第132話 嵐を呼ぶクマモノくん
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ここに来て超人気ゆるキャラの登場です!
クマモノくん。
それは、隈本県においてカルト的な人気を誇るご当地キャラクターである。
異世界から来訪した転移者――転移クマで、その目的は隈本県をクマモノ県へと変え己の領地とすること。
そのために隈本県の各地の特産品や名所を巡り、より深く隈本県について理解し侵略の糧にしようと堂々と暗躍する……というコンセプトで活動するゆるキャラである。
出向いた先々で驚き「クマモノサプラ~イズ☆」ってリアクションするのが定番ネタで、気づくと隈本県はおろか、国内外問わず活躍するスーパーゆるキャラになっていた。
その設定からハーベストの登場で人気に陰りが出るかと思われたが、逆に“正しい侵略者”という謎の地位を確立し、戦士たちの中にはクマモノくんのステッカーを武装に貼ったりイラストをペイントした、所謂“痛”精霊殻を操るパイロットまで出る始末。
プロデュース元が隈本県その物なのもあって爆発的な知名度を誇り、公式霊子ネットチャンネルはパイセンのまじかるーぷチャンネルですら歯牙にもかけない規模を持つ。
近々コラボ予定。
そして今回、上天久佐の守護精霊筆頭クロさんが持ってきたこのぬいぐるみ。
「こいつは“11年特別仕様「キング・クマモノくん」”だな」
資料室でクマモノくんグッズ目録(著・隈本県県庁)を片手に、揚津見先生がその正体を調べてくれた。
それは原作HVVにも登場した、有名アイテムだった。
※ ※ ※
「これは2011年度ゆるキャラマスターズ優勝記念に作られた数量限定グッズだ。ゆるキャラマスターズはその年を最後に戦争準備で開催されなくなったから、最後の関連グッズって意味でも価値が高い一品になるな」
ビニールについたクロさんのよだれを拭きつつ、揚津見先生が目を細め、ニヤリと口角を上げる。
「……未開封なのも非常にいい」
事実、クロさんの持ってきたぬいぐるみを包むビニールに開封の跡はなく、中のキングは非常にいい状態で保存されているようで。
「ワウワウ!」
「なるほどなるほど。先日戦いを引退した戦友からのプレゼントで、いらないなら誰かに渡してくれていい、って言われたんだって!」
クロさんと精霊契約している清白さんが翻訳してくれた通り、これは貰い物らしい。
「アワウンッ!」
「自分はもうぬいぐるみ遊びをするような年でもないから、天2の隊員に欲しい人がいるなら差し上げる、ねぇ。なるほどありがとークロさん! 近い内に本土のビーフジャーキー取り寄せたげるね?」
「ヘッヘッヘ!」
同じく契約済のタマちゃんに頭を撫でられて、クロさんは尻尾をぶんぶんしていた。
「ふむ、オレも事情は大体わかった。それで、ご当主殿の方はどうだ?」
「今確認しましたわ、木口さん。ウチでそれを買い取る場合……150万は最低でも出す品ですわね」
ザワワッ!
物流のほとんどを掌握していると言っても過言ではない天常家のお嬢様からのお言葉に、資料室に集まっていたメンバー全員に動揺が走る。
150万円は、この世界に流通する“金の延べ棒”よりもお高い値段である。
「これは……おいそれはいと、誰かの手に渡していい物ではございませんわね」
「そうだな。ひとまずは天2の備品として預かっておくべきだろう。……ほら、あそこを見てみろ。鏑木や手果伸なんかは目を金にしているぞ」
「え゛っ!? そ、ソンナコトナイヨー?」
「ナイニャー?」
露骨に目が泳ぐ二人はとりあえずスルーして、話を進める。
次いでスラっとした手を挙げて意見を出したのは、三羽烏のイケメン担当乃木坂君だった。
「でもさ。備品として倉庫にしまっておいても、盗まれそうだよねぇ?」
「そうだな。……何か、妙案でもあればいいのだが」
「だったらこういうのはどう?」
甘いマスクのさわやかスマイルと共に、彼が提案したのは。
「「なーるほど」」
俺にとっても中々の妙手、といえるものだった。
※ ※ ※
天2基地。
旧体育館メインホール――現緊急避難所兼屋内トレーニングスペースの中央壁付近。
「うむ、悪くない」
設営を担当した俺は、目の前に出来上がった成果物を見て満足する。
俺の胸くらいの高さはある、ガラス張りの台座の中に鎮座するキング・クマモノくん。
未開封のままだからちょっと見栄えは悪いが、それでもしっかりと全体像を確認できるようになっている。
乃木坂君の提案。
それは「どうせ存在バレてる高級品なら展示しちゃったらどう?」であった。
「こうして堂々と飾っていれば、盗みに入ろうとしても目立つもんな」
これを盗もうとするのはかなりの勇気と覚悟が必要だろう。
それに、価値ある物があるべき場所にあるこの感じ、嫌いじゃないぜ!
