第108話 愛の序曲(ラヴ・プレリュード)
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タイトルの通り、終夜が活躍します(ネタバレ)
「……ずず」
交流会で見事にボッチになっためばえちゃん。
彼女は静かに、隅っこの方でジュースを飲んでいて。
「……あ、ねぇねぇ。めばえちゃ」
ギロリッ。
「……あはは、またねぇ」
「ぁ……」
近づいてきた乃木坂君を目力で追い払うその様は、完全完璧なコミュ障そのもの。
人間根っからの気質というか、積み上げてきたものはしっかりと軸にあるというか、この世界のめばえちゃんも、やっぱりめばえちゃんなのである。
たとえどんなめばえちゃんでも受け入れる覚悟こそあったが、それでも俺の知ってるめばえちゃんっぽさがそこにあると、なんとも言えず口元が緩む。
だからこそ!
(そんなめばえちゃんにも、この交流会を楽しんでもらいたい!)
そのために俺が動くタイミングは、今だ!
※ ※ ※
「レディース&ジェントルメン! 交流会に参加の皆様! 窓の外をご覧ください!」
通信越しに声を届けて、みんなの注目を集める。
その視線の先にいるのは俺……が乗り込んだ精霊殻『呼朝』だ!
「黒木終夜。交流会を盛り上げるべく、一芸を披露しまぁすっ!」
その手に、新体操なんかで使うような長いリボンを握って。
「BGM、スタートぉ!」
BPM早めのイケイケな音楽とともに。
「ヨシノ、いくぞぉ!」
『………』
「いくぞぉおおおーーーーーー!!」
『はい、はい』
レッツ・ダンス!
こんなこともあろうかと、こっそり練習に練習を重ねた精霊殻による創作ダンスを披露した。
「げぇっ、なんだいあの動きぃ」
「精霊殻の動きじゃないですわね」
「完全に人ですね。巨人です。巨人の奇行ですお嬢様」
「わぁ! 体ひねりながらジャンプしてリボンもちゃんと回してる!」
「見事な体捌きです。参考には、できそうにないですが」
「黒木ー! キレッキレだぞー!」
フッ。
みんなが大いに騒めいている!
「アレが、ハーベストハーベスターの実力……!」
「いや、さすがにアレと一緒にされちまったら筋肉も萎むぞ」
「そーそー。アレはアタシたちとはまた別格だから」
「やっば☆」
よーしよし!
ここらでひとつ、魅せてやるか!
「ヨシノ! 超過駆動からの、限界突破駆動!」
『……実行します』
全身から溢れる緑の輝き!
「っしゃあ! 回れ回れぇぇ!!」
その場でしゃがみ、手を地につけて、ぐるりと天地を逆転させる。
ブオオオオオンッ!
「うおおおおおお!!」
足を回してグルングルンと、その場で回るブレイクダンス……そして!
「そりゃ!」
姿勢制御でしゃがみポーズに。
そこから思いっきり地面を踏みしめて、全力全開の……大ジャンプ!
真っ直ぐ真っ直ぐ、高く高く、飛び上がる。
「うおおおおおおお!!」
ひねり! 姿勢制御! キック! パンチ! キャンセル! キック!
複合コマンドで作り上げる、大技!
グルンッ、グリンッ!
「あ、あれは!」
「……ムーン、サルト!!」
「精霊殻で!?」
「っていうかその場の跳躍から!?」
空高く舞い上がり、ひねりにひねって弧を描き、再び天地が逆さになってもなお、動き続ける!
「うおおおおおおおあああああ!!」
ビシィッ!
中空で一度、ポーズを決めて!
「あああああああ!!!」
あとは、着地!
「ヨシノ!」
『はい』
ズッシャァァァァァァ!!!
「………」
着地……成功!
「そして再び、ポーズ!!」
ジャァーーーーンッ!!
「………」
「………」
BGMが、止まり。
食堂兼調理場の窓から見えるグラウンドには。
空と大地を指差して、腰をひねったポーズの呼朝が立ち尽くしていた。
「……ふぅ。以上、黒木終夜と精霊ヨシノ、精霊殻呼朝による創作ダンス『愛の序曲』でした!」
舞い降りた沈黙の中、俺は堂々とタイトルを告げる。
(俺の中に溢れるLOVEパワーを、最新の精霊殻と最優の精霊、そして俺のフルスペックで表現した珠玉のダンス。よそじゃ絶対に見れないハイクオリティの一芸!)
