第106話 さらなる成長を求めて
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今日も天2はいつも通り。
「うひぃ~。酷い目に遭ったッス」
清白さんから解放されて、瓶兆さんがズレた眼鏡を直しながら嘆いていた。
「いやぁ、ヒフミちゃんを逃がしたくなくって……」
照れ照れしている清白さんから事情を聞けば、訓練相手として連れてきたという。
「いやまぁ、雪姫様……清白さんのお母さんにはウチも世話になってるッスから、協力するのはやぶさかじゃあないんスよ? ウチがどれだけ助けになれるかはまっっったく保証できないッスけど」
三下口調で答えつつ、立ち上がる彼女の背は高い。
さすがに筋肉マスター木口くんほどじゃあないが、それなりのタッパで俺よりちょっと大きい。
これが原作ハベベにも登場する人気キャラクターの一人、兵器ちゃんこと瓶兆一二三のサイズ感かと、改めて感動する。
「どうしたんスか? ウチの顔に何か付いてます?」
「……砂が、ついてるな」
「んべぇーッス!?」
ポニテをフリフリ慌てて砂を払う瓶兆さんから目を離し、清白さんへと再び向き直る。
ストレッチで姫様に押しつぶされ、地面にピッタリひっついている彼女はこっちの視線に気づくと、動作を続けながら詳しい事情を教えてくれた。
※ ※ ※
「ヒフミちゃんはね。私と同じ白の鳥籠出身の子で、すっごく強いんだよ。だから、彼女と訓練できたら、もっともーっと強くなれるんじゃないかなーって思って」
「強くなれる、か」
強くなる。
最近のフリーダム清白さんのトレンドだ。
ステータス上げはもちろんのこと、技能レベル上げにも積極的で、この頃は仕事時間を除く多くの時間を自己鍛錬に使っている。
姫様もそれに付き合って一緒に訓練してるのもあって、二人のステータスの伸びはここ最近で驚くべき速度を叩き出していた。
(清白さんの運動力、姫様の知力。どっちも2000が見えてんだよな……)
複座型精霊殻『豪風』の機動力担当と火器管制担当。
それぞれの役割に合わせたより質の高い訓練を重ねた成果が、如実に表れている。
正直言ってどちらももう、化け物級に強い。
1500以上は人外の領域ってのが、この世界の基準なのだから。
「世界基準じゃ、足りないから」
ストレッチを終えた清白さんは、真っ直ぐに俺を見つめながら言う。
「黒木くんと一緒に戦うなら、黒木くんに追いつきたいの」
眼帯越しにもわかる、いつも感じる彼女からの強い視線。
真剣で、誠実で、真っ向から受け取ると、それだけで心が震えてしまいそうになる強い意志。
「だからね、私。全力で頑張るって決めたんだよ」
「私たち、で良いと思います。贄も、終夜様に求められるだけのさらなる強さを、磨きたいと思っておりますので」
きっと、その強い意志が、姫様をも動かしているんだと感じる。
(保健室に引きこもり、目立つことを極力避けて生きていた……あの頃の保健ちゃんはもう、どこにもいないな)
彼女は間違いなく、俺よりも強くなる。
それを確信するには十分なくらい、今の彼女はキラキラと輝いて見えた。
「いや、強くなるのはいいんスよ。ほんとほんと」
「ひゃあっ!」
にゅっ、と。
見つめ合う俺たちのあいだから瓶兆さんが生えてきた。
「けど、その訓練相手にウチを選ぶってのがちょっと、無体が過ぎるって話なんス」
彼女は俺の背後に隠れるように位置取りながら、清白さんたちの方を見て抗議の声を上げる。
「いいッスか? 鹿苑寺君が言ってたように、一緒に誰かと訓練するのは、能力が近しい誰かとやるのが最高効率なんスよ。だったらもう、清白さんはそこの建岩の姫様っていう、ぴったりなお相手がいるわけで。それこそステータスでも技能でも劣ってるウチを相手にするってのは、非効率なんじゃあないッスかねぇって、凡人なウチは愚考するワケなんスよ」
幸運3持ちは凡人じゃあない……ってのは置いとくとして。
瓶兆さんの意見はもっともだとは思った。
(一緒に訓練は確かに固定値的にはやり得で、相手を選ばない。だが、純粋なステータス上昇効率って面で考えると、能力が近しい人同士でやる方が、訓練の伸びがいいのは確かだ)
俺なんかはもう完全に固定値目的で組んでるから相手を選ばないが、まだまだ伸び盛りなみんなにおいては、その辺の効率も無視できない。
その辺、同じ機体に乗るパイロット同士で伸ばしたい能力も被ってる清白&建岩ペアが、瓶兆さんの言う通り、ベストマッチなのは間違いないのだ。
……しかし!
