第100話 Q(急に)O(推しが)K(来たので)
いつも応援ありがとうございます。
感想・評価いただくたびに、やったぜと喜んでいます。
楽しんでもらえてるんだなと実感が沸きます。
誤字報告も助かっています。本当にありがとうございます。
祝・100話!
ここまで頑張れているのは応援して下さるみなさんのおかげです。
何のかんのランキングに居座り続けているのがめちゃくちゃモチベになってます。
これからもロボ×青春×ファンタジーなお話をリスペクト心を持ちつつ描ければと思いますので、よろしくお願いします!
独り相撲。
オッス、俺、黒木終夜(自称)!
天2の新型精霊殻『呼朝』のパイロットでハーベストハーベスター持ちのエースオブエース!
「うへぇ~~~」
今、自宅の自室に引きこもってベッドでゴロゴロしてます!
よろしくぅ!
「………」
大の字になって伸びる。
死んだカエルみたいに仰向けの状態で、へいこら平泳ぎの真似とかする。
「………」
無。
無である。
「……いや、わかっちゃいるんだ」
超有名世界系ロボット物の少年パイロットだって、逃げちゃダメだって言ってるんだ。
戦わなきゃいけないときに逃げるのは、戦士の名折れだってのもわかってるんだ。
教えは俺の中に息づいてる、けど、守れるかどうかはまた別問題なのだ。
「……ズル休み。前世でもしたことねぇんだよなぁ」
しようかどうか悩んだことはある。
超珍しく公式から推しのグッズが出ると聞いた日、大学の落とせない単位をぶっちぎるかどうか大いに悩んだことはあった。
推しに恥じない生き方をしようと単位を取ったが、そもそも推しのグッズ超売れ残ってた。
8割買って帰った。
「………」
そう、推し。推しである。
神ゲー“ハーベストハーベスター”における、俺の最推し。
転生した今世においても変わらずに俺の推しであり、その人のためにあらゆる手を尽くして戦い抜いたと断言できるほど、俺のモチベーションの源だった少女――黒川めばえ。
「……いるんだよなぁ、天2に」
彼女は今、天2独立機動小隊に所属している。
「…………無理」
そんな彼女から、俺は。
「無理無理無理ヤバいヤバいヤバいヤバい。現実のめばえちゃん最強可愛すぎて無理だった。一瞬で意識刈り取られたわ彼女こそ真のハーベストハーベスターじゃん!?」
全力で逃げ出したのだ。
※ ※ ※
「っていうか、どうしてめばえちゃんなんだ。真白君はどうした真白君は!!」
天2の戦力増強で新たに加わった、4人の追加人員。
そのいずれもが、原作HVVのキャラクターだった。
だがその中に、肝心要の原作主人公の姿は影も形も存在しなかった。
「行方不明ってなんだよ行方不明って」
去年の8月。
俺たち天2が正式に軍に昇格した頃に、天下のヒーロー真白一人は消息を絶ったらしい。
「あのタイミングで真白君こないの詐欺じゃん!? っていうかめばえちゃんが来るとか予想できるわけねぇじゃん!? 彼女基本的に一般人ぞ?」
ラスボス因子持っててそれを利用されてラスボスさせられちゃうだけの一般学徒兵ぞ!?
なんでこの小隊に来ちゃうわけぇ?!
「……いやまぁ、自業自得なんだが」
スン……ってなりながら思考を巡らせる。
「姫様が俺の言動から彼女を見つけ出して呼び込んだ……天才マジで天才過ぎて意味わからん」
原作メインヒロインにして現在天2所属のパイロット、建岩命。
真のヒーローが現れるまで俺を暫定ヒーローとして扱っている彼女にとっても、ヒーロー真白一人の発見は一大事のはずだった。
だが、当のヒーロー本人が行方不明なのだから、代わりに暫定ヒーローにとって推定重要そうな一般学徒兵を連れてくるってのは、理屈は通ってなくもないが無法が過ぎると思う。
「マジで無関係の赤の他人だったらどうするつもりだったのやら……」
っていうか俺が一方的に知ってるだけで向こうは認知してないワケで。
あっちからしたら俺は天下に名高きエースパイロットか、あるいは人外の化け物かってな感じなワケで。
そんな子の前で派手に気絶してぶっ倒れた挙句、保健室で目覚めて即告げられた新情報にビビッて逃げて翌日こうしておサボりあそばしているワケだが……。
「………」
うわっ!?
俺の第一印象、悪すぎ……!?
「……ぎゃ~~~~~~!! もうダメだ! おしまいだ~~~~~~!!」
絶対にめばえちゃんに何かヤベー奴だって思われたーーー!!
認知されるどころかえんがちょ近寄らんとこってされて塩対応確定ーーー!!
「うおおおお~~~~~~~!! めばえぇ~~~~~!! 違うんだめぇばぁえぇ~~~~~!!!」
ベッドで左右にゴロゴロしながらビッタンビッタン跳ね回る。
言い訳しようのない大失態を演じた自分が許せねぇ!
「ふんぬぁ~~~~~~!!!」
リセット! リセットさせて欲しい!
でも人生は一度きり(2度目)、やり直すことはもうできない(高難易度)!
