第128話 開示と擦り合わせ~新姫様たちと話そう!~
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今明かされる、驚きの真実……!
白の一族。
六色世界で5番目に成立した白の世界に住まう者たち。
時空間を操る技術に長け、そんな強大な力を持つ自らを律するため、徹底した管理社会を構築している法理重視の上位存在。
国同士の争いが起これば、過去に干渉して戦局を操り自国を勝利へ導かんとする強国である。
自らを“時空秩序の管理者”と名乗る彼らは、今回、赤の一族と対立した。
両国の境にあった下位世界への侵略行為を彼らは看過せず、対抗策として過去干渉を行なったのだ。
歴史を変え赤の一族の侵略に原生生物が対抗できるよう力を与え、一方的な侵略を戦争へと変え、かつ勝利させるために。そしてその功績をもって干渉した世界に根付き、後々の影響力を残すために。
そんな使命を帯びてこのHVV世界へと跳んだ者たち――時間干渉者。
今、俺が相対しているのは……そんな上位世界からの尖兵とも呼ぶべき者たちだった。
(とまぁ、ここまでシリアス決めたけど。実は言うほど緊張しちゃいない。なんたって相手はあの……“新姫様”なんだからな)
大阿蘇十二神八宮、新姫――こと“白の一族”α-10218。
彼女は本作HVV屈指の人気キャラTOP5の内の一人である。
幼気で儚げなアルビノロリのビジュアルはもちろん、その柔らかな態度や誠実な性格など、彼女をアゲる情報は枚挙にいとまがない。
本格的に登場したのは正史扱いである原作小説版の今を描いた“HVV戦役編”の終盤と遅いが、彼女の登場と共に語られた世界の真実のインパクトとその後の活躍もあって、多くのファンたちの印象に残り、また愛されている。
かく言う俺も、新姫様のことは結構好きだ。
白の一族のことは赤の一族同様うちの推しを踏み台にした罪でボコること確定だが、その中でも彼女とその一派には、特別恩情があっていいものだと思っている。
なぜならば――。
「――黒木終夜。貴方の言う通り、黒川めばえのラスボス化計画を止めたとして」
「!」
「その先は、貴方たちにあるのですか……?」
(……釣れたっ!!)
そう、なぜならば。彼女は――。
「――ある! 要は赤の一族を、この戦いの旗振り役を全部俺たちが直接ぶちのめしたらいいんだろ? それを俺がこなしてみせる!」
「……!」
『ええーーっ!?』
俺の言葉に大きく見開かれた赤い瞳に、白い五芒星が浮かぶ。
感情が高ぶった証であるその現象に、俺は自分の知識が間違ってないことを確信した。
(やっぱり、この世界でも新姫様は……俺たちの味方側になってくれる!)
新姫――こと“白の一族”α-10218。
彼女が人気になったその最大の理由。それは……正史において白の一族を裏切りHVV世界側の味方になってくれたから。
そして。
「で、できるのですか!? そのようなことがっ!?」
「ぐぉっ!?」
パァァァッ!
こんな風に、喜色と期待に染まり切った笑顔をあっさりと見せてくれる危うげな無垢さ。
普段の知性的な態度からは想像できない、見た目相応の感情的な姿とのギャップ。
かつて数多のオタクたちを“萌え”させ“新姫たん”と呼ばせた……圧倒的ポテンシャル!
(これが、これが人気TOP5入りキャラが見せるパワーか!! 心に最推しがいなければ、一撃で堕ちるところだった!)
その実物を目の当たりにした俺もまた、目を見開くほどに戦慄させられたのだった。
※ ※ ※
『……それでぇ。目的が黒川めばえのラスボス化計画の阻止っていうのなら、今日この場でやりたいことは、その交渉ってことでいいのかなぁ~?』
「それでいい」
お目々キラキラご期待モードになってお茶とか用意し始めちゃった新姫様の代わりに、本土で兵器開発やってる横井クスノキ女史――“白の一族”γ-28275が話を進めてくれた。
中空に浮かぶモニター越しの彼女の声には、どこか諦めたような雰囲気が漂っていた。
『とりあえず、黒木終夜……くん。キミの知ってる情報を、擦り合わせもかねていくつか教えてくれない?』
「もちろん」
『う゛っ。やっぱり即答……うぁー、聞きたくないなー』
情報戦の不利を理解してか、クスノキ女史が渋面を浮かべ髪を掻く。
後ろに一つ結びしただけの雑な手入れしかしてなそうな灰色のそれは、けれど不思議な力が働いて、程よくくたびれた雰囲気のまま維持されていた。
「そうだなぁ……とりあえず今開示できるのは……」
『その言い方がもうアタシら流じゃ~ん』
恨めしそうな声を聞き流し、俺は今彼女たちに話せる情報を原作知識から拾い上げていく。
ひとまず自分が今、どんな状況にいるのかの復習もかねて、この辺りか。
