第135話 対決! クマモノくんハンター?!
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わちゃわちゃ天2のターン!
明かり取り用の窓が派手に割られた。
そこから飛び込んできたのは3つの影。
「ヒャッハー! ハンティングの時間だぁー!!」
ぴっちり度の増した見知らぬ黒スウェットを身にまとう、快活濃紺ショートヘアの少女。
「悪いがそのお宝、手に入れさせてもらうぜ!」
派手なヒーロー着地を披露する、白の長ランにバチバチ決まった金髪リーゼントの少年。
「にゃふふっ! 猪口才な霊子プロテクトなんて、秒でハック&クラッシュしちゃうよん!」
一拍遅れてふんわり浮遊するように降りてくる、ノパソぽちぽち紫紺ロングのもちもちボディな猫口少女。
「鏑木! 鹿苑寺! 手果伸! 貴様らが……ハンターか!」
角刈りマッチョの木口君が、ボクシングスタイルに身構えつつも問いかければ。
「そう! アタシたちこそ!」
「クマモノくんを求め、あらゆる手段をもってゲットする!」
「天下御免のクマモノくんハンター!」
鏑木さんを中央に、3人揃ってポーズをキメて。
「「「陽動担当Aチーム!」」」
「!?」
派手な宣言を聞くのと同時に、俺は叫んだ。
「瓶兆さん! 後ろだ!」
「ッス!? っとぉぉ!?!?」
ガギィンッ!
響いたのは金属と金属がぶつかる鈍い音。
瓶兆さんが“精霊纏い”で取り出した契約武装刀DO-TANUKIに、同じくDO-TANUKIを当てた奴がいる。
「及第点、です。瓶兆様」
そう無表情で口にする、赤髪エアインテークで巫装束を身にまとう絶世の美少女と。
「私の動きまで見えてたら、完璧だったね!」
「ゲッ!? ふぎゃっ!!」
タイミングどんぴしゃりで足払いを掛け瓶兆さんをすっ転ばせる、青白セミロングな闇系眼帯ノリノリ美少女。
「なん……で、ッスか!? 姫様、清白さ」
「よくぞ聞いてくれました!」
「おわぁッス!」
転んだ瓶兆さんへと二人で容赦なく追撃かましてから、踊るように下がって距離を置き。
「私たちこそ、訓練試合という建前を利用して!」
「瓶兆様の仕上がり具合を、実戦にて測るべくやって参りました」
背中合わせにポーズを取って。
「「襲撃担当Bチーム!」」
「そんなのただの当たり屋じゃないッスかぁぁっ!?」
「ちなみに贄たちがクマモノくん様をゲットした際には、相場の2倍でハンター様方に売却する契約となっております」
俺たちに……特に瓶兆さんにとって理不尽に過ぎる名乗りが上がった。
いやナチュラルにハンター側と取引して裏切ってるんじゃあないよ、天才メインヒロイン!
だが、そんな俺の心のツッコミとは裏腹に。
「陽動担当Aチーム!」
「襲撃担当Bチーム!」
クマモノくんの台座を中心に、挟み撃ちの陣を張り。
「「勝利は我が手に!!」」
ハンターたち(?)は、見事な徒党を組んでの連携を見せるのだった。
※ ※ ※
「「………」」
さて。
状況を整理しよう。
(両陣相まみえる。決戦の時は今)
ハンター陣営の総数は5。
顔ぶれ的には意外なようなそうでもないようなメンツが揃った感じだ。
すでにその中の一人、タマちゃんこと手果伸珠喜はうちの霊子戦担当の細川さんと領域の奪い合いを始めている。天常家の最新モデルのスパコンを使う細川さんに対し、自前のカスタムノートで悠々侵略しているタマちゃんの様子からして、俺たちが霊子端末を使えなくなる……すなわち、超常能力の行使に大きな制限がかかるのは避けられないだろう。
(俺がタマちゃんを物理的に押さえ込むって手もあるが、それをするにはあの二人が邪魔だ)
謎スーツの鏑木さんと、特服着こんだ鹿苑寺君。
おそらく転売目的な似非ハンターな鏑木さんはともかく、鹿苑寺君はやはりといった感じだ。
(原作HVVでも鹿苑寺君はハンターだったからな。施設の妹ちゃん的な子の影響で)
鹿苑寺君の弟妹たちの中でも特にキャラが濃かった子なので、よく覚えている。
独自のファン層がいて、HVV三大ロリにこの子が推されることも多かった。
そういや新姫様には会えたが、九條最新型の愛ちゃんとはまだ会えてないな。パイセンのおかげで九條シリーズ周りの環境もだいぶ様変わりしたし、果たして今はどんなことになっているのやら。
「ヘイヘイヘーイ! こっち来ーい!」
「ビビッてんのかぁ? あぁ!?」
わかりやすい挑発で、鏑木さんと鹿苑寺君が騒いでいる。
自分たちが“陽動”だとハッキリ宣言しているこの二人は、霊子戦の要となるタマちゃんを守るような布陣で位置取っていて。
(下手に突っ込めば囲まれて、それはそれは猪口才なあの手この手で邪魔してくるだろう。鏑木さんなんかは元々個人でエージェント業やってたんだし、妨害手段はいくらでもありそうだ)
クマモノくんハンターはお宝ゲットに手段を選ばない。全力で来る。
バカみたいなシチュエーションでも油断は禁物。推しの前で無様は晒せない!
