第101話 Who are You?
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「……お恥ずかしいところをお見せしました」
「本当にね」
ベッドの上に正座する俺の視線の先。
クスクスと笑いながらパイセンがリンゴの皮を剥いていた。
羽衣で。
「細かい操作の練習中なのよ。いいでしょ?」
「はい」
否やを言えない俺はただ、天2の制服に羽衣をまとった状態のパイセンの振る舞いを見守ることしかできない。
神秘の羽衣でリンゴを浮かせ、シュルシュル回転させつつ皮を剥く彼女は、どこか上機嫌だった。
「できたわ。どうぞ」
「はい」
最終的に皮を剥いたリンゴを羽衣で8等分したパイセンの美技を堪能し、差し出された一切れを受け取り口に放る。
もともとコントロール上手だったパイセンのワザマエは、さらに磨きがかかっていた。
「もぐもぐ」
「食べながらでいいから話を聞いてね」
「んぐんぐ」
「黒川めばえって、あなたの好きな人なの?」
「んぶふっ!!」
いきなり直球ストレートが来た。
「げほっ、えほっ」
「風邪ひいて休むっていうのも嘘で仮病でしょ? だってあなた、病気対策万全だったじゃない。軍学校時代から、すべての施設に対病のお守りや救急箱配置してたのあなたでしょ?」
しかも仮病がメタ的に見破られている……!
「その反応からして、間違いなさそうね」
「ぐふぅ……容赦がねぇ」
椅子に座ってドヤ顔をするパイセン。
仮病なのわかってるならどうしてリンゴ剥いてくれたし。
これが霊子ネットの大人気配信者“精霊合神まじかるーぷ”の演技力か!?
「……あなた、失礼なこと考えてるでしょ」
「はい」
羽衣でデュクシされた。
「……で。一応聞くけれど、命の言ってたことって大体合ってるの? 黒川めばえがあなたにとって、何事にも代えがたい、大切な存在だっていうのは」
「あー……」
パイセンに、ごまかしは通じない。
彼女には以前、俺がこの世界を前世知識で知っているって話したことがあったから。
「……はい」
「そ。あなたがあんなに一生懸命になってたのって、あの子のためだったのね」
納得した様子で腕組み頷きするパイセンは、すぐに顎の下に手を伸ばし、体を傾け考えるような仕草をしてみせる。
「前世でこの世界を創作物として知っているあなたにとって、彼女は大好きでたまらないキャラクターだったって感じかしら?」
「はい、そうです」
「それで、いざ現実で向き合ってみたら、耐えられなくて気を失った……と」
「はい、そうです」
改めて言葉にされると恥ずかしい。
好きなアーティストのライブで気を失う奴がいるのは前世から知ってたが、まさか自分がそうなるとは思ってもいなかった。
「……そんなに、好きなのね」
「?」
パイセンがなんかボソッとしゃべったが、聞き取れなかった。
「うーん。初めてこの話を聞いたときも、嘘じゃないってのはわかってたけど……改めて目の当たりにするとビックリするわね。前世とか創作とか」
「まぁ、そうだよな」
「でも、あなたはその知識を使って、私たちを何度も助けてくれたのよね」
「………」
改めて言葉にされると恥ずかしい。
それに、当時のことを思い返せば助けようと思って助けたというよりは、自分の利益のため、望みのために叶えていたという側面の方が大きいわけで。
「……あなたが時々めばえーって叫んでたのって」
「うおああああーーーーー!!」
「たびたび宗教的理由とかで帆乃花との接触をかわしてたのって」
「おぎゃあああーーーーー!!」
パイセンからの唐突な羞恥プレイ!
俺は身悶えた。
「なーるほーどねー?」
「あびゃびゃびゃびゃびゃ……」
これが罰、罰なのか!?
神様仏様田鶴原様! いるなら俺を助けてくれーーー!!
あ、田鶴原様から通信きた。
面白いから放置する? 畜生!!
