第129話 修弥の真実、終夜の事実
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衝撃の真実を伝えられた終夜。その心は……。
「……貴方こそが、我々の戦いにおけるラスボスとなる存在。その最有力候補なのです、黒木終夜さん」
「俺が……」
俺こそが、ラスボス?
このHVV世界の命運を賭けてヒーローと戦い、勝てば世界のすべてを赤の一族の支配する領域へと塗り替える……決戦存在?
「残念ながら、それが真実なのです」
「俺が、ラスボスだって? そんなの……っ」
“信じられない”
そう続けようとした口が、気づきによって動きを止めた。
(久遠の闇イベント。めばえちゃんを苦しめたアレを俺が見ることができたのも、俺がラスボス候補だったから……ってことだったのか)
そう考えると、俺の体験した何もかもが、まるでその証明であるかのように思い起こされていく。
特別演習で強敵であるイフリートが投入されたのも。
天久佐の壁防衛戦で複数の亜神級が攻め込んできたのも。
日常を侵食するように、突如としてハーベストが人類圏に現れたのも。
それもこれも、俺を絶望させてラスボスへと覚醒させるための布石だったと、そう思えてしまって。
なんなら自分の髪がめばえちゃんとお揃いの黒白混じりだったのも、その伏線だったんじゃないかって――。
「――黒髪に白い房が混じった貴方のその髪型も、私たちがラスボス候補だと定めた者に現れる兆候ですので」
「そうなの!?」
畜生マジかよ!
なんてこった!!
「そんな……」
「驚くのも無理はありません。今日まで人類のために頑張ってきた貴方が、その人類を滅ぼす、最も恐ろしい存在へとなるかもしれないのですから」
知らず床に手をつきうな垂れていた俺の肩に、新姫様の小さな手がそっと添えられる。
慰めの手つきは優しく、そのまま俺の頭へと伸びてきて。
「ですがそれは、今というわけではありません。だからどうか絶望せず、立ち上がって」
だから俺は、その手を――。
「――っしゃあ!! いやったぁぁぁーーーーーーーーーッッッ!!!」
パァンッ!!
勢いよく、下から叩き上げた。
※ ※ ※
「!?!?!?」
『えぇ~~~~~~~~~~っ!?!?』
「よぉぉっし! よぉぉーーーし!!」
困惑する新姫と、モニター越しにワタワタしているクスノキ女史を横目に、俺は何度もガッツポーズを繰り返す。
「く、黒木終夜さん?」
『うえへぇ~、壊れちゃった? 壊れちゃったの?』
こっちを心配そうに見ている二人には悪いが、もうちょっとだけ浸らせといてくれ。
俺は今、きっと。
すべてのHVVプレイヤーの中で俺だけが触れられる真実に触れている。
(黒木修弥は、この世界がそれっぽい重要そうなキャラでも、ロボに乗れる子でも、あっさり死ぬ世界ですと読者に伝えるための存在だと、世界観説明のために消費されるためだけのモブキャラだと思われていた)
この言葉は、全部正しかったのだ。
彼は確かにロボに乗れるパイロットで、そして――。
(――黒木修弥。お前、ラスボス候補だったんだな。マジで重要なキャラだったんだな!)
冒頭であっさりと死ぬモブパイロットが持っていた、とんでもないバックボーン。
おそらく制作陣しか知らない、下手すると大元の設定を作った人しか知らないのかもしれない真実に、今俺は触れた。
さっきから全身の震えが止まらない。
恐怖でも、絶望でもない……感動で、俺は今猛烈に震えている!!
(しかもそれが、俺の最推しを救うためのキラーカードだってんだから、これ以上の喜びはねぇ!!)
俺がこの世界で暴れた結果。
推しではなくこの俺が、敵にとっての最有力ラスボス候補になっている。
つまり現状、我がフェイバリットファイナルスーパーエターナルヒロイン黒川めばえは、ラスボス化の運命から外れているということ。
(今の彼女は、踏み台型ラスボス少女なんかじゃない! 彼女の望む自由な未来へと、好きなように進むことができる!)
俺のこれまでの戦いは無駄じゃあなかった。
確かな結果として今ここに一つ、成果を上げたのだ。
(あとはそう、俺がラスボスにならないようにしながら、この世界を奪おうとする赤の一族たちを全員ぶちのめしちまえばいいだけ! 正史じゃそれは果たされなかったが、その道があること自体は、物語でも示唆されていた!)
ラスボスとヒーローが決着をつける。
それはあくまで赤の一族と白の一族が決めた戦争のルールだ。
俺たちが、この世界の住人たちが真っ向から敵対勢力に打ち勝つならば、その限りじゃない!
(俺たちの手で赤の一族をぶちのめせば、善意で手を貸しているだけという立場の白の一族が、この世界に必要以上の根を張る余地も大義もない。晴れてこの世界は俺たちのモノ、輝く未来を手にすることができる!)
