第119話 久遠の闇とお祭り準備
いつも応援ありがとうございます。
感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。
楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。
誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。
いろいろと久しぶりなアレです。
ギア、上げていきます!
夢を見ている。
俺は一人、真っ暗な闇の中を漂っている。
もう3桁越えるくらい見た夢を、今日も存分に満喫する。
(久遠の闇イベントでめばえちゃんが見せられる悪夢……)
見始めた当初は本当にただ不快な夢だったが、今やすっかり変わってしまった。
っていうか、この世界のめばえちゃん寝不足じゃない感じなので、現状この夢見てるのは俺だけっぽい。割と解せぬ。
でも、推しがちゃんと寝れてるみたいなのでOKですっ!
くいっ、くいっ。
「お、来たか……ユメ」
くいくいっ。
今日も俺の服の裾を引っ張ってくる、何か。
俺はその何かに『ユメ』という名前を与えて呼ぶことにした。
形が分からないから男か女かもわからない。けどたぶん、精霊で女の子。
大人しそうな雰囲気と、闇っていう空間が持つイメージがそう感じさせてるのかもしれない。
ただ、なんとなく。
この子から、俺はめばえちゃん味を感じていた。
「………」
「ふむ、今日もやる気は十分みたいだな。だったら今回も、存分に頼らせてもらうぜ」
くいくいくいっ。
意思疎通手段である裾くいからも、彼女の自信を感じさせる。
「よーし、それじゃ……状況設定!」
そんな彼女に向かって、俺はいつものように言葉を紡ぐ。
「フィールド、『樋相島』。敵、亜神級“青の氷狼”……×2!」
指示するように告げた言葉が、この世界を変化させる。
視界の闇が即座に開かれ、見覚えのある島港のシチュエーションに。
続けて現れたあの日の凶悪な亜神級が、2倍になって今か今かと身構える。
「俺の装備、精霊殻『呼朝』、精霊ヨシノ……の代わりはお願いできるか?」
「………」
続けた言葉から瞬時に俺は呼朝のコックピットに座して。
くいくいっ。
ここに呼べない相棒の代役は、ここにしかいない不思議な何かが務めてくれる。
とまぁ、こんな感じで。
どうやら彼女、この世界をあれこれくっきりはっきり操ることができるらしい。
おかげで俺の貧弱イメージじゃできないような、様々なシミュレーションが可能になった。
「よし、準備万端!」
「………」
「「アオォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッッッッ!!」」
今夜も始まる特別訓練。
不思議な何か――ユメの協力で、俺はこの場で最上級の経験を積むことができるようになっていた。
「よっしゃあ! ユメ、限界突破駆動!」
「……!」
現実でできることを、現実以上のシチュエーションにぶつける。
正直言うと、最近の俺の伸び代って現実じゃだいぶん頭打ちで、割とここでの訓練頼りになっている感じなのだ。
仲間たちと一緒に訓練で固定値を稼いだところで焼け石に水。
いろいろともう、限界だった。
(だが、それでも……!)
六色世界連中を相手にするなら、もうちょっと、あと少し、俺自身が限界を越えたい!
そのための強さの指針なら、幸いにして持っている!