(だったら俺が選ぶべき道は……!)
頭の中で作戦を組み立てる。
それを即座に打ち込んで、霊子ネットの独自回線を通じて防衛組へと伝達する。
「!?」
「頼んだ! 木口君!」
「任された! うおおおおお!!」
気合を入れた木口君が、Aチームの方へ跳んだ。
「っしゃあ! フォローする!」
「助かるッス~~!!」
そして俺は襲撃担当Bチームへと向かう。
「こ、こんな無茶苦茶な、の……!?」
「黒川様は私のそばから離れないでいてください。あ、でもそこのPCそろそろ爆発します」
「ひぇっ」
救護担当めばえちゃんがひとまず安全地帯に避難できてるのを確かめながら。
「こっちに来るって思ってたよ、黒木くん!」
「実戦経験を積める場をご用意してくださったご慧眼、全力で活用させていただきます……!」
「二人とも大概自由人だよなぁ!? どっせぇーい!」
瓶兆さんを追い詰める、青と赤のじゃじゃ馬ペアに牽制の接近戦を挑んだ。
※ ※ ※
防衛組VSハンター組。
木口君VS鏑木さん&鹿苑寺君。
細川さんVSタマちゃん。
俺&瓶兆さんVS清白さん&姫様。
両陣営にハベベ所持者が、合わせて5人も入り乱れる大混戦!
「おらっおらっ! ジャンジャンいくぜぇ!」
「いい動きだが、まだまだだぞ、鹿苑寺!」
覚悟衣装の特服着こんだ鹿苑寺君のラッシュをいなす木口君。
とにかく派手に立ち回る彼の役目は、本命であるもう一人のハンターを隠す目くらましだ。
「くっ、今朝の鏑木より動きがいいだと!?」
「へっへーん。今のアタシを捉えられるかな? たけポン!」
重戦車型の木口君を異常なまでの加速で翻弄する鏑木さん。
明らかにこれまでと違う動きをする理由には、心当たりしかない。
(間違いねぇ、アレ。新型契約鎧だ! まだ試作段階だったはずだが、持ってきたのか!?)
機動歩兵用新型契約鎧『信愛』。
女性向けに開発された契約鎧で、俺たちのアイデアがふんだんに盛り込まれた新作だ。
中でも一番の目玉は。
「そりゃそりゃそりゃそりゃー!!」
「だぁー!! 光を散らしながら周りをぐるぐる走るんじゃない!!」
精霊殻でのみ実現していた超過駆動システムを、装備として実装したことだ。
(姫様の“神懸かり”や俺の無茶やった“精霊纏い”を参考に、超過駆動をスケールダウンさせた新システム“疑似超過駆動”で機動歩兵自身のブーストも狙える新装備! 超常による防御に比重を置いたことで重武装化しなくて済むようになったからこその、伸縮性重視の全身ボディスーツ!)
ボディスーツ……やたらピッチピチで鏑木さんの女性らしいフォルムが丸出しである。
デザインには過分に天常家当主の趣味が反映されてそうな気がなくもないが!
「今のアタシは、止められないよ!」
「天常家の装備使ってスポンサーの意向に逆らうなバカたれ!!」
「テスト運用も兼ねてるからトータルプラスだもんね!!」
その性能は折り紙付き。
完成の暁には即時量産待ったなしである。
そんな新装備を引っ提げてのご登場。だが!
「だったらオレも使わせてもらうぞ! 来い! 我が新たなる鎧!!」
「えっ!?」
新装備があるのはこっちも同じ!
