第112話 春の風物詩
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ゴッドスピード&ナイフちゃんの章、始まります。
3月の末。
春の陽気が天2基地の敷地にも満ちる頃。
基地拡張工事も大詰め。
各所で景気のいい工事音が響き渡り、仕上げの作業を進めている。
「すまない、さっきのマニュアルの――」
「グランドあと2周! 気合入れろ!」
「そろそろ完成披露式典のレクリエーションについて――」
基地内は人の声も多く、騒がしい。
暖かな季節の本領は、隊員たちの心にもまた、やる気という名の新たな熱量を生み出しているのかもしれない。
「春……だな」
『そうですね』
天2基地整備ドック。
精霊殻『呼朝』のコクピットの中で、俺は契約精霊のヨシノと対話していた。
パイロットの仕事として日常的に行なう調律作業の傍ら、俺は彼女の話し相手になる。
『私のヨシノという名は、ソメイヨシノという桜が由来だと聞いています』
「あぁ、やっぱりそうなんだな」
『日ノ本のいずこでも見られる花。ありふれていて、どこにでもある花だそうですね』
「それだけいろいろな場所で愛されてきた花だとも言えるな」
『もしも私が人の形をとれるように成ったなら、どこかに桜のモチーフを入れたいところです』
「いいねぇ、いつか見てみたいもんだ」
こうして雑談しているあいだも、俺とヨシノの作業は止まらない。
コンソールを打つ俺の指も、呼朝内の別の端末を使って処理を続けるヨシノのプログラミングも、バリバリ稼働中だ。
「ん? 今ちょっと違和感なかったか?」
『チェックします……これは、2ブロック前の情報交差が悪さしていますね』
ヨシノは、元は精霊殻に宿った小精霊。
殻操に特化した存在なのもあって、こうして作業を手伝ってもらうと何倍もの効率が出る。
『テストプロトコル、動かします』
「了解。確認。問題……なし」
『当然です』
俺と契約してから一年。
一緒に経験値を貯めてきたおかげか、もはや俺の戦いになくてはならない相棒になった。
「作業予定時間を15分短縮。まーた作業効率上げたなぁ」
『最近は呼朝の方から、触れて欲しいところを教えてくれますので』
「それがわかるのはヨシノだけだからな」
このハイスペックぶりは、もはや原作主人公真白一人の契約精霊“蛍丸”をも越えているだろう。
原作HVVでは火力アップ効果、小説版でも武器威力をバカスカ強化してくれてたあの精霊も、我らがヨシノの万能っぷりには敵うまい。
「さて、時間が短縮できたってことは……」
『もう行くのですか?』
「ああ。訓練に割く時間ができたんだ、だったら、このチャンスを活かさないとだろ?」
『黒川めばえ、終夜の推しですね』
「そう! んんー! よしっ!」
コックピットを解放し、開けた空間に伸びをする。
交流会以降、隊員同士の積極的な交流および一緒に訓練、仕事を行なうことを推奨するお触れが、六牧司令認可の元、公的にお出しされた。
世はまさに、天2の大交流時代!
「これを機に少しでも多くのコミュを成功させて、絶対可憐シャドウガール黒川めばえちゃんとの良好な関係性を築き上げるのだ!!」
『現状にうかがう関係性は、とても良好とは言えない様子ですが』
「ごふっ」
1HIT!
『過干渉はかえって関係性を拗れさせる可能性があるのでは?』
「ぐふっ」
2HIT COMBO!
『というより、既に無理と言われているのですから、修復不可能な亀裂があるのでは?』
「がはっ」
3HIT COMBO! エクセレント!
『今は焦らず、陰ながら彼女の利になる存在で在り続けることが肝要だと思われます』
「ぐぅぅ、我が相棒ながら一切の容赦がない正論……!」
だが、だ。
「ちょっとだけ……」
『?』
「これは、ちょっとだけ思ったことなんだが……」
今日まで何度も失敗に失敗を重ねた先で、気づいたこと。
「俺、めばえちゃんからぶつけられる言葉から、言うほど嫌われてるって感じないんだよ。なんでか」
『その自分に都合良すぎる思い込みはもはや、ストーカー予備軍の思考なのでは?』
「おごぉぉっ!?!?」
COUNTER HIT! K・O!
「ぐっ、ごほっ……って、違う違う! そういうんじゃなくて!」
なんかこう。
なんか違うんだよ。
『わかりませんね』
「俺もちゃんと説明できない」
『主観に過ぎる思考は、あなたらしくありません』
「だよなぁー」
んでも現状、考えてもわからないものはわからない。
けれど確かに俺は、今のめばえちゃんの言動からなんらかの違和感を読み取っているのだ。
「うーん……」
『今はまだ、情報が足りないのでは?』
「そう、だな」
俺の知っているめばえちゃんは、あくまで創作物のめばえちゃんだ。
現実のめばえちゃんには彼女が歩んだ時間と経験があるわけで、その差異がこの違和感の原因なのかもしれない。
「よし、ならもっともっとめばえちゃんとコミュらねば!」
『結局そうなりますか。相も変わらず直線的な……』
「いやいや、ヨシノのおかげで考えがまとまった分スッキリしたぜ。ありがとうな!」
『! ……本当に、やれやれです』
そうと決まれば善は急げだ。
俺は呼朝から飛び降り、足取り軽くめばえちゃんの待つ保健衛生管理室へと向かう。
が。
「だーかーら!」
「なーあーに?」
整備ドックに響く、怒声が2つ。
見ればそこには、額を突き合わせて怒鳴りあう男女が一組。
「お前のその格好で、どんだけ場が乱れて効率落ちてるのか自覚してんのか!?」
「これはぁー! まぁやの魂、なのっ!! ぜぇーーったい、やめない!」
果たしてこれも。
暖かくなって、活気づいたせいなのか。
「んぐぅぅぅーーー!!」
「むうぅぅぅーーー!!」
鹿苑寺君と竜胆さん。
原作HVVにも登場する二人の、もはやお約束みたいな対立が、今日も繰り広げられていた。
サザンカ「年度末ニ急ぴっちデ進ム工事……コレモ日ノ本ノ春デスネ」
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