ヴンッ。
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“アーカイブ・極”を起動します。
記録している最新の、黒木終夜のステータスを表示します。
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Name:クロキ・シュウヤ Age:16
【Status】
体力 :4033/4033〔OW〕
気力 :3912/3912〔OW〕
運動力:2674〔OD〕
知力 :2348〔OD〕
魅力 :405 〔A〕
感応力:2511〔OD〕
士気 :4606〔OW〕
【所持技能】
殻操3・格闘3・射撃3
狙撃3・夜戦3・隠密3
整備3・開発3・事務3
医療3・情報3・家事3
歌唱3・演奏3・美術3
運転3・撮影3
話術3・諜報3・商談3
同調3・幻視3・錬金3
戦士3・司令3・参謀3
隊長3・班長3
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ステが3500を越えたとき、表示された“OW”の文字列。
最初は“OD?”表記だったが、あるタイミングからそうなった。
これはシステム開発者の一人である、なずなさんでもわからない仕様だったらしい。
そのなずなさんがあれこれ調べてくれた結果、読み方は……OverWorldだと判明。
世界の壁を超えた力って意味なのだと、俺は確信した。
(この辺のデータを弄ってきたのも、十中八九、六色世界の上位連中の誰かだろう。掌で踊らされてるのか、はたまた、こっちが乱した帳尻を合わせてくれてるのか……)
いずれにしても、目指すべきランクができたのはありがたいって話で。
体力・気力はOWに到達してる状態だから、運動力と知力、感応力をここまでぶち上げたい。
士気は知らん間に3500どころか4500越えてるから気にしない!
「うおおおお!! 磨き上げろ! すべては我が推し、めばえちゃんの未来のために!!」
「……!」
二体の青の氷狼が作る幻体たちを掻い潜り、それぞれの本体に一撃食らわせ突き抜ける!
俺専用の最強機体は、あの日の難敵を倍にしたって負けはしない。
「ユメ、シチュエーションおかわり!」
「……!」
もっともっと強くなる。
そのために俺は、今日も繰り返す久遠の闇を存分に喰らい尽くすのだった。
※ ※ ※
「完成披露式典が、開催されますわぁ!!」
朝起きて、朝活して、めばえちゃんに声かけて拒否られて、会議室に集まった。
今日の議題は、近々行われる天2基地拡張工事の完成披露式典について。
「これはこの前の出陣式みたいに、基本的には軍のお偉方を呼んでありがたいお言葉をいただくってだけの話……になるはずだったんだけど」
「そんなつまらない催しで終わるなど、この天常輝等羅が許すはずがございませんわぁっ!!」
「ってことなんで、何かやることになったんだ」
胸を張る天常さんの隣でげんなりしている六牧司令という、いつも通りな構図に。
「もちろんこうなると踏んで、佐々家でも人員を確保しておいたぞ!」
「建岩の者も、すでに祭りの準備に動かしております」
「当然ですわね!」
いつも通りに、御三家様によるご無体が罷り通って。
「じゃあ、天2としても何か活動実績を残さないといけないから、適当に何か考えてねぇ」
最終的に死んだ目をした司令が俺たちにすべてを丸投げして。
「お祭りですわ!」
「祭りだ!」
その瞬間、偉い人がテープを切るだけだった催しが、一日かけてのお祭りへと進化した。
「黒木くん黒木くん」
「なんだ?」
とんとん拍子で会議が進む中。
いるだけ参戦の清白さんが、ぽややんとした調子で言う。
「私ね、ここのこういうテンポの良さ、すっごく好きなんだぁ」
「そうだな……」
どこの基地にもない最強のフットワーク。
天2独立機動小隊は、本日も変わらず自由で……噂通りの超機動だった。
「では、お祭りの準備をしますわよ!」
天常さんの音頭が響き、これからやるべきミッションが打ち出される。
「黒木さん! 貴方には、街への買い出し班の編成をお願いしますわ!」
「街か」
指名されたミッションに、自然と俺の胸の内にある、二つの心が色めき立つ。
すなわち、ゲーマーの心と、今世で培った隈本県民としての心が。
(実は、隈本県民がこの文脈で語る街って言葉は、隈本市内のとある地域を指すのだ)
その場所の名は――。
「――隈本城下“アーケード街”、上通と下通、そして……新市街」
ゲーム版HVVでも実際に歩くことができるし、小説版でも何度も舞台になった場所。
隈本県民が最も栄えていると信じ、愛している約束の地!
つまりは……聖地である!
偉い人たち「わ、ワシらもイベント楽しみたい! え、テープを切ったら帰る? そんなー」
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