今の日ノ本軍に整えられた兵器レベルであれば、亜神級にも勝利できる。
物量の差も、英国などの今なおハーベストと戦い生き延びている他国と連携を取れれば、十分に巻き返すことができる。その道筋を整えるのに、俺の原作知識は大いに活用できるだろう。
俺にとっての一番の懸念事項であった、めばえちゃんラスボス化計画が存在しないと分かった以上、あとはもう全力で、人類勝利への道を駆け抜けるだけでいい!
(赤の一族に俺が人類最悪のラスボスにされる? 上等だ! そうなる前にお前たち全員ぶちのめしてやる! すべては我が最推し、黒川めばえちゃんの幸せな未来のために!)
これまでもそうだったように、敵は俺をラスボスにしようとあれこれ実行してくるだろう。
だが、それがわかっているのなら、いくらでもぶつかって……乗り越えてやるさ!
「う」
『「う?」』
「うおおおおおおーーーーーーーーーーーー!! っしゃおらぁぁぁーーーーーー!!」
『「ひやぁぁぁぁーーーー!!!」』
歓喜の咆哮を上げる俺。
新姫様たちはこの世の終わりみたいに震えていたが、しばらくのあいだ放置して、俺は溢れ出る感情を全力で吐き出しまくるのだった。
※ ※ ※
魂の雄叫びすることたっぷり数分。
落ち着いて座り直し、ぬるくなったお茶を啜りだした俺に向かって、おずおずとモニター越しの丸眼鏡女史が声をかけてきた。
『え、っと。その様子だと絶望したり自棄になった……ワケじゃないよね、キミ?』
「取り乱して申し訳ない。ちょっと嬉しすぎて」
『嬉しすぎて?!』
驚愕してるクスノキ女史のことは置いといて、俺は新姫様に向き直る。
目が合った瞬間小動物みたいにビクッと震えた彼女だが、すぐに姿勢を正して真面目な顔で俺を見て。
「黒木終夜さん。私はかつて、貴方をラスボスとなる存在かどうか見定めるべく様子を見ていました」
そう切り出して、語り始めた。
「突如として自らを鍛え出し、力をつけ始めた貴方を陰から監視させ、その動向を窺っていました。不知火の壁が崩壊したとき、貴方が戦いに臨んだと聞いた際には目を見張りました。貴方は、我々の予想を超えた行動力を発揮しすべてを塗り替え世界を震わせていく。それが人類の未来に輝きをもたらす姿に、私は……貴方がラスボス候補である事実から目を逸らし、いつしか応援すらしていました」
「新姫様……」
それは、白の一族としてはかなりの致命的な行動である。
なにしろラスボスは、覚醒時にその素体となる存在の影響を強く受ける。
俺が力をつけるということは、そのままラスボスが力をつけるということになるのだから。
「赤と白を繋ぐ役目を負った豪造が暗殺され、両陣営の連絡が取れなくなってからも、貴方の快進撃は何度も私の目に留まりました。そのたびに私は、強くなっていく貴方を恐れ、同時に期待していたのです。貴方がもしも、絶望に負けない強き心を持った存在で在り続けてくれたなら、と……」
『そうだねぇ。キミは、あまりにも人類の利になり過ぎていたから。切り捨てるには惜しかったんだよ』
クスノキ女史もまた、俺に期待を寄せてくれていたのだろう。
今日まで何の接点も持たずにいたのは、こちらを見定めようとしていたのかもしれない。
「それもあり、あの子が……命が私の存在まで辿り着いたときには、時が来たのだと判断しました。会って、直接確かめて、この目でしっかりと貴方と向き合い、見定めるべきだと思ったのです」
これもまた、白の一族としてはリスキー過ぎる一手だ。
万が一にも俺が赤の一族の尖兵となってしまっていたなら、そうでなくても害意をもってこの場に来ていたなら、白の一族の中でも随一の弱さを誇る彼女に命の保証などない。
そんなリスクを負ってでも、彼女は俺と会うことを選び、こうして向き合ってくれたのだ。
「そうして今日、貴方と出会い、話をして。そして真実を語ってなお、その瞳に揺らぎがないことを確かめることができました」
ゆっくりと、新姫様が床に手をつき頭を下げる。
目の前の原生生物に、上位存在がそうすることの意味の大きさを、俺は知っている。
「……白の一族、α-10218として。そして、この世界に寄り添う新姫神として。貴方にお願いします。……どうか、この世界を救う手助けをしてください。黒木終夜さん」
彼女は。
長い長いこの世界での日々を経て、この世界に愛着を持ち、共にあることを選んでくれた。
白の一族に利するため、だけではなく……この世界に抱いた愛する気持ちに従って、今こうして俺に頭を下げたんだ。
それはこの世界に転生してきた俺からすると、とても共感できる気持ちだった。
向こうの過ごした数千年に比べたら、俺の30年弱なんて塵みたいなものだけど、それでも。
この世界を愛しく思っている。大好きだってのは、同じだったから。
「……こちらこそ、全力で協力させてください。俺の守りたいモノは確かにこの世界にあって、それを守るためには、二人の助けが必要です」