「……終わった」
今はただ。
この無力感を噛み締めて、自省しよう。
そして再び天2に帰ってきたときは、路傍の石のように静かにクールに再デビューして以前のイメージを払拭するんだ。
黒木終夜Mk-Ⅱは密やかな愛に生きるんだ。
推しを推すためならば影にもなろう。
推しの未来のために暗躍する仕事人になろう。
死して屍拾うものなし。
死して屍拾うものなし。
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「っかし、行方不明の真白一人って……天久佐撤退戦のときに見たアレだよな?」
ちょっと落ち着いたので、ゲーマー特有の考察タイムにはいる。
「あのとき一瞬だけ見えた、見慣れない格好のヒーロー。アレが幻覚じゃなかったとしたら、じゃあどうしてあんな姿になったのか考えておかないとな」
真白一人。
世界を救うヒーロー(ガチ)。
このHVV世界をハーベストたちの侵略から守るには、彼がラスボスを倒す必要がある。
なぜならこの戦いのすべては、裏で糸引く上位存在――六色世界の“赤の一族”と“白の一族”によって仕組まれていているからだ。
「無体な異世界侵略を行なう赤の一族に対抗して、世界秩序を守らんと標榜する白の一族が下位世界の歴史に干渉する。そうして巻き起こったのが、この世界の……ハーベストVS人類&精霊の世界を股にかけた大戦争だ」
根拠が前世知識だけで確証こそなかったが、これらについては今はもう間違いないと確信している。
なぜならば……。
「……この戦いに、ルールを逸脱して干渉している奴がいるからだ」
上位存在といっても六色世界には社会があり、国があってルールがある。
赤と白の戦いにおいてもそれは確かに存在していて、建前上はみんなそれを守っている。
だが。
「俺が倒した亜神級――青の氷狼は、海渡るオオカミじゃなかった」
天久佐の壁防衛戦と、天久佐撤退戦(今は天久佐奪還戦と呼ばれている)のときとで、両者は入れ替わっていた。
この世界がほぼほぼ俺の知ってるハベベと合一なのだと仮定した場合、赤の一族が用いる青の世界由来の亜神級は1体だけだったはず。
「この戦い、六色世界においては後にHVV戦役と語られる戦いにて、赤の一族は運用する亜神級の種類と数を申告するルールがあった。そんなHVV戦役で、赤の一族が青の世界から奪って使うと宣言した亜神級は……海渡るオオカミただ1体のみだったはず。公式掲示板で有志が解き明かして、正解だって公式からの回答もあったし間違いない」
だから、同じ青の世界由来であるこの2体を両方使うってのは、明確なルール違反だ。
「だってのに、俺はこの2体の敵と戦った。つまりは何か、細工されたってこと」
ルールは破ることができる。
だが、ルールを破るためにはルールを破ろうとする誰かの存在が必要だ。
イレギュラーは大体いつも、ヒューマンエラーなのだ。
この世界にリアルタイムで干渉してる、ルールを破りまくりの上位存在がいる。
「そんな奴を野放しにしてたら、めばえちゃんに明るい未来はない」
真白一人の失踪には、十中八九、この上位存在が絡んでいるとみて間違いない。
となれば、それで利益を得るのは赤の一族側だから、警戒を厳とするべきはあちら側だ。
「……最悪これ、洗脳されてるパターンあるよなぁ?」
戦争を終わらせるためにはヒーローの存在は必須。これは赤白両方に一致する。
だがそのヒーローが洗脳されているならば、ラスボスと雌雄を決するその果てがどうなるかなんて、火を見るよりも明らかだ。
ヒーローの敗北。
すなわち世界の管理権を赤の一族が手に入れる。
その先に待つ未来は、この世界の住人たちにとっては地獄でしかない。
「……助けないとな」
どうやら、戦いは新たなステージへと進んだようだった。
もしも彼が、敵の手に落ちているというのなら。
アライブマイライフ黒川めばえの幸せな未来のためにも、絶対に助ける。
「…………あ」
しまった。
推しのこと考えちゃった。
「うぐぐっ、頭が!」
その瞬間、突如して俺の脳内に溢れ出す、数多のイメトレの成果!
「うぅぅ、めばえちゃんが塩い。塩すぎる……推せる。推せるが、辛い!」
廊下ですれ違い際に「チッ」てめばえちゃんが舌打ちする!
ケガしたからって保健室に行くと、俺の顔を見ためばえちゃんから笑顔が消える!
戦場に向かう戦士たちを心配そうに見てるめばえちゃんが、俺とだけ目を合わそうとしない!
気づいたらめばえちゃんの陳情で、俺の精霊殻の装備が弱いのに変更されてる!
「うぅ、めば、めばえ……めばえぇ……」
妄想!
妄想だってわかってるのに!
存在しない記憶が俺を苛んでくる!
「あ、あぁ……絶望だ……!」
辛い。
苦しい。
もう、この世界に俺の居場所はない……!
「うぅ……ぐぅぅ……」
なんか俺の体から黒いモヤみたいなのも出てる気がするし!
これはもう本格的にダメかもわからんね。
「何を遊んでるのよ。あなた……」
「へぇ?」
声がして、そっちを見る。
「お見舞いに来たけど、ずいぶんと元気そうね?」
「……パイセン?」
いつの間にやら開いていた、俺の部屋のドア。
そしてそこには黒髪ロングの小柄な美少女、天2のご意見番――パイセンこと、九條巡が呆れ顔で立っていた。
終夜ママ「あらあら、あなたは確かパイセンちゃん……九條巡ちゃんだったわね? お見舞い? あらあらあらあら、ありがとう~。私はこれから買い物だけど、2時間くらいで帰ってくるからそのあいだシュウヤちゃんをお願いね~♪ うっふっふ~♪」
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