第134話 めばえ・インシデント
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誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。
クソと評されるものにもいろいろありますよね。
夜のメインホールに、めばえちゃんの声が響く。
それはいつものボソボソとしたか細い声ではなく、力強く、自信に満ちた珍しいモノで。
「……そもそも! クマモノくんのあの設定はなに!? ハーベストが跋扈するこの時代に世界を侵略する存在とかどうしてみんな受け入れてるの? 明らかにこいつも同じ侵略者、私たちの世界を狙う悪じゃない! そんな悪を有難がって持て囃すなんて、みんな何かおかしいわ! 間違いなく裏で何かが行われているとしか思えない! 隠された真実があるはずよ!」
「お、おう? そ、そうなんスか?」
「えぇそうよ! “神秘の建岩”なんてその筆頭だわ! 大阿蘇様という神の名の元に一体どれだけの工作を行なってきたか! 佐々家も、天常家だってそう! この時代に発展するその裏に、どんな非道が行われていたか分かったものじゃないわ!」
「あ、はい」
「陰謀よ! 陰謀が蠢いているのよ!!」
語られるのはTHE・陰謀論☆
(うおおおおーーー!? めばえ・インシデント初めて生で見た!)
感動……じゃねぇ!! やべぇ!!
「あー、えっと、そうッスね……」
「………」
おわぁーーーー!!
HVV界の超絶厄ネタ“白の鳥籠”と“九條シリーズ”絡みの瓶兆さんと細川さんのテンションがガン下がりしとるーーーーっっ!!
(ちぃっ! めばえちゃんのメンタル原作より安定してたからないと思ってたが……甘かったか!)
言いたいことを言ってフンスフンスしてるめばえちゃんは可愛いが、今はそれをのんびり見てられるほどの余裕が俺にはなかった。
※ ※ ※
彼女とちょっと仲良くなった時に発動するキャライベ――通称“めばえ・インシデント”。
めばえちゃんが不人気になるでっけぇ要因の一つが、これである。
(めばえちゃんラスボス化イベントに並ぶ俺の中でのクソイベント! 現実で発動させちまった!)
原作HVVに存在する好感度管理システム『FES』。
それに関わるイベントのひとつで、プレイヤーに彼女の第二印象を決定させる会話劇。
(暗い雰囲気で人を拒絶するタイプの子という第一印象を与えた後に、陰謀論者で嫌いな物について語る時だけやたら饒舌になるという陰キャオブ陰キャな性格を露呈させるこのやり取りには、あ・き・ら・か・に! ラスボスとなる彼女に対するプレイヤーの好感度を下げさせる狙いがある! 製作チーム許すまじっ!)
海千山千の天才や怪物が跋扈する隈8小隊で、凡人であるめばえちゃん。
そんな彼女の吐き出す言葉は浅慮で感情的。コミュ経験不足からくる放言であり、彼女の好む童話などの物語や呪術などのオカルト趣味も絡んで醸造された夢見がちな性格が生み出す特大空振り三振ついでに後ろのキャッチャー殴り飛ばす級の大チョンボである。
たとえ主人公の好感度を下げないようにしても、このイベントが発生した時点で他の隊員たちのめばえちゃんへの好感度が一定値下がる仕様である。クソでち。
だがそれもこれも!
戦時下という人類全員に厳しく夢のない世界観と、ラスボス候補という約束された絶望の運命があっての環境が作り上げた、あくまで後天的な一面、それも表層の性格なのだ!
(本来のめばえちゃんは臆病で寂しがり屋、愛を注がれることを望みながらも手を伸ばす勇気が出せない、それでも世界に希望はあるんだと信じている普通の女の子なんだよ!)
そんな最高に可愛いめばえちゃんが、やっとラスボスの運命から解き放たれたってのに!
こんな雑なマイナスイベント発生でぶち壊しにされて堪るかよ!!
(唸れ俺の話術技能レベル3! 知力OD! そして数多の原作知識よ!)
この冷えっ冷えの地獄をぶち壊す、最高の言葉を引っ張り出せぇーーーーー!!
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・
「……甘いな、めばえ氏」
「え?」
――これしか、ない!
「クマモノくんが最初に企画として成立したのは1998年。最初にハーベストが仏国に出現したのが1999年。順序が逆なのだよ」
「なっ……それは」
「そもそも!」
「!?」
「そもそも! クマモノくんの侵略者設定はどこに端を発しているかと言えば、それはドン・ノストラが予言した1999年破滅の予言がベースとなっている。事実その年にハーベストが侵略してきたことからも彼の予言には一定の信憑性があると後世に語られることになったのはキミも知っているだろうめばえ氏!」
ビシッと、人差し指を突きつける。
今は失礼上等! なぜならこれは、バトルだからだ!