「まず。俺たちの世界に目をつけた赤の一族がハーベストたちをけしかけ、それに対抗する形で白の一族が4度の時間干渉を行なった。現在この世界の住人である俺たちとハーベストたちが争ってるが、その裏にあるのは赤と白の勢力争いだ。この世界の実権をどちらが担うかってのの代理戦争ってのが、俺たちの戦いの真相になる。だよな?」
『………』
「沈黙されると共有しようがないんだが? まぁ、白の一族的には国際法で決まってる“時間干渉していいのは3度まで”ってルールを破ってるわけだから答えにくいのかもしれないが。咎める気はないから答えてくれ」
『あ、うん。うん……合ってると、アタシも思うよ?』
うん。
「……でもこれ、違うよな?」
『!?』
指摘してやると、クスノキ女史の表情が、彼女の丸眼鏡越しにもわかるほどに強張った。
「最低でももう1回。時間干渉が行われている。それもおそらく、そっちが把握してない形で」
『………』
「そうだろ?」
『……アタシが3度目の時間干渉に被せて行なった、4度目の時間干渉。そこで計測された数値が、明らかに予測していた値を大幅に超えていたんだよ』
「だよな」
苦々しくこぼされた彼女の答えに、俺は深く頷いた。
(実はこのクスノキ女史。赤白戦争的にはほぼほぼルール違反な人物である)
赤の一族や白の一族が存在する六色世界。
そこに住まう彼らが俺たちが住む世界のような下位世界の奪い合いやらで争うときには、いくつかのルールが設けられている。
赤の一族は侵略する戦力――特に亜神級とここでは呼ばれる将クラスの存在を、侵略前にちゃんと宣言するだとか、白の一族が下位世界へ時間干渉するのは3度までだとか、対立一族が直接戦い殺し合ってはいけないだとか、そういうのが一応決まっているのだ。
そして当然、彼らはそれをまともには守らない。
ルールの裏をかいて、お互いが有利に進めるようにあれやこれややらかすのだ。
俺たちの戦い――HVV戦役と呼ばれる戦いにおいても、それは変わらない。
表向きルール違反はなかったと語られる今回の戦いにおいて、白の一族はしっかりとルールの裏を掻いていたのである。
「3度目の、γ-25040の時間干渉とまったく同じタイミングで後出し時間干渉して、開発が遅れてた精霊殻周りの進行を加速させてくれたんだよな」
『……うえへぇ~』
「まー、こうやって暴いておいてなんだが。そのおかげで俺たち人類、日ノ本はどうにかこうにか戦えるようになって首の皮一枚命を繋いでいるわけだから、実際のところは感謝感謝って感じだぜ」
『あはは……流石はあのピーキーすぎるイミフ機体、呼朝を贈られるパイロットだねぇ』
「正直白の一族のことは嫌いだが、新姫様とクスノキ女史は特別だ」
『うえへぇ~。その言葉は素直に受け取りづらいなぁ~』
「ホントホント。感謝感謝」
『そこじゃなくてぇ~』
クスノキ女史も、最終的には新姫様に与して俺たちの味方になってくれる。
それがあったからこそ、原作の真白一人たちは上位世界に殴り込みに行けたのだ。
「ってことでまた今度、アングラ霊子ネットに新しい開発レシピ流しておくぜ!」
『もう直接送ってきていいんだよ? ホワイトキャットちゃんのデータ開くの超面倒なんだからさぁ~』
この人も、新姫様と同じでなんだかんだ俺たちHVV世界の人類に愛着を持ってくれる人で。
それが彼女、γ-28275。
横井クスノキ女史なのだ。
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『キミの言った通り。アタシは3度の時間干渉では勝率が低いと見た一族に送り込まれた、4度目の時間干渉者』
クスノキ女史はお手上げのポーズをとって、俺の言葉に続けてくれる。
『その手段は3度目の時間干渉にピッタリ合わせて干渉し、最初から3度目の時間干渉で一緒にやってきてたんですよ~って嘯くというやり方だったんだよぉ』
中々に小癪である。
特に、時間干渉に関わる数値を計測できるのがほぼほぼ白の一族だけってところが。
これで“時空秩序の管理者”を名乗ってるんだから、お笑い種である。
「……で、そこを見事に白衣の男に利用されたわけだ」
『……うん。そう、みたい』
いよいよ話題に出てくる“白衣の男”だ。
隈本城でドラゴンぶちのめした後に相対した、赤の一族の一人。
おそらくは白の一族の時間干渉能力を、赤の一族の略奪能力でモノにして使ったやべぇ奴。
そして現状、ルール無用もいいところに暴れまわっているだろう主犯である。
「………」
ぶっちゃけよう。
俺、こいつのこと…………全っ然知らねぇーっっ!!
直接相まみえても、あいつが何者なのか、俺にはさっぱりだった。
※ ※ ※
(マジでマジで、白衣の男イズ何? 原作知識に全然ないんだが?)
