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第130話 白と赤の輪舞

いつも応援ありがとうございます。


感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。

楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。

誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。


上位存在たちのターン。


 静かになった部屋の中で、新たに淹れた茶を啜る。

 苦みと甘み、その両方を舌で感じながら、私は心を落ち着かせていく。


『……新姫様』


 私を呼ぶ声に目を向ければ、なんとも味のある表情のγ-28275……いえ、私を新姫と呼ぶのですから、彼女も横井クスノキと呼ぶべきでしょうその人が、未だモニターを繋いでいました。


「なんでしょう?」

『……正直に言うと、さっきの話をどう受け止めていいのかまったく分からなくて』

「……そう、でしょうね」


 湯呑を置いて、私は彼の去った襖へと視線を投げる。


「黒木終夜さん。彼の言葉をそのまま信じるならば、異世界からの転生者にして、おそらく私たちの()()を知る人」

『ですよねぇ~。一応その辺気を使って口に出してない感じでしたけど。あの情報の出し方、完全にアタシらと同じ、時系列を理解してる奴が話すやり方でしたもん』

「はい」


 今日、顔を合わせた彼――黒木終夜さん。

 あの人は、いえ、あの方は……私たちの想像を軽く超えた存在でした。


(ラスボス因子に促され、自らを鍛え始めたものだと思っていましたが、聞けば推し活……彼が普段から公言しているそのままに、ただ好意を持った人のより良い未来のために、全力を尽くした結果……だったとは)


 ある種の狂気とも思えるその情念。

 それがこうして様々な形で世界に干渉し、今の状況を作り上げたという事実。


「赤の一族としても、あの方を必ずラスボスにするべく動いているのでしょう。あの方を何としてでも絶望に至らしめ、絶対なる勝利を掴みに行くのでしょう」

『なら、アタシらは黒木終夜がそうならないよう、全力を尽くすって方向になるのかな?』

「そうですね。そのためにも……私たちは知らねばなりません」


 今、間違いなく懸念するべきことがある。

 それはきっと、今日話した彼をして、未だ知りえない未知の脅威。



「彼の語った創作物における正史と、私たちの辿っている今との……乖離を」

『……うえへぇ~』



 もしも、彼の語った物語が真実だというのなら。


「何が同じで、何が違うのか。どこで綻び、どこで結び直されているのか」


 黒木修弥(かれ)が、これからも活躍し続けるというのなら。


「私たちは全力で事に当たらなければなりません。未来を……世界を守るために」


 その裏で、白の一族である自分たちが背負う、最も重き使命が……ある。



(……あぁ、どうか。たとえこれが偽りの再演だったとしても)


