第140話 最前線と最高司令官
いつも応援ありがとうございます。
感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。
楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。
誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。
戦争が変えたもの。
“その眺め 見れば一夜で 志を悟る”
かつて、そう詩に詠まれた九洲屈指の景勝地、一夜志市。
風光明媚、見渡す限りの緑と人の営みとの調和が美しかったその場所は。
「……なんとも、むくつけき光景になったものだ」
隣に立つ佐々君の言葉通り、無骨で野暮ったい、黒と銀とで彩られた軍事基地へと生まれ変わっていた。
駅前から見渡す限り軍関係の施設が軒を連ね、随所に迎撃用の兵器が配備されているのが見て取れる。
作業用重機が右へ左へ駆け回りアスファルトを打ち鳴らせば、響く低音に負けないよう兵たちが怒りにも似た声を張る。
天2が持ち込んだ契約兵装が、大きなトラックで運ばれていくのを見送った。
世間じゃ英雄扱いな俺たちの登場に視線こそ送るも、彼らの手は止まらない。
絶対に落とされてはならない拠点であるという覚悟の元、対侵略者用のあらゆる工夫を施されたその場所に、天然自然も、人の豊かな営みも……どこにもありはしなかった。
「家の資料で見たこの町の景色は、それはそれは美しいものだったのだがな」
「この地で栄えた産業も今や過去の物。それもこれも、無粋な侵略者共の乱暴狼藉が悪いのでしてよ」
「ハーベスト……必ずや九洲の、いえ、日ノ本の地から追い払わねばなりません。我々が選び、こうして犠牲となった土地の想いに報いるためにも」
変わり果てた景観を眺める、佐々家、天常家、建岩家の未来を担う三人の目は鋭い。
彼らの言葉からは、護り手としての義憤や悔恨、いろいろな感情がひしひしと伝わってくる。
(原作HVVじゃヒーローたちでもついぞ助けに出向けなかったこの場所。こうして来たからには、原作超えてグッドな未来を掴み取りに行きたいもんだな)
推しの未来はどれだけだって明るいものであって欲しい。
こんな荒涼とした風景をこれ以上増やす意味なんて、俺にはなかった。
※ ※ ※
「上天久佐第2独立機動小隊の皆様! こちらにいましたか!!」
しばらく駅前でたむろしていると、迎えの人らしい、軍服を着た男性が手を振りながら俺たちに駆け寄ってくる。
今世の俺の倍は生きてそうな老け顔のその人は、傍まで来ると使い込んでよれた軍服を正し、俺たちに向かって敬礼した。
「天下に名高き天2の皆様と会えるとは、光栄であります!」
「お疲れ様でしてよ! 私は天2独立機動小隊、天常輝等羅万剣長ですわ!」
声をかけてきた男性に、俺らの中で一番出世している天常さんが対応する。
天2メンバー間だとほぼほぼ上下関係なんてないノリで付き合っているが、こういった場面だと階級は地味に大事だ。その辺ハッキリさせておくと話がスムーズに進む。
世渡り上手な天常さんや元本土所属の木口君なんかが順当に、そして自主的に階級を上げてくれているおかげで、こういった場面での矢面に積極的に立ってくれるのがありがたい。
ちなみに俺は千剣長。
特に昇進願いを出した覚えはないが、気づいたときにはみんなに推挙されて偉くなってた。
ゲームだとこの上下でセリフが変わっていろいろと楽しめるんだけど、ほぼほぼ忘れてたな。
胸ポケットに輝く銀色の『千』のワッペン。
金差し色の白い制服にはよく似合っていると思う。
ぶっちゃけ御三家がいる天2においては俺が持っててもしょうがない気がしなくもないが。
権力も力、貰えるものは貰っておく。
「ハッ! 私は一夜志防衛第7小隊所属、琴吹寿太郎十剣長であります! 司令部へ向かうバスをご用意しておりますので、どうぞこちらへ!」
「助かりますわ。皆様、参りますわよ!」
やたら縁起のいい名前の彼に案内され、俺たちは衆目を集めつつ、白青塗りのバスに乗る。
走り出したバスは駅からまっすぐ伸びる大通りを越え、川を渡った。
そうして辿り着いたのが、かつての一夜志城址に建てられた堅牢な基地施設。
