第125話 マリオネット
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誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。
誤字にはなんとか対応できてますが、感想のお返事遅れて申し訳ありません!
元気になったら必ず書きますので! のんびりお待ちください!
第4部エピローグ。
重要人物たちの今を、どうぞ。
あと、今回あとがき長いです。よろしくお願いします。
これは、黒木終夜が建岩命とやり取りをしていたタイミングの出来事。
人混みを避け、公園から地下駐車場へと続く物陰にて、周囲の視線から逃れるように縮こまりながら彼女――黒川めばえはそれを取り出した。
霊子ネットリンカー全盛の時代にあって、旧時代的な手持ち式の端末。
それもまた霊子ネットへと接続できる道具であり、名を“霊子スマホ”という。
「ん、ん」
耳を覆う黒髪を払い端末を当て、親指で通話ボタンを押す。
ぷるるるる、ぷるるるる、ぷるるるるる……。
「………」
静かに待つこと、6コール。
プツッ。
「私だ。お待たせしたね、めばえ君」
「あ、おじさま……!」
目的の人物と繋がった。
「ニュースになっているから心配していたよ、めばえ君。無事だったかい?」
「あ、あ、はい……無事、でした」
「それはよかった。詳しい話を聞かせてくれるかな?」
「は、はいっ」
“おじさま”と呼ばれた声の主に対し、めばえは緊張と、それ以上の信頼をもって応える。
電話の相手は当時身寄りのなかった彼女を支援した……いわゆる恩人であった。
(おじさま。孤独だった私を見つけ出してくれて、どうしようもなかった場所から助け出してくれた人)
母の実家に連なる親戚筋の人で、良くない身分の父と駆け落ちし、勘当された母のことをずっと心配してくれていた優しい人。
会えば普段から白衣を身にまとう、芝居がかった話しぶりの愉快な人だった。
おとぎ話好きの彼女は、その人を“あしながおじさん”や“魔法使い”の類だと、心の中で評していた。
それくらい不思議で、特別な人だと思っていた。
「うん、うん。今回も大変だったね。だがもう大丈夫だ。彼が、黒木終夜が解決してくれたのだろう?」
「そう、です。黒木終夜は……やっぱりとても強くて、すごい人だと思います」
「うん、うん。私もそう思うとも……だが、わかっているね?」
「はい……」
今日遭った出来事を伝え終えたところで、両者のあいだにあるのは……緊迫。
なぜならば、そう。
黒川めばえは、知っているから。
「だからこそ、彼がラスボスになることは、絶対に阻止しなければならない」
「はい」
……世界の真実の、その一端を。
「人類の希望たる黒木終夜の身の内には、赤の一族が悪意を持って埋め込んだラスボス因子が存在する。彼の中に眠るラスボス因子が目覚めたとき、彼は人類の敵――地獄の災厄へと反転してしまうのだよ。そうなったとき、いったいどれほどの人が絶望してしまうか……」
「はい……」
「ゆえに、そうなる前に……彼が英雄であるうちに、私たちが終わらせてやらねばならないのだ」
人類の希望、黒木終夜の真実。
決して見逃すことのできない、世界が滅びうる可能性。
物語のような現実が、そこにはあった。
「いいかね、めばえ君。何度でもキミに伝えよう」
そんな、あまりにも残酷な世界の真実を知る彼女には、使命がある。
「世界の敵を、キミがその手で倒すんだ。ヒロイン因子を持つ、特別なキミが、ね?」
「っ! はい……!」
ヒロイン――それが、己に課せられた運命なのだと。
他の誰でもない自分にしかできない特別だと、そう告げられて。
「そうすればきっと……キミが導きの星と出会う日が、きっと来る。なぜならヒーローとヒロインは、必ず出会う運命なのだからね?」
「はい……!」
その先の未来に。
己を久遠の闇から救った導きの星との出会いがあると、囁かれて。
「この世界は、キミを物語のヒロインに選んだ。キミが、世界を救うのだよ」
「はい、おじさま……!」
おとぎ話をよるべとするような“普通の少女”は、己の行く道を決めた。
「世界のために……私が、黒木終夜を倒します」
「いい子だ……私も全力でサポートする。キミの行く道に真の希望の有らんことを」
決意と共に通話を切る。
物陰から姿を現せば、今日、いくらか距離を近づけ親しくなった友たちが駆け寄ってきた。
しどろもどろになってやり取りをしつつ、しかし、めばえは考える。
(彼女たちは世界の真実を知らない。私もおじさまから聞かされなければ、わからなかった。でも、知らないならそれでいいんだ。こんな残酷な運命に挑むのは、ヒロインである私だけで、いい)
彼女たちの未来のためにも。
自分こそが、この使命をやり遂げる。
「………」
視界に、人類の希望を捉えた。
黒に白色の房を混じえた、自分と似た色合いの髪を持った若き戦士。
(おじさま、私の導きの星、どうか、見守っていてください。私が必ず、黒木終夜を討ちます。彼が真の絶望に堕ちてしまう、その前に……!)
