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地球が舞台の話2

妻の躾

作者: ひつじかい

 冬のある日、軽志(けいし)は、妻の実家に向けて車を走らせていた。

 軽志が会社に行っている隙に実家に帰ると出て行った妻に腹を立てて、連れ戻しに行く所だ。


 当初は妻の実家に電話をかけ、彼女の両親に戻るよう説得して貰おうと思ったのだが、電話に出た彼女の父親が激怒して、絶対に帰さないと軽志を責めて来た。

 軽志が妻に酷い態度を取ったと怒っているようだが、彼等が甘やかしているからそう感じるだけだ。

 代わりに躾け直してやっているのに、馬鹿だからそんな事も解らない。

 軽志はそう考え、微塵も反省していなかった。


 夫である自分に手間を掛けさせるなんて許せないと腹を立てながらも連れ戻しに行くのは、離婚なんてしたら世間体が悪いし・会社での評価が落ちて出世出来なくなると、思っているからだった。



 彼は、知らなかった。

 既に会社での評価が落ちていて、左遷が決まっている事を。


 軽志は、会社では好青年を演じていたが、ボロを出していた。

 後輩や女性社員に対して、パワハラやモラハラ・セクハラをしてしまっていたのである。




 それはさておき、妻の実家は、所謂、雪国だった。

 軽志は、途中でスタッドレスタイヤを購入して交換し、雪が残る道を慎重に走った。

 

 市街地に入ると、暖かい日が続いていたのか、道路の雪は殆ど解けていた。

 この分なら、スピードを上げても大丈夫だろうと、軽志は思った。



 彼は、知らなかった。

 その先に、解けて凍ってを繰り返し、でっこぼっこになった残雪がある事を。

 雪と言うか、氷の塊と言った方が正しいか。



 幸か不幸か、事故にならずに軽志はその場所を抜ける事が出来た。

 頭をぶつけたり、首を痛めそうになったり、舌を噛みそうにはなったが。


 軽志は危うく事故を起こしそうになった事を、妻が実家に帰った所為にして、自分の運転の仕方を反省する事は無かった。




 やがて日が落ち、辺りは暗くなった。

 市街地を抜けると、道路脇の雪以外綺麗に解けて消えた長い直線道路が、ライトに照らされた。

 これなら、先程の様な解け残りは無いだろう。

 軽志は安心して、法定最高速度を超えるスピードを出した。

 この辺りは雨が降ったのか、路面は、黒く濡れていた。



 彼は、知らなかった。

 ブラックアイスバーンと言うものを。

 そして、橋の上は凍り易いと言う事を。


 ライトに照らされた道の先に、カーブした橋が見えた。




 軽志が事故で命を落としたと知らせを受けた妻は、微塵もショックを受けなかった。

 夫への愛情が欠片も無くなるように、軽志が躾け直してくれたからである。



 彼は、知らなかった。

 愛される喜びを。

 愛されなくなる恐怖を。

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