「だ、だったらどうして! どうしてハーベストの侵略が行われてなお、クマモノくんは展開し続けたの!? 不謹慎じゃない!」
「不謹慎? 違うな……あ・え・て! なのだよ!」
「あえて……そんな、まさか!?」
「……これ、ウチらどうしたらいいんスか?」
「シッ。喋るな瓶兆。巻き込まれるぞ」
「めばえ氏の言う通り、この世界は陰謀と邪悪に満ち溢れている! それは間違いない! だが、クマモノくんはそれら邪悪な陰謀に対して我々人類が叩きつけたカウンターなのだ!」
「かうん、たー?」
「そうだ、カウンターだ! クマモノくんは当然フィクション! 空想の存在! だが、それを凌駕する現実によって彼の存在は不謹慎だと世論に語られるほどに貶められてしまった! なるほど確かに一理はある。だが、一理しかない!」
「!?」
「彼は侵略者というキャラクターだ。どれだけ彼が世界に己の使命を発信しようとそれは物語であり空想であり、エンターテインメントなのだ! そう、彼こそは敵の侵略何するものぞと、そんなものはエンターテインメントに貶められる程度のことなのだと跳ね除けているのだ!」
「な……っ!!」
度重なる俺の熱弁に、めばえちゃんの顔が驚愕に彩られる。
これは……あと一押しだ!
「めばえちゃん。忘れてはいけない。今、この世界で……俺たちは戦っている!」
「!」
「それは人も、精霊も、神も同じだ。現にこの舞台にはパイセン……大阿蘇十二神が一柱、田鶴原様の力を宿した精霊合神まじかるーぷがいるだろう?」
「!!」
「同じなんだよ。建岩も、佐々も、天常も。みんな戦っている。戦っている以上そこには思いが束ねられていく。それらが時にぶつかり合うことも、疑い合うことも当然起こりうる。裏で陰謀が重ねられることもきっと、あるだろう……だが!」
「ごくり……」
「誰にだって、隠し事くらい、ある……!!」
「!?!?!?」
「それを無駄に刺激する必要は、ない……!!」
「!?!?!?」
「だから俺たちはいつだって、言葉を選び、相手を思いやるんだ……そうだろう?」
「!!!」
めばえちゃんの目が、カッと見開かれた。
ほの暗い紫色の瞳を真正面から見つめれば、その中に確かな煌めきが宿った気がして。
「私……間違っていた、わ。疑うばかりで、信じることをはなから諦めていた……」
「めばえ氏……」
「天常さんも、佐々さんも、建岩さんも、九條さんも……みんな、みんな私に親切で……そしてあの時も……歓迎会の時も、みんな、私を守ってくれた」
「めばえ氏!?」
今思い出すのそこぉ!? あの時はマジでごめんなさい!!
いや! 耐えろ俺! 目を逸らすな!!
「みんな、隠し事くらいある……みんな、戦っている。そう……その通り、よ。疑うことがあっても、ちゃんと、自分で考えて、自分の目でこれまで見たことや感じたこと、すべてで……向き合う。だから言葉を選ぶ……」
「きっと、それはとても難しいことだと俺も思う。俺だって読み違えたり失敗ばっかりだからさ。だから、これから。これからだぜめばえちゃん。これから、頑張っていこう」
「……そう、ね」
うっ!
「……あなたの、言う通り……だわ」
「!!?!?」
初めて、めばえちゃんから目を合わせてくれた。
ずっと焦点を合わそうと追ってきた紫の瞳が、初めて、俺の姿を映した気がして。
俺の時は、止まった。
※ ※ ※
初めて、本当の意味で目が合った。
そんな風に感じる、この時間。
「……で、これ。どういう話だったんスか?」
「暴走した黒川を黒木がもっと暴走して丸め込んだって話だろう」
「あ、バケモンにバケモンぶつける理論ッスか」
外野の声も、姿も。
何もかもが聞こえない、見えない。
今この瞬間がすべて――。
「――皆様、警戒を。侵入者です!」
すべて止まってしまえばいいなんて思いは、当然のように叶わなくて。
パリーンッ!!
「ヒャッハー! ハンティングの時間だぁー!!」
「悪いがそのお宝、手に入れさせてもらうぜ!」
「にゃふふっ! 猪口才な霊子プロテクトなんて、秒でハック&クラッシュしちゃうよん!」
今まさに、対話できそうにない奴らの登場に。
「っしゃあ来たなハンターども! 全員返り討ちだぁーーーー!!」
「!」
俺は自分でめばえちゃんから目を逸らし、吼え声を上げる。
自分でもそれが照れ隠しなんだって自覚してたから。
(っべぇ~~~~~~~!! 今の俺ぜってぇ顔が赤い!!)
なんだか妙に恥ずかしくて。
体全部が熱を発している気がした。
ヒャア! もう我慢できねぇ! どったんばったん大騒ぎの時間だぁ!!
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