第136話 精霊合神まじかるーぷ!番外編 ドキッ☆クマモノくんは誰のもの?!
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クマモノくんハンター編、クライマックス?!
停電により光源を失い、月明かりが差し込む夜の大ホール。
その中で一人中空に浮かび、自ら輝きを放つ羽衣乙女。
その正体は誰あろう……。
「……精霊合神まじかるーぷ!!」
「そっちの名前で呼ばなくていいから!!」
九條巡パイセン、その人だった。
「まさかパイセンがハンター側だったとはな……」
ふわりふわりと宙に浮くその姿は、まぎれもなく人を超えた神なる力を持つ証!
パイセンが大阿蘇十二神の一柱、田鶴原若比咩神様との精霊契約によって得た、人智を超えた超常形態!
ここ最近の霊子ネット配信界隈を、温かく賑わせているみんなの幼神様。
黒髪ロングの人気者だ!
「……クマモノくんとのコラボ。パイセンから打診したって噂は本当だったんだな!」
「なっ!? い、いいじゃないっ! それくらいのご褒美がなきゃアイドルの真似事なんてできないのよ!」
「コラボ成立おめでとうございます!」
「あーりーがーとーうっ!!」
パイセンの感情に合わせてひらひらと踊る羽衣は、以前よりも明らかにシンクロ率を上げている。
度重なる配信業務と自主訓練の成果が、一目見るだけで十分以上に伝わってくる。
……間違いなく、強い。
「ともかく! そのクマモノくんは私が頂戴するから、覚悟なさい!」
「パイセンが欲しいって言ったらみんな譲ってくれるんじゃない?」
「そーいうのはい・い・か・らっ! ほら、構えてっ!」
そして、謎にやる気も満々で。
今のパイセンはとにもかくにもハンターとして『キング・クマモノくん』をゲットする気であるようだ。
だったら……。
「了解了解。そういう話なら、ここを通すわけにはいかないな?」
「……それでいいのよ、終夜」
“精霊羽織り”で再び黒いオーラをまとった俺に、満足そうに頷いて。
こちらを見下ろすパイセンは、ゆるりと前に突き出した右手を俺へと向ければ。
「行くわよっ!」
「来ぉい!」
始まるのは真っ向勝負。
何気にガチンコするのは初めての、在り得ざる魔法少女との対決だった。
※ ※ ※
パイセン扮する精霊合神まじかるーぷ。
これは元はゲームにも登場する、九條シリーズが抱える短命問題を解決する答えのひとつだ。
神の力と合一することで一時的に人を辞め、未来で科学が問題を解決するまでの時間稼ぎをすることができるというもの。
ただ実際のところこの選択ができる九條シリーズ最新第6世代型――九條愛ちゃんはその存命期間に短命問題を解決できるので、史実では現人神になることなく大人になる道を手に入れている。
パイセンは彼女より数世代前の第3世代かつ活動限界ギリギリだったため、こうして和風魔法少女チックなビジュアルを獲得する道を選んだわけだが――。
「はぁぁぁーーーー!!」
「うおおおーーーーーっ!!」
バチィィンッ!!
「ぐぅぅっ、おっも!」
「あら、まだまだ行くわよ!」
「ぬぁぁぁ!!」
――ここまで、仕上がるものなのか!?
(メイン武装の羽衣の一撃からして、もはや並の精霊殻のパンチ以上の威力だ……!)
っていうかその威力のパンチで俺を殴るんじゃあない!
死なないが! 死なないがな!?
(そのくせ伸びたりまとめたりいろいろとできる布のいいとこ取りで……叩いたり殴ったり、突いたり払ったり絡め取ったり締め上げたり振り回したり! やりたい放題じゃねぇか!)
ブンブンギュンギュン。
一瞬でも気を抜いたら捕まって、放り投げられること請け合いのパイセンのラッシュ。
それらを細かにステップ刻んでどうにかこうにか捌きつつ、俺はこぶしに気力を込める。
飛ぶこぶし――精霊空拳の構えだ。
「フッ! らぁっ!!」
ボッ!
当たれば車が廃車になるくらいの威力のそれを、遠慮なくぶっ放す。
まじかるーぷ状態のパイセンなら、超常的な守りもあって相当痛い程度で済むはずだが……。
「甘いわっ!」
飛んできたこぶしをパイセンは引き寄せた羽衣の一枚で受け止めると。
「お返しよっ!」
そのまま布上を滑らせそれを打ち返してきた……って器用すぎだろ!?
「どぁぁぁっ!!」
返ってきたこぶしを精霊拳で迎撃し、すぐさま迫り来る追撃の突き布を屈んでかわす。
(相性が、現人神の力とパイセンの高い感応力との相性が良すぎる……!)
まさに縦横無尽。
動かされる俺に対してパイセンは、ほとんどその場を移動せず、ただ舞い踊るように羽衣を操り戦局を支配していた。
「まだまだ、こんなものじゃないわよ?」
「だろうな!」
そう。
ここまでやって、パイセンはまだ本気じゃない。
(パイセンが契約した精霊合神の仕様は……原作ゲーム版じゃなくてOVA版だからな!)