「うふふっ。ごめんなさいね? あなたのそんな顔、あまり見たことなかったから」
「うぐぐ……パイセンも人が悪いぜ」
「ごめんなさいって言ってるでしょ? もう……ふふっ」
ひとしきり玩具にされて、ようやく許してもらった。
パイセンはそのあいだ、ずっと笑っていた。
※ ※ ※
場が落ち着いて、改めて。
「それで、これからどうするつもり? 天2は一番の戦士の仮病をいつまでも許すほど、暇じゃないわよ?」
「それはまぁ、そうだが……」
復帰する気はあるんだ。
それが明日か、明後日か。一週間後か一月後か。一年……は、ねぇなさすがに。
「とりあえずは、おいおいね……ってことで」
「羽衣でぐるぐる巻きにして持ってってもいいのよ?」
「すいませんでした!」
ひれ伏す俺によろしい、と頷いて。
「とりあえず明日、いけるように今やれることをするわよ」
手の掛かる悪ガキを見るかのような優しい瞳で。
天2の名カウンセラー、パイセンのメンタルケアが始まった。
「今の天2は、一応あなたに気を遣って、命が口にした証言をそれぞれの胸に秘すことになっているわ。まだ、黒川さんたち追加人員の子たちは知らないはずよ」
「ありがてぇ、ありがてぇ……」
その辺に暴露されてたらマジで終わってた。
路傍の石どころか塵芥生活するところだった。
「ただ、彼女の言葉が真だった以上、あなたが気持ちに何らかのケジメをつけて臨まないことには、基地でのやり取りはギクシャクするし、円滑な運営に支障をきたす可能性が高い」
「そこまでなのか」
「そこまでなのよ。思った以上にあなたという歯車は、天2を動かすために必要で、大きいの」
「そう、か」
明言されると、驚きこそすれど腑には落ちる。
天久佐奪還戦でみんなが俺のために用意してくれた呼朝が、何よりの証拠だ。
求められている以上、復帰は早い方がいい。
「……だ」
「だからね」
それでも腰が引けて否定しようとした言葉に被せるように、パイセンの強い言葉が続く。
思わず見つめた彼女の顔は、とても綺麗で、そして不敵だった。
「だからね、終夜。あなたもう、開き直りなさいな」
「え?」
「公言しちゃいなさいって言ったの。黒川めばえを大切に思ってますって」
………。
「いいの!?」
いいの!?
「いいのよ」
「いいんだ!?」
いいんだ!?
「いいに決まってるじゃない。だってあなたは、その想いがあったから今日まで頑張ってきたんでしょう?」
「それは……」
パイセンの言う通りでは、ある。
「もちろん配慮は必要よ。大事なのはお互いの気持ち、少なくとも前世知識であなたはあの子について知ってるだろうけど、あの子にとってあなたは未知そのものなんだから。その辺はちゃんと踏まえて言葉を選びなさいね?」
いちいちもっともである。
「いい、終夜? あなたが持ってるその気持ちは本物で、あなたが今日まで彼女のために頑張ってきたのも事実。そしてそれが、今の私たちを救ってくれた、守ってくれたのも本当のことだから。そんなあなたの思いが一切報われないなんてのは、あまりにもあんまりだわ」
「パイセン……」
「思いを口にするくらいいいじゃない。これまでだってしてたんだもの、そのために戦ってきたんだもの。あなたには、それが許されるだけの実績があるわ」
そう言って、よしよしと俺の頭を撫でてくるパイセン。
完全完璧なお姉さんムーブというか、親目線というか……。
「でも、配慮は必要?」
「ええ、配慮は必要……と言っても、あなたの場合は弁えてそうだけれどね?」
なんだかんだと小言もあるけど、いつだってパイセンは観てくれている。
俺という存在をこの世界で一番理解しているのは、彼女なのかもしれない。
「これまで通り、あなたはしたいようにしたらいいわ。多少なら私もフォローするから。そう、ね……差し当たっては、今日のうちに私からみんなに、それっぽくした言い訳を伝えとけばいいかしらね。内容は今から考えましょ?」
「ああ、わかった」
至れり尽くせりの提案に、俺は頷く。
と。
「でもその前に」
「!?」
ピッ、と。
パイセンの人差し指が頷いた俺の鼻っ柱に押し当てられた。
「あなたが黒川めばえをどう思っているのか、私に詳しく教えなさい。恋しているならハッキリと、恋してますって教えて、ね?」
「………」
恋。
その言葉を聞いたとき。
不思議と、本当に不思議と。
「いや、そういうんじゃないんだ」
その言葉が、顔を上げた俺の口から溢れ出ていた。
おまえの次のセリフは「何言ってんだこいつ」……だ!!
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