相手に倣って、俺も床に手をつき頭を下げて礼を尽くす。
床に額をこすりつけて、それでも足りないとグッと力を入れて押すくらい、思いを込める。
『「「………」」』
互いの気持ちを確かめるような数秒の静寂。
次に口を開いたのは、俺と新姫のやり取りを見届けたクスノキ女史だった。
『はい、それじゃこれで協力関係締結ってことで。二人とも顔上げて上げて~』
わかりやすく拍手をし、クスノキ女史はズレた丸眼鏡をかけ直してから真剣な声音で確認する。
『……アタシら共通の目的は、この世界から赤の一族の勢力を追っ払うこと。そのためにできる協力はお互い惜しみなく全力でってことで、OK?』
「OK!」
「はい」
『はーい、それじゃあキッチリ契約しておこうね~! これ、億が一キミがラスボス化したときの切り札の一つにもなるからさ。気休め程度だとは思うけど』
そうクスノキ女史が口にした直後、俺たちの前に一枚の契約書がヴンッと転送されてくる。
それには俺と新姫、クスノキ女史とが協力する内容を記した文章と。
「うおっ、ビッグネーム!」
「ここで私たちよりも上の立場となれば、彼しかいませんから」
見届け人としてサインされた――建岩龍命の文字。
「大阿蘇様御公認ってんなら、ちゃんと守らないとな」
「はい。私も友人の名に泥を塗る真似はできません」
互いに納得のサインを入れて、契約完了。
こうして晴れて、俺は現地の“白の一族”からの協力を得ることとなった。
「それじゃ早速だが俺が持ってる情報をもうちょっと開示するぜ。きっと一番気になってるだろう話に繋がるからバラすけど。俺、転生者なんだ」
『「え?」』
「前世じゃこの世界は創作物として存在しててな。だからいろいろな情報がゲームや設定資料として大量に開示されてて、赤の一族の情報だとまず――」
『「ちょちょちょ、待っ」』
「新姫様なんて新姫たんとか呼ばれてめちゃくちゃ愛され――」
「なんですかそれはぁぁ!?!?」
ってな感じで。
俺たちは情報を共有し、ここから先の未来へ向けてより良い道を探る同志となったのである。
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「……さすがは終夜様。とうとう事を成されましたね」
「うん? うん。やりたいことは大体できたな」
帰り際、軽く話を聞いた姫様がそんなことを言っていた。
(終夜様と建岩家の秘奥の秘奥にして実質的支配者たる新姫様が、大阿蘇様の名の下に協力関係を結ばれた。これはつまり、終夜様が建岩家を掌握されたにほぼ等しい。であれば、これからはより終夜様のために建岩のすべてを捧げられるということ……!)
「……?」
相変わらず天才のアルカイック美少女スマイルのその奥は、俺には推し量れなかった。
そして。
「黒木ぃ! お前まさか建岩に懐柔されたりはしてないだろうなぁ!? どうせ寄る辺を求めるならこのボク……じゃない、佐々家にしろっ!」
「黒木くん黒木くん! どうして二人で出かけたの!? せめて一声……ううん違う。今度一緒にお出かけしよう! お出かけ! もちろん二人っきりで!! ね! ね!?」
「どうせ貴方のことだから碌でもないことやってきたのでしょうけど、せめて連絡くらいはよこしなさいな。……これでもっ、心っ、配っ、したんっ、だからっ!」
「うおあああー!?!? うおっ、おっ、うぐおぉっジャブっ、ジャブ連打!?」
「………」
「あっ、めばえちゃん!」
「……ふんっ」
「No!?」
帰るや否やもみくちゃにされる俺を見て。
「うおおおお! 姫様! ちょっとこれ何とかしてくれ!!」
「はい、どうかこの贄にお任せください」
まるでそうなることが分かっていたかのような姫様は。
「……みなさま、どうかご安心ください。贄と終夜様は、ただただ前以上に緊密でより将来的な関係を結んできただけでございますので」
「「はぁー!?!?」」
「なに悪化させてくれやがってますのこの巫女姫様はなぁっ?! あ、誤解!! これは誤解なんだ! 待って、カムバック! カムバァァック! めぇばぁえぇーーーーっっ!!」
やはりというかなんというか、相変わらずのマイペースなのだった。
……っていうか姫様、やっぱりこれって覚醒――。
「これもすべては建岩の、ひいては世界のために必要なことなのです」
――ほな、覚醒と違うかぁ。
「贄はこれからも、終夜様のために力を尽くします」
「………」
……今はまだ、そういうことにしておこう。しておきたい。
新姫様はいわゆる“神代”から世界に干渉してる方なので、この世界における齢は数千歳だったりします。最初はもっと挙動がシステムっぽかったそうですよ。
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