プロローグ・邂逅
目の前には夕暮れに照らされた東京湾。そこに広がる巨大な影。上空には黒く禍々しい巨城。夢を疑う光景だった。
「ようやく見つけたぞ。」
「え?」
先程まで気配も無かった背後から突然声をかけられ、驚きのあまり振り返る。
「お前を勇者に任命する!」
そこにいたのは小学生ぐらいの少女だった。しかしその頭には小さな体躯に似合わぬ程の大きなツノが2本。コスプレのような赤いマントを羽織り腰に手を当て人差し指をこちらに突き立ている。
理解の追いつかない私をそのままに少女は続ける。
「我が名は魔王シャルル・クリムノヴァ。この地での仲介役をお前に頼みたい。」
遡ること数刻。私は寒空の下、同人誌の即売会に来ていた。年に2度しかないビッグイベント、日常を忘れ会場の熱気に包まれていた。
私は目的のサークルを回り終え帰路に着こうと会場を出た。
刹那、辺りを赤い光が駆け抜けた。反射的に瞑った目を開いた時には周りから人の気配が消え、静寂に包まれた。
「え、何これ…人が消えた…?」
次の瞬間、遠くに先ほどより鈍い赤色の光が出現したのが見えた。場所は海の上だろうか。
すると出現した光は2つに割れ、空中に円を描くように動き始めた。円が結ばれるとその光は何かの紋様を描くかのように外側へ広がり始める。それと同時に中心からは何やら黒い影が出現を始めた。
「何あれ、夢…?」
夢のような信じがたい光景に目を奪われた。
光は何やら魔法陣のような形になった所で広がるのをやめ、そのころには中心から現れた影がどうやら城のようなものであることが分かった。
「ようやく見つけたぞ。」