今の今まで、先の戦いでも使用した、OVA版ならではの追加要素を彼女はまだ使ってない。
白い現人神フォームに差し色を浮かばせ展開する、魔法少女のフォームチェンジ要素。
今のパイセンならあれも、間違いなく使いこなせるようになっているはず。
「あなた相手に出し惜しみはしないわよ、終夜。存分に、味わいなさいっ!」
「!」
立ったフラグは即回収!
パイセンの着るちょっと大人な白い和風魔法少女衣装に、黒の差し色が浮かぶ。
「黒は……デバフ! ぐっ!」
直後。
触れれば力を抜き取られる鎖がいくつも足元から飛び出してきて、俺を絡め取りにかかる。
タイミングを合わせて後ろに跳ぶも追い縋るように伸びた鎖に左足を巻き取られ、たったそれだけで踏ん張りが利かなくなった。
「ぐぇっ!」
引っ張られるまま霊木製の床に転べば、気怠さが体全体へと及び――。
「――しゃらくせぁ!!」
それを俺は、気合で跳ね除けた。
「えっ、あれ気合で跳ね除けられる奴なの?」
「できるぞ鏑木。お前は筋肉が足らん」
「絶っっっ対、筋肉の問題じゃないと思う」
外野が騒ぐ声が聞こえる。
それは俺に、余裕が生まれたことを意味していて。
(パイセンが選んだのは黒のデバフフォーム! それを切り抜けた今、一気に距離を詰めるチャンスだ!!)
パイセンの能力に原作知識を照らし合わせながら、俺は必殺カウンターをお見舞いするべく飛び出して――。
「――甘いって、言ったわよ?」
そこで見たのはしたり顔のパイセンと。
見たことのない、黒に絡むように黄色が加えられた模様を浮かべる、パイセンの衣装。
「むぎぇっ!?」
衝突。
それは間違いなく、ガード担当の黄の差し色が持つ“障壁”の力で。
「田鶴原様と相談して作ったのよ。今度ファンにお披露目する……新フォーム」
「!?」
「“重ね:二色”。私も、ここでいろいろ試させてもらうわよ。終夜?」
俺の持つ知識を超えた、未知の技だった。
※ ※ ※
「こら! 待ちなさい終夜!」
「ぎゃー!」
パイセンの新技は、マジでチートだった。
「逃がさないわよ! 二色、黒・紫!」
「おわーーー!!」
ただでさえ一つひとつがやべぇ効果のパイセンのフォームチェンジが、同時に二つ使えるようになるとかいう異常。
今も黒の鎖に紫が載せられ、勢いを増して迫ってきてる。
“精霊羽織り”状態の俺が全力で逃げているって状況で、その精度は察して欲しい。
「二色、黒・黄!」
「でぇい!!」
移動阻害に張られた障壁を蹴り、三角飛びで鎖から逃げる。
俺たちの戦いに巻き込まれないよう、外野はすでに細川さんのスパコンゾーンに避難済みだ。
(ヤバいヤバい! マジでパイセン、機動歩兵としては最強になったんじゃねぇのかコレ! もともとの精霊合神まじか☆らぶも割かしチートキャラだったが、これ、それを超えたチートのOVA版も超えてんだよなぁ!)
HVV世界広しといえど、間違いなくこの力はぶっ飛んでいる!
俺は、とんでもない超ヒロインを生み出してしまったのかもしれない……!
「……って、予想できるかこんなもん!!」
「絡め取れないなら、撃ち落とすまでよ! 二色、青・紫!」
「どぅわっ!?」
紫のバフで雨あられのように撃ち込まれだす、遠距離強化フォーム青の魔弾。
俺がまとう黒いオーラが削られて、手を貸してくれているユメからエマージェンスの気配がする。
(伊達に契約先が神様じゃあないな! このままだと削り切られて負ける……!)
パイセンに負けるの自体は別に嫌じゃないが、時と場所が悪い!
(めばえちゃんに見られてるところで負けるのは、嫌だ!)
この際、ハンター相手の勝ち負けなんてのも気にしちゃいない。
ただただ、推しの前で無様な敗北を喫することだけは、避けたいんだ!
(めばえちゃんは俺を日ノ本の希望として見てくれている。ならその夢を、絶対に奪わせはしない!)
相手は天下の人気者、精霊合神まじかるーぷ!
この一戦は間違いなく、日ノ本の希望頂上決戦に違いない。
(なるほど。だったら俺は……!)
ただ、勝ちたい!
「……パイセン!」
「急に止まって……? なぁに? 降参するなら受け入れるわよ?」
いつもよりちょっとテンション高めなパイセンに、俺はビシッと指を差す。
「俺は、勝つ!」
「む。そりゃ……あなたは契約鎧も付けないで対応してくれてるし、勝つでしょうけど」
「そういうことじゃない。俺は俺として、今、俺の目の前に立つ好敵手に、勝つと宣言した!」
「!」
そうこれは、宣戦布告で果たし状で、決着をつけようの合図だ。
「今のパイセンのフルパワーで来てくれ! 俺はそれを、真っ向から打ち返す!」
「……そこまで言われて、乗らないのも失礼よね」
「さすがパイセン、そうこなくちゃな!」
昨今エンタメに明るいパイセンなら、必ず乗ってくれると思ってたぜ!
