第133話 迎撃メンバーと壁の花
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出撃前の編成画面、あそこにどれだけ時間を持ってかれたことか……でも好き。
夜のメインホール。
普段なら消灯を終え真っ暗闇に包まれているはずのその場所は今、各種照明全開の、昼と見まがうほどの明るさに照らされていた。
「………」
超レアアイテム『キング・クマモノくん』を展示する台座を前に、腕を組んで仁王立ちする俺の周囲。
そこには今回の有事に合わせて俺が招集した、天2メンバーの姿があった。
「あの~、どうしてウチが選ばれたんッスかねぇ?」
声音の緩さに反してキッチリと休めの姿勢をとりながら、俺の右隣、瓶兆さんが眼鏡を押さえつつ引き笑いを浮かべている。
「清白さんとか建岩様とか、そっちの方がよかったんじゃ……」
「姫様はともかく、これは瓶兆さんだからこそ頼んだんだ」
「……まーた、この人は」
なんかいきなりジトっとしだしたが、事実これは仕方のないことなのだ。
(姫様や兵器ちゃんがハンターじゃないのは、原作知識で知ってるからな)
『白の鳥籠』にいたから知らなかった。っていう、兵器ちゃんがハンターじゃない理由からするとほぼほぼ白だとは思うんだが……清白さんがハンターでないとは言い切れない。
一応、彼女が不穏な行動を取ったら姫様に制圧するようにお願いしているが、最近の清白さんのスペックはもう姫様と並んでいるので油断はできないだろう。
「ふんむぅ、展示初日から番をするってのは……フッ! 本当に、必要なのか黒木?」
瓶兆さんのさらに右。暇つぶしがてらポージングしている三羽烏の筋肉担当木口君が、俺に疑問を投げてきた。
完全に余談だが、天2屈指の高身長男女が横並びのこの景色、中々に圧巻である。
「来る。何しろ相手はあのクマモノくんハンターたちだ。あいつらはクマモノくんに骨の髄まで魅了されている。そんな奴らの前にこんな超レアアイテムをぶら下げて、我慢できるハズがない。そして来るなら初日。相手は俺たちのスペックを知っている、だから初手全力だ」
「お、おう。そうなのか……」
この手のグッズに一切興味を示さなかったLOVE筋肉な彼は、やはりというかその価値を理解できていないらしく、ガラス越しのキング・クマモノくんを見ても首を傾げるだけだった。
「……クマモノくんをめぐっては、過去にいくつもの問題が発生した事例があります。その中にはハンターを名乗る者たちの暗躍が複数回確認されており、楽観視はできないとお嬢様も言っておられました」
俺たちの背後、特別に設置したテーブル席に腰かけている細川さんは、さっきからずっとPC端末を操作し続けている。
天常さんの従者を務める彼女は、天常さんが苦手とする霊子戦方向に強い隊員の一人だ。
「黒木様が私を抜擢したのは、手果伸様を警戒してのことだと思います。彼女がハンターだったとして、どこまで食い下がれるか……自信がありませんが、微力を尽くします」
仮にタマちゃんが敵に回ったとして、一番怖いのは霊子端末をバグらされ、デバフを食らうこと。
今もって細川さんが展開している対霊子妨害フィールドがあれば、タマちゃんが俺たちの霊子端末を抑えに来ても、ある程度は抗えるだろう。
と、こんな感じで。
武を誇る瓶兆さんと木口くん、霊子戦要因の細川さんとを並べた上で……もう一人、いる。
「………」
俺の左隣――から5mくらい離れた場所に、一人でポツンと立つ少女。
今日も今日とてバチクソ可愛い俺の最推しにして人類すべてが尊ぶべきモフモフロングヘア陰キャ美少女!
「……むりぃ」
「大丈夫だ! めばえちゃん!!」
マイフェイバリットラブハートフォーエバー黒川めばえちゃんである!!
※ ※ ※
めばえちゃんは、俺からどうしてもと頼んで呼んだ後方支援要因である。
ハンターも含め万が一隊員が怪我した時の対応を任せたい。というのを建前にして、特別に来てもらったのだ。
当然その本命は推しとの時間をたくさん過ごしたい我欲と、推しのイベント参加時の特別な表情を見たいという我欲と、推しから元気を貰いたいという我欲である!
「めばえちゃんがそこに居てくれるだけで、俺にバフがかかってスペックが数倍跳ね上がる!」
「い、意味が分からない……!」
「今の黒木のスペックが数倍になったら神すらワンパンしそうだな」
「化物ッスね」
「好きに呼ぶがいい。俺の推し活は不可能を可能にするんだ」
「へ、変態……っ!」
「ごふっ!」
待ってめばえちゃんからのそれは予想してなかった……!
愛しさと切なさが同時に沸いてくる! うおおおおお! 脳が、震える!!
「今なら俺、世界を相手に戦える……!」
「なっ!? それはダメよ!」
「はい」
「ひゃっ、急に冷静に……ならないで……!」
「はい」
最近のめばえちゃん。俺の行動に対して無視とか嫌悪以外のリアクションもそれなりに取ってくれるようになった気がする。
これは間違いなく距離が近づいていると思いたいところだが、まだだ笑うな……まだ早い。
「黒川が来てからの黒木は前にも増して奇行が増えたな」
「そうなんスか? いやまぁ、あの笑い堪えて肩震わせてる姿は普通に奇行ッスけど」
「以前は得体の知れなさの方が強かったのですが、最近の黒木様は良くも悪くも人間味が増していますね」
「こ、これで……人間味が、増してる……の?」
「そうだな。分かる範囲でバカをやる頻度が増えたな」
「えぇ……私は今も、わからない……」
俺を話のタネにして盛り上がる、めばえちゃんとみんな。
何かと周りを拒否って孤立するめばえちゃんがコミュ取れるのは貴重だし、今は理解されない悲しきモンスター扱いも許容しよう。
ラスボスルートから解放されためばえちゃんには、いっぱい青春を謳歌して貰いたい。
今の俺は壁の花、この幸せな世界を見守る一輪のカンナになろう。
「……わからないと、言えば。クマモノくん……ハンター、も」
おお! めばえちゃんから話題を振った!
原作じゃ他者への好感度基本マイナスで誰にも声をかけない彼女がなんという勇気!
って、あ!
「こんな、得体の知れない化物の、何がいいのか……ぜんぜん、わからないわ……」
「およ。黒川さんはクマモノくん、好きじゃないんスね」
「……ええ。嫌い、よ」
アイエーーー!!
会話に割り込もうと考えた時には、時すでに遅し。
コミュ強兵器ちゃんによる会話ジツにより、地獄の窯は開けられる。
「……そもそも!」
(原作HVV俺的三大クソイベントの一角! その名も“めばえ・インシデント”!)
絶対避けたかったソレが、発動する……!
カンナの花言葉は、「情熱」「快活」「永遠」「妄想」「尊敬」。
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