戦を奪還戦へと変えた英雄たち、か」
神子島戦線を支えた先達からの熱い視線を浴びながらの訓練は、いつもと違った緊張感がある。
「あ、あわわ……な、なんだかむずむずする」
「ちょっと、不躾な視線多いッスねぇ」
っていうか、ちょっと、視線が多い。
「あれが清白帆乃花……小柄だが出るところ出た美少女ってのは本当だったか。……眼帯は謎だが」
「そのお隣のお嬢さんも、顔には野暮ったさがあるが、スレンダー美人なボディとのギャップがいい」
「天常様は相変わらずお美しい。いつでも自らを誇っておられる姿はまさに美の女神だ」
「甘いな、木口万剣長の筋肉こそ誇るべき美だ」
これは……アレだ。
「はぁ、乃木坂君。161小隊の子と付き合ってるって本当かなぁ」
「イケメンゲット許すまじ……!」
「やはり我々に残された希望は鏑木の嬢ちゃんしか……」
「あの子付き合うなら年収1千万が最低ラインだってよ」
「終わった」
いわゆる……ミーハーな視線って奴だ。
同じく訓練場を使っている他の戦士たちからの、男女問わない様々な目と言葉が、俺たちへと向けられていた。
(来てすぐはここまでじゃなかったよな。あっちは裏方さんメインだったが、実際に戦ってる戦士連中はこんな感じか)
正直、悪くない。
この最前線で戦い以外に意識を向けられるってことは、余裕があるってことだから。
日ノ本における海千山千のベテラン戦士たち。
一番の激戦区を守る彼らにこれだけ軽口を叩く力が残っているのは、素直に喜ばしい。
「うぅ、黒木く~ん」
このタイプの注目には慣れてなかったか、悲しみの子犬フォームになった清白さんが寄ってきた。
が。
「有名税有名税。むしろ普段からパイセンや天常さんがやってるようなことだからな。見せつけるくらいのつもりでいような」
「えぇ……」
これはもうしょうがないと割り切って、我慢するように伝える。
いつかの出陣式の時のように、俺たちはせいぜいみんなを鼓舞して、元気になって貰うのだ。
「彼らにとっちゃ俺たちはみんな、ヒーローみたいなものだからな。胸張って、人類の希望ここにあり! ってくらいで行けばいいさ」
「……そっか。私たちはヒーロー、人類の希望」
「そうそう」
納得がいった様子で頷く清白さんに、景気づけにと組手の相手を頼まれてこなしつつ。
興が乗って“精霊羽織り”を使いだしたところで、天常さんから「やりすぎですわ!」と叱られた。
気づくと俺たちに向けられていたミーハーな目は、影も形もなくなっていた。
※ ※ ※
夕食時。
俺たち天2メンバーは、宛がわれた宿泊施設に全員集合し、そこでささやかながら歓待を受ける。
本作戦に伴い改・契約機関車による地上輸送が復活し、物資の流通がより活発になったことで、今後は一夜志の人たちの環境もさらに良くなるそうで。
その復活に尽力した御三家を含む俺たちを、一夜志に残り軍を支援していた現地の人たちが、特に応援したいという想いでこの歓待は催されたものだった。
つまり、遠慮は無用。
「「いただきます!」」
出されたご馳走を存分に食べて!
クマ川水系の恵みをたっぷり使った美味しい飲み物を存分に飲んで!