「じゃあ、そういうワケでウチはこの辺で」
「ちょっと待ちたまえ兵器ちゃん」
「みぎゃあッス!」
帰ろうとした瓶兆さんの襟首捕まえ引き留める。
「何するんスか、黒木さん!?」
「今キミが話した、訓練の最高効率。実はまだ、考慮するべきものがあるかもしれないんだ」
「えぇ?」
そう。
現実的にはそこまであるかまだ分からないが、ゲーム的には確かにあった仕様がある!
それを俺は、知っている!
「黒木くん黒木くん! なにか、もっと強くなれる可能性があるの!?」
「終夜様、どうか贄たちにご教授ください」
「あぁ、それは……」
期待と懇願、そして困惑の視線を浴びながら、俺はその仕様を口にする。
その名も――。
「――相性補正と、関連性補正、だ!」
「相性補正、と?」
「関連性……」
「補正ッスか~?」
「そうだ」
お手本のような返事に気を良くしながら、俺は言葉を選びつつ解説を始めた。
「相性補正と関連性補正、つまりはその人たちが互いに向ける心の在り方と、構築してきた関係の深さによる影響だな。これ以上ないくらいに噛み砕いて言ってしまえば、仲良し同士だったり縁が深い者同士だったりが一緒に訓練すると、効率が上がるって考えだ」
「……なる、ほど?」
「仰る意味は、わかります、が……」
「まぁ、そういう反応だよな」
首を傾げる清白さんと姫様に、言ってる俺も苦笑いだ。
「あのー。差し出がましいことを言うッスけど、仲がいい人同士で組んだら、なぁなぁになったりするんじゃないッスか?」
「だよね。お互いに甘くなっちゃう気がする」
「そちらもですが、縁が深い者同士で効率が上がるというのも、疑問に思います」
「だよなぁー」
3人がかりに論破されると、俺も自信がなくなってくる。
実際問題これはゲームの仕様であって、いつかのFESみたく、この世界じゃ適用されてない可能性も大いに考えられるのだ。
だが、しかし。
「俺はこの説……効果、あると思ってる」
今回は、FESと違って俺なりの理屈が、ある。
それは――。
「――なんたって、この世界には……神様たちが実在する、だろ?」
大阿蘇様がいる。田鶴原様もいる。
神懸かりできる姫様や、現人神になったパイセンがいる。
ついでに言えばヨシノたち、精霊と呼ばれる存在だっている。
「そんな人らがいる世界だ。俺たちの目に見えないところで力を貸してくれてる可能性はある」
「な、なるほど!」
「確かに。御柱のみなさまは縁をとても大切にしていらっしゃいます。それらを大切にした者たちに力を貸し与えてくださる可能性……ある、と贄も思います」
「マジ……ッスか」
どうやらこの理屈は通じたらしい。
当人たちに確認すれば一発な気はするが、人知れず手を貸すってのに意味がある可能性もあるからそれは最終手段とする。
「どうだ? 試してみないか?」
「「………」」
ゲームとは決して同じじゃないこの世界。
それでも、検証できるものは検証したい!
「やる価値は、あると思うぞ?」
戦況が落ち着いている今、やれそうなことはできるだけやっておきたかった。
「なかなか面白そうな話をしているじゃないか、黒木!」
「いつ検証を始めますの? 私もお手伝いいたしますわ」
「佐々君! 天常さん!」
「強くなれるってんなら、神様の力だろうがなんだろうが借りてでもやってみせるぜ!」
「まぁやも~、輝等羅様に追いつけるならがんばっちゃいま~す☆」
「鹿苑寺君! 竜胆さん!」
続々ゾロゾロ。
気づけば俺の周りには、朝練メンバーが勢ぞろいしていた。
もう、ここまで来たならやらない手はない。
「よし、それじゃあ……」
勿体つけて、こっそり遠くで聞き耳立ててるマイフェイバリットエクストラホイップエクストラキャラメルハニーマシマシチョコレートマシマシトールラブマスター黒川めばえちゃんにも聞こえるように、大声で。
「……やるぞぉーーーー! 交流会ぃぃーーーーーー!!」
俺は、世界を暴くその一手を口にした。
兵器ちゃん「???」
細川さん「お嬢様たちはいつもこういうノリなんです」
パイセン「早く慣れなさいね」(諦め)
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