“精霊纏い”を展開する木口君が、青く輝くパワードスーツめいた全身鎧を身にまとう!
「これぞ! 男性向け機動歩兵用新型契約鎧『開新』!!」
胸元に緑に輝くパワーストーンを携え、小さな巨人が大地に立つ!
明らかにデザイン元の天常家当主の趣味が見え隠れしているが気にしない!
「どぇぇ!?」
「当然できるぞ……疑似超過駆動!!」
当たり前に燐光を放ち高機動化する木口君が、逃げる鏑木さんと追いかけっこを始める。
日ノ本の技術は日進月歩。しかしてクスノキ女史からのガチ目のサポートあればこそ。
訓練のお題目通り。
兵器レベルもイーブンで、いい感じに噛み合った。
ちなみにこれらの新作とは別に、いいとこ取りを狙った新型契約鎧『同心』があります。
ピッチリ&ポイントアーマーのいつものデザインです。ありがとう佐々君。
「へっ! だがそれじゃあ、タマちゃん先輩までは届かねぇぜ!」
っとと、鹿苑寺君がまだいたが。
「このまま先輩がプロテクトをぶち抜きゃそっちは裸同然。そうなったらもう俺たちの」
「おれたちのぉ……なぁに?」
彼の対策は――すでに終わっている。
「えっ?」
「ダ~リン。そんなにオシャレ決めてどこ行くのかなぁって思ってたけど……そっかぁ~」
「あ、あ……?」
「本当にぃ~、あのぬいぐるみが欲しくてぇ~~、ここに来たんだねぇ~~~?」
「まぁ、や?」
「うん☆ ダーリンのかわいいかわいい彼女のぉ、まぁやだよ☆」
ゴスロリ魅惑の彼女さん、エントリー!!
事前に声をかけて、隠密状態で待機してもらってました!
(鹿苑寺君がハンターなのは知ってたからな。こうなるのは致し方ないのだ)
もはや見送りも不要だろう。
「まぁや、あれの魅力ぜんっぜんわからないからぁ~、ダ~リンがい~~~~~~~っぱい、教えてねぇ☆」
「あ、ちょ、待ってく」
「い~~ま~~~か~~~ら~~~は~~~~~、ダ~リンとまぁやの時間、でしょ?☆」
「っ!」
「まぁやに、た~~っぷり、あの子の魅力ぅ教えてね? そしたらあの子に負けないくらい、もっと、もぉ~~~っと魅力的になるから、ね?」
「あ、あ、あ……」
竜胆さんに引きずられ、鹿苑寺君がホールを後にする。
「あい~~~~~~~~~~~~~!!!」
これから真実の愛をわからせられるだろう彼には、この言葉を贈ろう。
ゴッドスピード、鹿苑寺君!
「隙ありぃ! 黒木くん!」
「ほいっと」
木口君たちの勝負が決着に向かう中、こっちはというと……。
「はいっ! はいっ! はぁい!!」
「よっ、はっ、ほっとと!」
しっかりと建岩流格闘術をマスターしている清白さんの猛攻を捌き続けて早数分。
なんだかんだで、俺はこの時間をしっかり堪能していた。
「清白さん、マジで強くなってるなぁ~」
「でしょ? でしょ? えっへへ。どんどん行くよ~~~!!」
このところの清白さんと、この手の組み手をやってなかったことを思い出す。
天久佐奪還戦から今日まで、びっくりするほど目覚ましい成長を彼女は遂げていた。
(ステだけじゃなく技能レベルも上げまくってるが、幸運技能がある分コツを掴みやすいんだろうな)
明らか俺以上の成長速度を目の当たりにすると、公式チートの神っぷりを羨むばかりだ。
「ねぇねぇ黒木くん!」
「なんだ?」
「私、黒木くんに並べそうかな?」
軽く打ち合いになる中、期待に満ちた瞳の清白さんから問いかけられる。
「私、強くなってるよ! 私、頑張ってるよ! 私、きっと……黒木くんを守れるよ!」
「おおっ!!」
クリティカル。
そう言っていいラッキーヒットをもぎ取られる。
肩に一発いいのを食らい、たたらを踏む俺に追撃は来ない。
「でもでも、黒木くんはもっと強くなってるね。昨日より今日の方が、そしてきっと、明日の黒木くんはもっと強くなってる。だからね……!」
その場で深く腰を落とし身構えた清白さんが、ゆっくりと息を吐く。
ブワッ!
瞬間、彼女の体に光が満ちて、周囲に緑の燐光が舞い始め――って!?