「オリヴィア・テイラーソン!」
「手果伸珠喜!」
「「歌います!!」」
やんややんやと、キャッキャキャッキャと。
歌えや踊れやの大はしゃぎ。
「ふぅー……やっと一息つけた」
少し遅れてやってきた六牧司令も、クマ川由来のお酒を堪能し。
「みんな、楽しめてるみたいね」
「九條様もどうぞ、羽を伸ばしてください」
「あなたもね、命」
大作戦を前にして、天2のみんなでしっかりきっちり英気を養った。
「く、く、く、く、クマモノく~ん♪」
「いつかは世界を塗り替えた~い♪」
「………」
パチパチパチ。
你的全部最高、我愛你。めばえちゃん。
拍手の手を打つ彼女もまた、この輪の中に自然と溶け込み楽しんでいて。
(同じ大決戦前だってのに、こんなに心持ちが違うとはなぁ……)
ブランド柑橘100%ジュースを飲みながら、俺はかつての天久佐撤退戦の頃を思い出していた。
(未来が見えないのはまったく同じなのに、今の俺のこの余裕ったらなぁ)
肩の荷が下りている、とでも言うのか。
少なくとも今、一番ラスボスに近い位置にいるのが自分で、そのおかげで最推しが踏み台になる運命から遠ざかっている。
それがわかっているだけで、こんなにも気が楽になるのか。
(今の俺には、あの頃よりももっとたくさんの力が備わっている)
ステータスも、武装も、仲間も。
すべてがあの頃からさらにパワーアップして、ここにある。
(あと足りないのは……切り札だ)
推しの未来を守るために、この世界を守る。
そのために必要で、今この手にない最後のピース。
(ヒーロー……真白一人)
世界を救う鍵であり、白の一族が用意した対赤の一族への対抗者。
(新姫様は真白君がヒーローだってことは認知してたが、今現在彼がどこにいるのか、その存在を見失っていた。その上で、神子島に出たという謎の精霊殻を操る謎のパイロットの存在について)
推定真白一人君について、考えを巡らせる。
(十中八九、赤の一族が……いや、白衣の男が噛んでいる)
操ってるのか導いてるのか、手段や状況についてはわからないオブわからない。
だが、何らかの手段でもって、白衣の男は真白君をコントロール下に置いていると思われる。
そうして独自に用意した精霊殻に搭乗させて、おそらくは彼を……鍛えているのだ。
だがここに来て、なぜ? という疑問が浮かぶ。
(ヒーローなんて、弱っちければ弱っちいだけ赤の一族的には有利だよな?)
ラスボスとヒーロー。
最後に雌雄を決する存在の戦いは、そのまま六色世界の二つの一族の争いの決着を意味する。
だというのにわざわざ敵に塩を送る様な真似をするのは、どういう理屈なのか。
何かの実験・検証なのか、それともただの気まぐれなのか。
(より大きな混乱を。より大きな戦いを。より派手に、より白熱する物語を。……これが全部、白衣の男の思惑通りってんなら、マジで話が読めないな。勝てなくてもいいのかあいつ? それを他の赤の一族も許容してるってありえるのか?)
史実にはいなかった謎の存在、白衣の男。
ゲームや小説とは違う、現実の世界だからこそいるのだろうイレギュラー。
あいつが何を考えていて、何を考えていないのか。
あの存在がどこまでこの世界を掻き回しているのか、俺にはいまだ想像しきれていなかった。
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「……ともあれ、今は目の前の手がかりを頼るしかない、よな?」
気づけば宴もたけなわで。
はしゃぎ疲れたり酔い潰れたり、あとはゆっくり夢の中。
楽しみまくった天2メンバーは明日に向けて就寝する。
「おやふみぃ、黒木くぅん」
「終夜、あなたも早く寝なさいね?」
ふにゃふにゃの清白さんに圧し掛かられる格好で背負うパイセンと別れて、一人。
「……月が綺麗だ」
見上げれば青白く輝く月が、きっといつかと変わらずに一夜志を照らしていて。
「……よし」
そんな夜空から視線を戻し、軽くストレッチして体をほぐしてから――。
「――“精霊纏い”」
俺用に新しく用意してもらった契約鎧『同心』を装備して。
「……レッツ、ゴー!」
一夜志基地を出発。
俺は闇に紛れて今なお戦火止まらぬ神子島戦線……その最前線へと駆け出すのだった。
一夜志の皆さん「え、天2を特別扱いし過ぎ? 各地で奮戦し特に八津代地区開放によって南北断絶から救い出し情勢を人類優勢で安定化させ、各種インフラを整え前線ですり減る心身を根底から支えてくださったどころか、私たち一夜志とも縁のあるスーパーアイドルまじかるーぷの所属組織ですよ!?!?!?」
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