(アイテムとしちゃ所有者の全ステータスを+50してくれる中々のレアなんだがなぁ)
失って久しいが、クロさんからもらった『黒犬の首輪』の下位互換アイテムか。
あれはパイセンがまじかるーぷ契約するのに田鶴原様にあげたから、実質これが万能型のステ上げアイテムとしては最上級品か。
買い取ってめばえちゃんにプレゼントしたいところだが、受け取っちゃ貰えないよなぁ。
(クマモノくんぬいぐるみを抱くめばえちゃん……イイ!)
およそあり得ない状況を妄想しながら、しばし浸る。
「っとと、いかんいかん。今は考えるべきは他にある、だ」
数時間くらい跳びそうになりかけたところから一気に現実へ帰還して。
「これをここに置いた以上……まず間違いなく動くよな」
俺は、このアイテムに由来する“ある存在”たちについて想いを馳せた。
(どうせ天2にもいるんだろ? クマモノくんに魅了された……ハンターたちが!)
一部界隈で熱狂的なファンを持つキャラクター、クマモノくん。
そんなファンの中でも特に過激で、ルナティックな奴ら。
その名も――“クマモノくんハンター”!
(クマモノくんグッズを集めに集め、激レアグッズがあると知ればその身のすべてを賭してでも手に入れようとする命知らず共……)
原作HVVにも登場するその一派は、イベントルート次第で軍を2つに割る。
マジのマジで、隈8小隊が真っ二つに割れて内ゲバ始めるヤバいルートが存在する。
全体的にギャグノリで進むからプレイ中はなんか楽しいが、冷静に考えると人類の危機に何やってんだお前らである。
ハンター側に立った真白一人君がクマモノくん愛を語る演説シーンはマジ面白いけどね!
なんだよ“愛の形はクマ牧場。一日3食、クマ、プー、ベアー!”って。
「神子島戦線への出撃を前にして、そんなことになったら目も当てられねぇ……」
なんにせよ、天2小隊が割れる事態は避けたい。
そんな状況で乃木坂君の提案はまさに渡りに船だった。
(こうして極上の餌が飾ってあれば、小隊内のハンターは必ず動く。炙り出せる!)
目利きの天常さんが正しく見定め最終判断を下すのが、訓練期間の最終日。
ハンターたちが動くとしたら、それより前だ。
「……よし!」
端末を開き、俺は何人かの信頼のおける隊員へ連絡を送る。
それぞれに魅力的な報酬を出すことを対価に、クマモノくん防衛チームを作るのだ。
これは狂気との戦いではなく、攻略と防衛の訓練なのだという建前で。
「さぁ、やろうぜハンターたち。訓練の成果、見せてもらおうか!」
間違いなく天2の中にも潜伏しているであろう、クマモノくんハンターたち。
天2隊員同士の直接対決ともなれば一番の訓練になるに違いないと確信しつつ、俺は一人、ほくそ笑むのだった。
原作真白君「愛の形はクマ牧場。一日3食、クマ、プー、ベアー!」
原作姫様「クマ、プー、ベアー! クマ、プー、ベアー!」
民衆「「クマ、プー、ベアー!!!」」
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