「私は、それ以上に早く、もっと! 強くなるから!!」
ドゥッ!
彼女の全身が、神秘に包まれる。
それは姫様の神懸かりにとてもよく似た、けれど無茶の産物。
「精霊纏いの拡張行使!?」
「命ちゃんが名前を付けてくれたよ! この技の名前は――“精霊羽織り”!!」
来る!
一瞬の判断で、俺も精霊纏い――精霊羽織りを使う!
(ユメ!)
『……!!』
この身に纏うのは、このところずっと夢の中で共闘していた契約精霊。
ボフッ!
迫り来る緑の燐光を、俺の身から湧き上がる黒い燐光が受け止める。
「えぇ!? 黒ぉ!?」
「おおっ! 黒ぉ!!」
最近ちょろちょろ出てた黒い奴、ユメの影響だったのか!!
妙に馴染む、馴染むぞぉ!
「え、ちょ、これは予想してな」
「パワーは俺の方が上っぽそうか? んじゃあ行くぞ清白さん! 精霊……!」
「ああああ出たとこ勝負ぅ!! 精霊……!」
「「拳!!!」」
放った技がぶつかり合い、強烈な衝撃波を生み出す。
結果。
「は、はらひれはらほれ~」
「ふぅ……」
吹っ飛んだのは清白さん。
勝ったのは俺。
勝因は――。
「――シンプル出力差だったな」
「うぇぇぇ~~~……」
フッフッフ。
鍛え方が違うのだよ、清白くん。
いや、すごいのはユメかもしれない。
ドヤ顔している気がする。姿かたちを知らないが。
「お見事です、終夜様」
「姫様」
そこにちょうど、瓶兆さんへの指導を終えた姫様がやってきた。
バッテバテで床に倒れている瓶兆さんに対して、こっちは息すら切らしていないのは流石が過ぎる。
「姫様もやるのか?」
「もちろんにございます。どうぞ贄たちの研鑽の成果……存分にご堪能ください」
ボッ!
さっくりと“神懸かり”の青い燐光をまとう姫様。
表情にこそ出てないが、その身の内に秘めた士気は、間違いなくEX以上だった。
「いざ……!」
「来い!」
いつかの勝負の再演か。
あの時よりも沢山の研鑽を積んだ俺たちは。
「っ!!」
「っしゃあ!!」
あの時よりも安全に。あの時以上の火力でもって……元気に楽しくぶつかり合ったのだった。
※ ※ ※
「細川ちゃんマジすっご! よくここまで堪え切ったねぇ~?」
「お嬢様。細川は……マジがんばり、ました……ガクッ」
「救護……は、いらない、わ……ね。お疲れ様」
タマちゃんが細川さんのプロテクトを破壊した時には、決着がついていた。
「ずるくないずるくないずるくない!?」
「ずるくない。チーム戦だ」
逃げ回る鏑木さんは、姫様を倒した俺が加勢に入って敢え無く御用。
今は木口君に背中から踏みつけられてジタバタしている。憐れ。
「ありゃ~、アタッカー全滅かぁ」
「そして俺はフリーだ」
「勝ち目絶対ない奴じゃんね」
清白さんと姫様相手にかなり消耗こそしたが、未だに健在な俺が立ちはだかり、タマちゃんを止める。
油断はしない。っていうかできない。
(タマちゃんのことだ。ここで隠し玉の一つや二つ、ないワケがない)
警戒する俺を前に、タマちゃんはノートPCを閉じ降参のポーズをとって、言う。
「わたしはここまでだねぇ。ってことで、投降しまーす」
「む……」
やけにあっさりと幕を引くな、なんて。
ほんの一瞬思考を鈍らせた――次の瞬間。
「ってことで、あとは本命担当Cチーム。任せたよん☆」
「!?」
気の緩みを瞬時に研ぎ澄ました、それと同時に。
バツンッ!!
「ひゃうっ!」
「なっ!」
「ホールの明かりが……!」
突然の停電。
そして――。
「……ごめんなさいね」
――それは、舞い降りた。
「そのぬいぐるみは、ずっと探していたの。だから……」
それは、暗闇に輝く白き衣を身にまとう、黒髪ロングの幼げな天女。
「悪いけど、私の全身全霊をもって貰い受けるわ……終夜!」
「……マジかー」
羽衣を泳がせる黒髪の天女……パイセンの登場に。
俺はただ、唖然とするしかないのだった。
そして、神は舞い降りた……。
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