 それでも、私は願ってやまない。


「彼の紡ぐ物語が、そこに在る事を寿(ことほ)がれますように」


 今が、この先が。

 正しく幸せな未来へと繋がっているように、と。



『新姫様……』

「……ただただ、この身を尽くしましょう。それが彼との、友の前で誓った契約ですから」


 この世界に干渉した傲慢なる罪人として。

 その責は私こそが背負い、必ず果たさねばならないのだから。



      ※      ※      ※



 幽世の門の、その向こう。

 人ではなく精霊たちが住まう、世界の裏側。


 そこに、彼らはいて。


「ぐ、げぇっ……」


 そして、(たお)された。



「ど、して……?」


 地にひれ伏すのは5人の異邦人。

 この世界とは違う世界、赤の世界からやって来た上位存在たちである。


「どうして? その答えは単純明快、役目が終わったからです……よ!」

「ギャアアッ!」


 返事と同時に従える怪物に爪を振るわせ、倒れ伏す少女――赤の一族の戦士にトドメを差す。

 血だるまになって潰れ、粒子となって消えていくそれには目もくれず、ただ一人この場に立つ人物――白衣の男は嗤っていた。


「クッ……科学者(レオル)風情が我々の神聖な儀式を邪魔するなど……!」

「ゴホッ、ゴホッ。よもやここまでワシらの力を奪いおおせるとは……不覚じゃった……!」


 毒づく若い男の体半分はすでにこの世になく、また、長い髭を持った老賢者の瞳にも輝きはない。


 そして。


「………」

「許さん……許さんぞ、裏切り者め……!」


 喉を潰されゆっくりと滅びゆく最中にある、妖脚の美女を膝に抱えて。

 かつて剛腕を誇ったリーダー格は、その両腕を失っていた。


 それが、今日までHVV世界を侵略し続けた敵の大将たちの、この物語における末路だった。



「皆さんは十分に活躍してくださいました。ですが、これからの戦いには不要なのですよ」

「何?」


 歩き始めた白衣の男は、リーダー格に睨まれながら、若い男の傍へ行き。

 そして。


「姦しいだけの戦術家」

「ガァァッ!!」


 次いで、隣の賢者の元へ。


「判断の鈍った老賢者」

「ゴホォッ!!」


 二人にそれぞれ、彼らが持ち込んだ亜神級の一撃が撃ち込まれ、トドメを差していく。

 本来ならばそれぞれが支配権を持つそれを、今は白衣の男が独占していた。



「誇りだなんだ。そんなことでは演出が滞る。そんなことではより派手で素晴らしい闘争は描けない! ゆ・え・に!」

「!?」


 白の一族から奪った時空間能力で、白衣の男はリーダー格の真後ろに立ち。


「っ!?!?」

「ジルニコラ!!」


 消えかけの美女へトドメを差した。



「貴様ぁぁーーーーー!!」

「その気概をもっと早く見せてくれればよかったんですがねぇ?」


 身一つで飛び掛かろうとしたリーダー格を吹き飛ばしたのは、若者と老賢者の亜神級。

 蹄と杖の一撃に、両腕のない戦士はなすすべなく転がされ、地を舐める。


「ぐ、うぉぉ……」

「いずれにせよ、負けて祖国に帰ることになる貴方たちに、未来はない」


 白衣の男の手にある赤い結晶の中で、リーダー格が持ち込んだ氷狼が暴れている。

 これみよがしに晒される友の戦士として恥ずべき姿に、どこまでも尊厳が破壊されていく。


「なので、これも含めて有効活用させてもらいましょう。ね?」

「貴様ぁーーーーー!!」


 最後の力を振り絞り、リーダー格の男が跳んだ。

 だが、それで終わりだった。



 ズンッッ!!!!



 リーダー格の男は、その一撃で地に沈み、潰された。

 数多の怪物を雨あられと降らす大クジラのプレスなど、耐えようがなかった。


「お疲れ様です。貴方がたのここからの活躍はちゃーんと覚えていますので、しっかりとより派手に、より混沌に、最後へ続く演出に使わせていただきますよ」


 史実においてHVV戦役を最後まで遂行した5人の“赤の一族”は。

 こうして物語の結末を迎える前に、一人の男の戯れに喰われ、その役目を終えたのだった。


 世界が、また一つ捻じ曲がっていく。



「さてさて、手駒は十分。手筈も抜かりなく。次の神子島(かごしま)も、活躍を期待していますよ。黒木終夜……! そして、真白一人!」


 白衣の男はまた今日も。

 たった一人の舞台裏で、己が興奮に身を任せ舞い踊っていた。

未だ、世界の謎はそこにある。


応援、高評価してもらえると更新にますます力が入ります!

ぜひぜひよろしくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
…………あれ?  こうなると両陣営共にイレギュラーの存在によって、赤と白の約定が御破算になってお流れ。  もうこの時点でやり直しと言うか、取り合う意味が無くなって両陣営とも引き払って終わり。  に…
こういう神様気分の演出家って大抵最後は演出家から舞台に引きずり出されて酷い目に合うんですよね。
敵が共食いしてパワーアップしとる…。蠱毒みたいなもんか?くわばらくわばら…。こちらはこちらでより強く愛を叫ぶ必要がありますね!
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