「お望み通り……最大火力、見せてあげる!」
パイセンの衣装が再び二色の差し色を浮かべる。
白に美しい波紋模様の……赤と紫。
超常の力で舞い散る炎が不死鳥のように背面を彩り、いかにも必殺フォームめいていた。
「近接フォームの赤と、強化フォームの紫。今ならドラゴンだってノックアウトするわよ?」
「上等!」
対する俺は、心の中でユメに乞う。
萎んでしまうギリギリまで、その力を貸して欲しい、と。
返ってきたのは黒いオーラの揺らめきと、決意に満ちた小さな熱。
(そして……)
もうひとつ、俺は心に想いを描き精神統一。
乗り越えるべき強敵を見上げた。
今、決着の時!
「食らいなさい! “重ね:二色の赤紫”! ――“火ノ國朱雀”っ!」
「精霊……空拳っ!!」
炎をまとって火の鳥となったパイセンが、俺に向かって迫りくる!
対して俺は右のこぶしにすべての力を注ぎこみ、渾身必殺の精霊空拳をぶっ放す!
放った黒いオーラの一撃は、しかし!
「まだまだぁ!」
パイセンの火の鳥の勢いを、削ぎこそできたが止められない!
「! 終夜っっ!! 今すぐ契約鎧を“精霊纏い”で……!」
「心配無用!!」
「!」
“精霊羽織り”が解けてる俺に気づいたパイセンの言葉を遮り、続けて吠える。
「……いくぞ、ヨシノ! “精霊羽織り”!!」
『また無茶をしてさせて……いつでも私は、貴方と共に!』
返事と同時に、俺の体を緑の燐光が包む!
「はえっ!?」
「行くぞパイセン!」
軸足に気合を込めて、もう一方の足には全力で俺とヨシノの超常を込めて!!
爆発させて、解き放つ!
「精霊……脚!!」
飛んできた火の鳥を、真っ向から蹴り飛ばす!!
「うおおおおおりゃあああああ…………!!!」
「ひやぁぁぁぁーーーーー!?!?」
顎を蹴られてのけぞった火の鳥が、そのままビタンッと床に落ちた。
「きゅぅぅ……」
変身が解けて目を回すパイセン。
ゆるりと着地し“精霊羽織り”を解除した俺は……。
『要反省です』
「ぐあああああっ!!」
無茶したお仕置きにダメージを渡され、毎度毎度の全身筋肉痛を発症しぶっ倒れるのだった。
※ ※ ※
「ふ、ふふふ……私の負けね。終夜」
停電から回復し、再び明るく照らされたホールで、大の字に寝そべるパイセンが言う。
「正直自分でもここまでやれるとは思ってなかったけど、私が今、出し切れるものはすべて出し切ったわ……」
どうにかこうにか身を起こし、パイセンを見る。
長い髪を広げて倒れたままこちらを見返すパイセンは、大暴れして満足したのかスッキリとした表情を浮かべていた。
「一年前じゃ考えられなかったわ。私がここまで動き回れるようになるなんて、ね」
「パイセン、もしかしてパイセンは……」
「あら、クマモノくんが欲しかったのは本当よ?」
起き上がろうとしたのか手を持ち上げ、それも叶わず再び脱力するパイセン。
天井を見上げ、まぶしそうに目を細めながら……それでも彼女は笑っていた。
「だって、最後に勝つのは私たちだもの」
「え?」
直後、細川さんが叫びをあげた。
「ああっ! キング・クマモノくんがありません!!」
「なん……だと!?」
「あはっ」
見れば、台座にあるはずのキング・クマモノくんの姿がなくなっていた。
「本命担当Cチームは、私一人じゃなかったのよ」
勝ち誇るように声高に、パイセンが吐露する。
「私は消耗した終夜を最後に抑え込むための、一番目立つ……餌。その隙にもう一人が、こっそりとお宝をゲットする算段だったの。だから……」
「ごめーん、僕たちの負けぇ~」
「……え?」
勝利者だったパイセンが、その瞬間、敗北者になった。
「は、え?」
「ごめぇ~~~ん」
声のした方を見てみれば、そこにいたのは地に伏せ行動不能になっている――三羽烏のイケメン担当、乃木坂君。
彼の手にはキング・クマモノくんが握られており、彼こそが最後の伏兵だったと確信する。
「え、なんで? この状況であなたを止められる人がいるはず……」
「それが、さぁ……いたんだよねぇ……そこに」
すべてを諦めた顔で乃木坂君が視線を向ける――そこにいたのは。
「……あ、えと」
「……Oh」
マイスウィートエターナルファンタジカルラブマター……黒川めばえちゃんであった。
田鶴原様「新フォーム考えるのくっそ楽しかったのぅ。新衣装を作っては着せて作っては着せての夢を見せて、キャッキャウフフじゃった」
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