ガチで設定資料読み込み勢の俺をして、その正体がわからない。
(多分見た目からして科学者なのはわかるんだが……そもそも赤の一族の掟で、侵略戦争には戦士と賢者しか選ばれねぇはずなんだが? 奪うことにおいては超拘りもってる赤の一族的にも、かなりバグった存在だよなぁ?)
考えてみても、わからない。
その正体に関しては推察するしかないが、情報が足りない。
少なくとも正史と呼ばれる原作小説版において、こんな奴は1ミリたりとも存在しなかった。
「あの白衣の男について、そっちは何か知らないか?」
『それはこっちのセリフだよ、キミ。キミこそあの男について何か知らない?』
「知らない。他の赤の一族“5人”については趣味嗜好まで知ってるが」
『それはそれでなんでって聞きたくなるんだけど~?』
俺が嘘をついてないと悟るや否や、モニターの向こうでクスノキ女史が頭を抱える。
『うう~。ただでさえ画面の向こうにイレギュラーがいるのに、そのイレギュラーがイレギュラーって言う存在がいるなんてぇ~……』
日ノ本の精霊殻開発を陰で支える叡智でも、わからないものはわからないらしい。
だが、言うに事欠いて俺をイレギュラー扱いするのはいただけない。
「大丈夫だ、横井さん。俺は味方だ!」
『こんなアタシら以上のガチ情報握ってる原生生物がいるものかよぉ~~!』
丸眼鏡ズレさせながら嘆く彼女の姿は、どことなく六牧司令と似ている気がした。
「……白衣の男には、もう何度も翻弄されてしまっています」
「新姫様?」
ここにきてポソッと。独り言を呟くような小さな声で、新姫様が口を開く。
見やればその顔に、深い悔恨の念がありありと浮かんでいて。
俺は差し出された福丘産の美味しいお茶をいただきながら、彼女の言葉に耳を傾ける。
「赤の一族との繋ぎ役であり、戦争見届け役でもあるγ-25040……西住豪造の暗殺や、建岩家の内部すら含んだ各地での暗躍。ルール違反である亜神級の同一戦場同一タイミングで同時投入するなど……。彼の行動と思われる工作や不正には、何度も煮え湯を飲まされています」
「ふぅ……そういや姫様が、白衣の男が建岩の者と接触したとか言ってたな」
「はい。あの時は私を通さず情報をやり取りされてしまい、結果、私たちにとって最も重要な切り札の一つであるヒロイン――建岩命を、想定よりも早く天2へ……戦場へと送り出すこととなりました」
「ごふっ! ゲホッゲホッ!!」
姫様来たのアイツのせいかよ!?
おかげでどんだけ俺がワヤクチャになったか……!
「あ、あいつマジで無茶苦茶してやがるな……」
『無茶苦茶っぷりならキミも相当だと思うけどね~?』
画面の向こうで頬杖ついてる人はスルーして、お話を続ける。
「この分だと、ここに新姫様がいることも完全に把握されてるよな」
「だと、思います。それでも害されず泳がされているのは、おそらくは彼の何らかの意図がゆえかと……それがいかなる物なのかは、私にはいまだ、測れません」
「………」
白衣の男の意図。
俺はそれを、知っている。
「……より大きな混乱を。より大きな戦いを。より派手で、より白熱する物語を。この手でこの舞台に演出したい」
「! それは……?」
「あいつが俺に直接語って聞かせてくれた目的だ。とにもかくにもこの戦いを引っ掻き回して酷い物にしたいんだとさ」
ついでにあいつと次にやりあうのは神子島になっていると伝えれば、新姫様はまた顔をぱぁーっと明るくして笑顔になった。
「それがわかっていれば多少は対策も打てます! 貴重な情報、ありがとうございます!」
「どういたしまして」
新姫様にお手々掴まれぶんぶん上下に振られながら、俺は今だと投げかける。
「開示する情報としては十分に有益な物を出せたろ? なら、俺の望みについても色いい返事を期待したいぜ」
「あ……」
そもそも。
俺はここに、白の一族の暴挙を正しに来たのだ。
世界のためと言って、俺の推しを踏み台にしようとするなどという、暴挙を。
「えっと、そのことなのですが……」
「難しいことじゃないはずだ。俺が赤の一族連中をぶっ飛ばすのに全力で協力してくれれば……」
「いえ、そうではなく」
俺の手を掴んだまま、新姫様が何やら申し訳なさそうな顔をする。
再び彼女の赤い瞳が俺を見上げたときには、その瞳には困惑と、謝罪の念が見て取れた。
「あの、黒木終夜……さん。どうか、どうか絶望せぬよう、心してお聞きください」
「ん?」
なんだ?
なんかこの流れ、最近もあった気が――。
「赤の一族が提示しているラスボス化計画の第一候補は、黒川めばえではありません」
「え?」
「赤の一族がその最有力候補として名を出していた人物、それは……」
俺の手を掴む新姫様の手が、力を増す。
「……貴方です。黒木終夜……さん」
握りしめてきた彼女の両手が、やけに冷たく感じられた。
ルートによってラスボスが変わるパターンって、あるよね。
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