高所にそびえ、周辺地域すべてをその視野に収める、この地の中心にして絶対の防衛拠点。
こここそが、およそ十年に渡り神子島戦線を守り抜いた九洲南部最大の基地。
城塞都市一夜志の心臓部である司令部だった。
※ ※ ※
「あぁ、やぁっと来てくれたねぇ」
バスを降りるなり俺たちは、琴吹さんに急かされる形で基地内へと入った。
そこまでして連れてこられた先にあったのは、大きくて豪奢な扉で仕切られた執務室。
そしてその先、おそらく一番偉い人が腰掛ける場所にいたのは。
「上天久佐第2独立機動小隊、現時刻をもって到着しましてよ! 六牧司令!」
「はい。長距離移動お疲れ様」
天常さんの高らかな報を受け取り苦笑する、我らが六牧司令だった。
彼は俺たちに先んじて、数日前からこの基地に滞在している。
そして、彼に関して特筆すべきことがもう一つ。
「六牧司令」
「……なんだい、黒木君?」
「昇進、おめでとうございます」
「………」
返事は、ない。
ただ、見るからにシナシナだった司令の顔から、さらに生気がなくなっていく。
片メカクレのその顔を、ゆっくり両手で覆い、うな垂れて……。
「……もう、ホント。荷が勝ちすぎるんだって」
彼は静かに、絶望を吐露した。
そんな彼の両肩には、煌びやかな金の装飾が揺れていた。
天2小隊の司令官、六牧百乃介。
階級――準霊師。
天常さんの万剣長の上の上。
その身、英霊精霊の域に至れし偉大なる存在に準ずる者という……前線指揮官としての最上位階級!
原作HVVにおいてはちょっとした裏技を使わないと辿り着けない、隠し階級である!
(行くところまで行ったなぁ、六牧司令……)
彼は神子島攻略戦の総指揮官を拝命するにあたって、俺たちの誰よりも偉くなっていた。
「いやいや、なんで僕なんかがこんな地位に……!」
「何を言っているんだ準霊師。本作戦の総指揮を任されるには必要な措置だっただろう?」
「いやいやいや、そもそも僕が総指揮を取る必要なんてないよね? 現地で長く戦っていた先達だっているんだし」
「何を言っていますの六牧準霊師。これまでの功績を考えても妥当な結果でしてよ?」
「いやいやいやいやいや、僕の戦績は僕自身のものじゃなく、キミたちが押し付けてきたものだよね? っていうか明らかにこれキミたちの無法を通すための政治的な人事だよねぇ?!」
「何を言っているのですか百乃介。誇りなさい。贄たち御三家と、防衛大臣直々の推挙なのですから」
「っ! あ゛あ゛~~~~~っ!!」
御三家からの、とりわけ六牧司令の防衛大臣の後ろ盾たる建岩の姫様の言葉には、言い返すこともできない。
悲しいかな、このやり取りを見守っていた部屋の片隅に立つ補佐官っぽい人からは“あの御三家から認められている!”的なキラキラお目々が向けられていた。
「もうやだ、どうしてこんなことに!」
「大丈夫だって、胸の“魔術師の杖勲章”は伊達じゃない!」
「伊達だよ! キミたちに丸投げした結果だよ!! うおあああ!!!」
執務机に突っ伏しておいおい泣き出す六牧司令。
昼行燈を気取りたいタイプの彼からするとかなりメンタルやられてそうだが、俺たちは彼が有能なことを知っている。
(俺たちに丸投げとか言ってるけど、機を見たり下調べしてたり、ちゃんと考えて指示出してくれてるからな。ガチな話、六牧司令以上に上手く俺たちを転がせる人物って、もうこの世界にはいないと思う)
泣こうが喚こうが、彼はちゃーんと仕事をしてくれるのだ。
天2式訓練で鍛えに鍛えたステータスで。
少なくとも俺は、司令がいつでもきっちり体力気力管理して働いてるって知っている。
あとは彼の扱うレベルの情報を一緒に扱える、ガチ有能な参謀役がいれば十二分なんだが……そこはまぁ、タマちゃんの気まぐれにお任せってことで。
「せめて労ってくれてもいいんじゃないかなぁ~~~!! やるけどさぁーーー!」
悲嘆の叫びとやけくそスイッチが入った様子の六牧司令。
くぅ~、これこれ。っと数日ぶりの天2名物を堪能した俺たちは。
「それでは改めて。上天久佐第2独立機動小隊、作戦準備に入りますわ!」
いよいよもって本格的な、戦いの準備を始めるのだった。
かわいそうは、かわいい。
応援、高評価してもらえると更新にますます力が入ります!
ぜひぜひよろしくお願いします!!