ギュッと、拳を握り。
しばらくのあいだ彼女は真っ直ぐ、倒すべき敵を見据えていた。
※ ※ ※
「――よい成果です。真白一人」
「RR……邪魔をしないでくれ」
「いいえ、今日はもう撤退し休むべきです」
神子島戦線。
それは日ノ本九洲においてもっとも長く激しい戦いが繰り広げられている場所。
10年を超える歳月を経てなお人類と侵略者のせめぎ合いを繰り返す戦いの最前線で、今。
黒い精霊殻を駆り、真白一人は戦っていた。
「僕は一刻も早く強くならなきゃいけない。そうだろう?」
「その通りです、真白一人。ですが貴方に倒れられると、人類に明日がありません」
「………」
敵を蹴散らした黒い精霊殻の肩には、真っ赤な女が寄り添っていた。
赤いコートに目深にかぶった赤いつば広の帽子。
さらには赤いサングラスなどという、ただただ赤く目に悪いビビットな格好の女――RR。
真白一人は彼女に、人好きする常とは違う冷たい態度を取る。
「こんなところにボクを連れ出して戦えと言っておきながら、でも倒れちゃダメだなんて。無茶振りが過ぎるんじゃないかい?」
「為さねばなりません。為さねば彼には勝てません。そして私の提案に矛盾はありません。的確な経験とそれを整理する休息があってこその成長が」
「わかった、わかったよ! 撤退する!」
RRの淡々とした口調に居心地の悪さを感じながらも、一人は機体を戦場から遠ざける。
彼女の用意した結界に入り、端末を操作し機体を収納すれば、改めて赤い女の姿を瞳に映した。
(……あの日、謎の白衣の男に刺された日。僕はRRに命を救われた。そして彼女の口から、世界の真実を知らされた)
いずれ世界はラスボスとヒーローとがぶつかり雌雄を決する。
そのときラスボスと戦うヒーローになるのが己なのだと、真白一人は知らされた。
(でも、そのラスボスとなる存在が……彼だなんて)
黒木終夜は、ラスボスとなりうる。
彼がラスボスとなれば、今の人類に勝ち目はない。
RRから告げられた言葉を、最初はにべもなく嘘と断じた彼だったが、今は違う。
(彼に呼応するように前代未聞の亜神級の侵攻が繰り返され、革新的な技術更新が行なわれている。その上、最近は支配圏を越えた強力なハーベストの出現も確認されている。目まぐるしく世界が揺れ動き、加速している。まるですべてが終末へと迫るかのように……)
日ノ本を揺らす数々の動乱。
その中心にいるのもまた、黒木終夜だったと気づいて。
(もしもRRの言葉が本当なのだとしたら……あれだけの強さを持った存在が、人類に牙を向ける可能性があるというのなら……)
少なくとも今。
彼に対抗できる存在は……いない。
「貴方が、なるのです。なってください。真白一人。世界が選んだヒーローである、貴方が……」
「………」
「黒木終夜では世界を救えない。むしろ、彼がこのまま強くなり、ラスボスとなってしまったそのときこそが、この世界の終焉です」
未だ深いところを見せない謎の女の言葉を、すべて信じているわけではない。
それでも今、もしものために、真白一人は己を鍛え上げる。
「……休みなさいと、言いましたよ?」
「10時の方角。そこで戦う日ノ本軍の旗色が悪そうだから、援護してくる! 僕は、強くならなきゃいけないから!」
再び精霊殻を呼び出して、真白一人は最前線たる夜の神子島戦線を駆け巡る。
その黒い精霊殻は、幾度も神子島の戦士たちを救い、目撃され。
いつしか――『暗夜』と呼ばれるようになっていた。
ハーベストハーベスター
第4部 ファースト・ジェネシス 完
操り人形は、ダレ?
これにて、第4部完結でございます。
後半は創世-ジェネシス-していきます! 新たな未来を勝ち取ろう!
新たに紡がれる物語の先に待つものは、果たしてどんな姿をしているのか。
張った伏線を回収しながら、結末へ向けてゴリッと進めていきたいと思います。
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※本話投稿の11/22時点で、季節の変わり目の病気とか予定外の用事とかペットの老化とかいろいろな要因がありまして、書き溜めが消滅しました。つきましてはしばらくの期間を開けて書き溜めてから再び投稿したいと思います。
自分なりに納得できるクオリティの物をお出しできるように、余裕をもって続けたいので、なにとぞご理解いただけますと幸いです。
むしろ! この期間にお友達に紹介したり読み直したりしてもらえるとすごくすごくすごく嬉しいです!!!
書き足掻くためにも応援があると本当に助けになりますので、ぜひともよろしくお願いします!
投稿予定日が決まった時には活動報告に書きますので、そちらもよろしくお願いします。今のところ1ヶ月以内には書き貯めて用意できると思っています。
プロットはあるのでエターナルことだけはありませんのでご安心ください!
これまでで一番評価された本作、きっちり完結までもってきます!
ですので続けての応援、どうかよろしくお願いします!