第113話 鹿苑寺桂馬と竜胆摩耶
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セット運用。
「いつでもどこでも好き勝手やりやがって! このゴスロリスキー!」
「この服の価値がわからない人とはぁ……話す価値ないでぇ~す! んべっ☆」
整備ドックで今日も繰り広げられる、鹿苑寺君と竜胆さんの口喧嘩。
「お。今日こそ桂馬が説き伏せるか?」
「NonNon! まぁやちゃんが自分を曲げるのは難しいと思う」
「……賭けるか?」
「OK」
もはや整備士たちから見世物のように扱われている二人のやり取り。
ここで作業する者にとっては、もはや見慣れた光景だ。
(ほぼ毎日、顔を合わせるたびにやり合ってるもんなぁ)
俺も何度この光景を目にしたことか。
(鹿苑寺桂馬と竜胆摩耶。か……)
この世界でも変わらずやり合う二人の姿に、俺は思わず足を止め、見守り始めるのだった。
※ ※ ※
鹿苑寺桂馬と、竜胆摩耶。
原作HVVから登場する二人はそれぞれ佐々家派閥と天常家派閥で、隈本御三家の対立を示す位置づけだった。
智と道徳を推し進める“教育の佐々”と、利と革新を推し進める“繁栄の天常”。
ともに日ノ本を守り導く者でありつつも、考え方の違いから相争う両家。
その対立が世界観にさらなる奥行きを生み、当時多くのファンたちを魅了した。
そんな物語を表現するのに、この二人の衝突は大いに貢献したといえよう。
しかし、だ。
「作業場にドレスって、みっともねぇとは思わねぇのかよ!?」
「お~も~い~ま~せぇ~ん☆ っていうかぁ、バチバチに染めた金髪リーゼントでかっこつけてる人に言われたくありませぇ~ん。きゃはっ☆」
「………」
この二人、原作と比べて一層当たりが強くなってる感じがする。
「オレのこれは軍規違反じゃねぇんだよ! お前のは明確な違反だっつってんの!」
「そんなオシャレがOKだったらぁ、まぁやのこれもOKOK」
「OKなワケねぇだろ! 規律を守って、その上で自由を謳歌しろっつってんだよ!」
「あーあー、聞こえませぇん。魂に響かないルールには従えませぇ~ん」
やいのやいのと続く口論を、遠目に見守る。
お互いに手を出さないのはこの数日のやり取りで把握済みなので安心だ。
(ゲームだと割とすぐ殴り合いになるんだよなぁ……そして鹿苑寺君が負ける)
最悪バトル展開になっても、周りが何とかしてくれるだろう。
あそこで西野君と賭けやってるオリーでも、二人まとめて制圧できるくらいには強いし。
それにここなら――。
「――お前ら! またかっ!?」
「んあっ!」
「あー……」
我らが整備班長、佐々君がいるのだから。
・
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「……まったく。いつもいつもお前たちは!」
「すんませんっ! 佐々さん!」
「ぷぅ~……」
正座させられている二人に対して、叱る側も二人。
「貴女も反省なさいましね、摩耶さん?」
「はぁ~い☆ 輝等羅様っ☆」
今日の説教は、佐々君だけでなく天常さんもついてきた。
天常さんと細川さんが乗る精霊殻『響輝』に関する新技術について、最近はあれこれと相談しているのだという。
「鹿苑寺。規律を守るのは大事だが、守らせることに時間を割いて作業を止めてしまっては本末転倒だぞ」
「摩耶さんも、自分の我を通すのは良いですが、通すならば通す者としてより細やかに周りへの配慮をなさい」
息ぴったりの両成敗。
御覧の通り、この世界の佐々家次期当主と天常家現当主の関係は、非常に良好である。
(ゲーム版開始時点で佐々君は戦死、天常さんは修羅モードだったことを思うと、今のこの関係性って奇跡みたいなもんだよな)
前世知識で知る世界とは大きく変わったこの世界。その大きな変化のひとつ。
今まさにゲームと同じ時間を過ごす中で、こうやって仲睦まじくしているこの二人を見るのは、俺的にはだいぶん癒されポイントだった。
だが。
「佐々さん! でも、こいつが……!」
「輝等羅様ぁ、この分からず屋がぁ~!」
そんな奇跡の二人に対して、後輩組は噛みついた。
やっぱりこの二人、お互いに対する当たりがちょっと強い気がする。
「お前たち、少しは仲良く……お互いに譲歩し合えないのか?」
「無理ですよ! こいつどれだけ言っても我が儘しか言わねぇんだ!」
「歩み寄れませんの?」
「む~りぃ~! この人頭が固すぎて話にならないんですってぇ~……!」
それぞれが敬愛する人の頼みでも、ご覧の有り様だった。
「ふむ……」
彼らのやり取りを少し離れた場所から眺めつつ、考える。
(このままだと、士気値下げ始めるよなぁ……)
俺の心にあるのは、危惧だ。
(この世界にも相性補正と関連性補正があることが分かった今、雰囲気を悪くする不仲は長引けば長引くほど小隊全体に影響が出る)
人間誰もが誰とでも仲良くなれるわけじゃない。
相性の良い悪いはあるし、育った環境や考え方の違いが対立を生むことも多い。
互いを受け入れられない者が向き合っても、碌な結果は生まれない。
そういうのはなるべく近づけない方がいいし、触れ合わせない、見せない方が丸く収まる。
だが、鹿苑寺君と竜胆さんの場合はちょっと厄介だ。
(この二人の場合それぞれが属する派閥の考え方に色濃く染まってて、それを正しいと強く信じ切っている)
それぞれに掲げ信じる正義が違う。そして、信じているがゆえに違う正義が存在することを認められない。そうして生まれるのが……。
「間違ってるのはお前だろうが!」
「間違ってるのはそっちですぅ~!」
互いを認められない者同士、わざわざ互いに向かっていって攻撃し合う……争いだ。
「参ったな……」
「参りましたわね……」
たとえトップ同士が寛容でも、その想いや考え方を全体に共有できるとは限らない。
また喧嘩を始めた鹿苑寺君と竜胆さんを、佐々君と天常さんは打つ手なしといった様子で見守っていて。
「おうおう、やるのかゴスロリスキー!」
「ダサダサリーゼントさんには負ける気がしませぇ~ん!」
絶妙に低レベルなその争いは、けれど根深く厄介な溝を作りそうになっていた。
(さて、どうしたもんかな……?)
打てる手は、ある。
が。
それを俺が打ってもいいモノか――。
「Hi.シュウヤ。ちょっといい?」
「お?」
――なんて、考えていたところに。
「シュウヤにね、相談したいことがあるの」
事の次第を同じく見ていた天2のハピハピハッピー英国パツ金そばかすギャルこと、オリー。
「付いてきてくれる?」
オリヴィア・テイラーソンからの、お誘いを受けたのだった。
金髪リーゼント真面目君&ゴスロリナイフロッキンガール。
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