第120話 ”街“という名の商店街
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出撃選択画面、すっげぇ時間かかるけどその時間が好きです。
隈本県隈本市、中央区。
かつて、明治に残る最後の武士たちを返り討ちにした名城『隈本城』。
その城下に広がるは、戦に伴い全焼した地に生まれた肥後魂の商店街。
中でも特に開発を、重ねに重ねた3つのアーケード通り。
『上通』と『下通』、そして『新市街』。
3つのアーケードで最も北に位置し、そして最も古い商店街『上通』。
他の2つのアーケードに挟まれた、繁華街における中央に座す商店街『下通』。
交通の要となる玄関口にして、多数の娯楽施設を有する商店街『新市街』。
これらを含む一帯を、隈本県民は愛と真心を込めて“街”と呼ぶ。
長きに渡り県民の“繁栄”の象徴として認められてきたこの場所は――。
「――つまりはこの私、天常家現当主天常輝等羅のお膝元でしてよーー!!」
「わぁー。ぱちぱちぱちぱちー」
隈本御三家が一つ、“繁栄の天常”。
それを率いる天常さんの、まさにホームオブホームであった。
ちなみに今俺たちが立っているのは、新市街に繋がる待ち合わせスポット『幸島公園』。
ここから見えるところはだいたい全部、天常さん家の系列・傘下。
マジヤバくね?
「お買い物なら街一択! この場所で揃わない物など、決してございませんわよ!!」
絶対的な自負を持って胸を張る天常さん。
今まで見てきた中で、一番ムフムフやっていた。
※ ※ ※
さて。
ご当地紹介も終わったところで、本日の出撃メンバーを紹介しよう。
買い物班として俺が呼び集めたのは総勢12名。
それぞれ4名ずつA班、B班、C班にわかれて買い物を行なう。
A班は天常さん、細川さん、鏑木さん、竜胆さんの天常家グループ。主に百貨店で高額な品を集める。
B班は木口君、乃木坂君、俺、鹿苑寺君のチーム男手。木口君がトラック運転できるので、デカくて重い奴を中心に買い揃える。
そして、残るC班は――。
「HEY! 楽しく行こうね、めばえ!」
「大丈夫、大丈夫ダヨ、めばえたん。わたしたちはコワクナイヨー?」
「ご安心ください。めばえ様の身の安全は、贄が保証いたします」
「……どう……して、こう……なった、の?」
――御覧の通り、めばえちゃん包囲網であった。
(本当ならパイセンもぶち込みたかったが、式典に合わせて精霊合神まじかるーぷの特別配信があるってんじゃなぁ……)
メンケア要因が足りない気がしなくもないが、オリーもいるし大丈夫だろう。
なにせハピハピハッピーギャルだ。彼女の気遣いチカラは保証する。
(オリーと同じくギャル寄りでノリが軽く、陰キャ属性も持ち合わせたタマちゃん。そこに護衛としても完璧な姫様でガードを固める。これだけの布陣があれば、マイラブラブ今だけじゃなくずっとラブリー推し美な黒川めばえちゃんも、きっと心を開いてくれるはず)
そう。
当然のことながら、今回の編成には意図がある!
それは――!
(――将を射んとすればまず馬から! でも将が馬に乗ってないから馬をまずプレゼントしよう作戦!)
めばえちゃんと仲良くなるために、まずめばえちゃんに仲のいい友達を作ろうというのだ!
(実のところ、現状のめばえちゃんって、順調に天2ぼっちになってってるのよなぁ)
我が最愛の推し、黒川めばえ。
彼女は基本的に、陰キャで排他的である。
(他者と積極的に関わろうとはせず、近づく人も最初は強く拒絶する。その内心でどれだけ仲良くなりたいと思っていたとしても、その本心にすら気づかないレベルで彼女は自分を、他者を、世界を呪っているのだ……ってのは、創作の話だけど)
現実での彼女もまた、ある程度の陰キャで排他的な行動を取る子だった。
俺だけに塩いのではなく、割と他の人たちにも塩めの対応が多い子だった。
(保健室に引きこもり、自分の仕事を黙々とこなす。ケガの治療なんかは最低限のやり取りでこなして、パパッと処置して終わり。プライベートのお誘いは9割以上が拒否され、唯一パイセンだけが多少一緒に行動することを許されているくらい)
数少ない交流相手のパイセン曰く「仲良くしたくないわけじゃない」とのこと。
そこまで聞き出せているなら、俺の取るべき行動は簡単だった。
「めばえはいつも保健室にいるし、交流会もあんなだったからね。いっぱいお話しようね!」
「そうそう。なんだかんだ絡むのって終夜ちゃんばっかりだしさ、わたしたちにもいろんな顔を、見せて欲しいにゃー?」
「ぁ……と」
「テイラーソン様、タマちゃん様。めばえ様の表情に困惑が発生しました。そのようににじり寄る真似はご自制ください」
「「はーい……」」
「……ふぅ」
うむ。姫様ガードが早速機能しているようで何より!