返事は、ない。
喝采も、ない。
だけど。
(……やりきった)
完璧な演技!
完璧なアピール!!
交流会というイベント力も相まって、これは絶対に……キタ!!
(これはそう、大喝采の前の沈黙。嵐の前の静けさ。今に状況は一変する!)
ほらカウントダウン始めるよ。
5、4、3、2、1、ゼロ、ゼロ、ゼロ!!
ゼロ? ゼロだよ? ゼロ?
「……んん?」
ゼロになっても何も応えてくれない。
宇宙の心はどこにあるのか。
「……?」
改めてギャラリーを見る。
全員がポカーンっとしたまま、どころか、ちょっと顔が青いというか、なんというか。
たとえるならそれは……ドン引き顔で。
「あ、あれ?」
え、これ……やらかした?
「……め」
待て待て待て。
これはイケるはずなんだ。大丈夫大丈夫。
少なくともめばえちゃんになら、きっと……!
「ぁ……うぇ……」
あれぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?
めばえちゃんの顔も真っ青になってんですけどぉぉぉーーーーーー!?!?
(バカな!? おかしい!? こんなはずでは!?)
完璧な殻操技術で強さと頼りがいをアピール!
そして彼女の孤独を癒やす、燃え盛るような情熱のダンス!
(何より、真白一人君が冗談で精霊殻を躍らせて、それを笑ってもらうイベントを踏襲したはずなんだがーーーーーー!?!?!?)
イベントでは、確か……。
『なに、その……ぎこちない動き……ふふっ、変……だわ』
みたいな感じで好感度あっぷっぷする予定だったんだがーーーー!?!?!?
「め、めばえちゃ……」
「ひっ、へ……」
「へ?」
「……変態っ!!」
ぴゅーーーー!
「うおあああああああーーーーー!! 違うんだ、めばえぇぇぇーーーーー!!」
即行で精霊殻を飛び出し、逃げるめばえちゃんを追う俺。
「ヤバい、黒木を止めろ!」
「うおおおお!! 燃え上がれオレの筋肉!! アタァァァック!!」
「がぁぁぁぁっっ! めば、めばえちゃんが!!」
「黒木くんっ! このタイミングで追いかけるのはさすがにライン越えてるよ!!」
「手足を封じなさい帆乃花! 腕一本でも自由を許すと抜け出しますわよこの人は!!」
「んぎぃぃぃぃっ!!!」
直後に天2のみんなに取り押さえられ、俺は交流会の隅っこで反省を促す正座をさせられたのだった。
※ ※ ※
「うぐぅ……」
ドーモ。黒木終夜、デス。
ただ今“私は新人を過剰に怖がらせました”と書かれたプラカードを首から掛けたまま、交流会会場の隅っこで正座をしています。
きっと推しに笑ってもらえると思って実行しましたが、現実はままならないものです。
「さすがにアレはやりすぎよ、終夜」
「しっかりと反省なさいませ、黒木さん」
「はい……」
パイセンと天常さんにきつぅく叱られ、反省モードです。
(やりすぎ、やりすぎ……やりすぎ、かぁ)
俺なりに全力を尽くしたつもりだったが、結果が伴わなければただの暴走だ。
「めばえちゃん、ガチでビビった顔してたな……」
ぐふっ。思い返しただけで絶望が溢れ出す!
その顔もかわいいとか思ってしまった罪悪感も加わって、心が一気にひしゃげそうだ……!
「ちょいちょ~い、なんか黒いオーラでてるッスよー?」
「んぉ?」
声を掛けられ顔を上げれば、こちらを見下ろし右手をひらひらさせる長身の少女。
「兵器ちゃん……」
「それ何度も聞いてるッスけど、ウチのあだ名なんスね?」
兵器ちゃんこと瓶兆一二三さん。
今日の交流会でもひときわ存在感を消していた彼女が、ジュース片手に話しかけて――。
「あ、いや。出てく九條先輩たちに、黒木先輩監視してろって言われただけッス」
「――監視」
「はい監視ッス」
「………」
っすぅーー……。
今はその厳しさが、どうにもこうにもありがたいぜ。へへっ。
交流会で みんなの心が ひとつに なった!
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