オリーとタマちゃんもやり取りから距離感を探ろうとしてくれているし、上々だろう。
(要は、チャンスをいっぱい用意すればいいんだ。めばえちゃんが他者と交流するチャンスを増やすことで、その人たちとのやり取りに慣れる。そうすることでさらに交流の輪を広げることができる)
幸い天2には手加減できる系のコミュ強が揃っている。
相手のことを理解して、相手に合った対応が取れる仲間たちが相当数存在する。
(そうして彼女の理解者が増え、かつ交流慣れして人と触れ合うことへの反射的な排他行動が減れば……その時こそ、俺が踏み込んでも受け入れてもらえるチャンス!!)
多少遠回りすることにはなるが、千里の道も一歩から。
遠回りこそが一番の近道だったって話も、この世には数多ある!
(……だから今は、彼女との交流の機会を譲ろう!)
めばえちゃんの頑なな心をどうか解きほぐしてくれ、ギャルズ&姫様!
その先の未来には、きっと、俺にも天使の微笑みを向ける彼女がいるはずだから!
俺はそう、信じてる!!
※ ※ ※
「さぁ、それではいよいよ買い物に参りますわよ! 解散!」
「「おおー!」」
天常さんの号令で、いよいよ買い物ミッションがスタートする。
「さぁ、買いまくりですわ!」
「はいお嬢様」
「輝等羅様~、お洋服見ましょう、お洋服っ」
「いいね。アタシも新しいインナー欲しいかも」
「ねぇねぇ、めばえたん。映画見よう映画!」
「えっ」
「WAO! ナイスアイデア!」
「えっ」
「めばえ様がよろしければ、映画館に参りましょう。いかがなさいますか?」
「……買い物、しま、しょう?」
ワイワイキャッキャと新市街へと乗り込んでいくA班、さっそく脱線しそうになるC班を見送って、しばし。
「……行ったか?」
「行ったねぇ」
「行ったな」
「行ったぜ」
チーム男手、B班。
「……なら、手筈通り。受け取りはオレに任せろ」
「さんきゅっ、木口! 恩に着ちゃう、超着ちゃう!」
「乃木坂君は161小隊の倉科さんへのプレゼント、鹿苑寺君も竜胆さんへのプレゼント購入、だな?」
「うっす。集合は全体集合の10分前でいいんでしたっけ?」
「問題ない。各々使える時間をフルに使え」
「「「了解」」」
当然のごとく悪巧み。
「それじゃ、解散!」
そして分散。
当然俺は……!
(……推しを、見守る!)
超常能力“隠れ身”……ON!
天久佐奪還戦を越える全身全霊のスニーキングミッション!
交流の機会を譲る? それはそう!
だが、それを陰から見守らないとは言っていない!
俺たちの担当分はすでに注文し、木口君が受け取ってくれるだけで終わる!
その後は木口君も行きつけのバーでお楽しみ予定! つまりは無問題!
我が策に死角なし!!
(うおおおおお!! めぇばぁえぇーーーーーー!!)
叫ぶ言葉も胸の内に秘め隠して。
「ねぇねぇ、めばえたんって飲み物何が好きー?」
「……カフェオレ」
「Good! 私もカフェオレ、好き!」
「辛い物は、お好きですか?」
C班から付かず離れず。
俺はこっそりこそこそ追跡し始めるのだった。
猛「実はオレ、六牧司令と同じ年なんだ」
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