④Stray cats were used to aim for space.
かつて、この世界を統べるとある国家を守護していた"最強の騎士"がいた。彼女は自らの国を襲いし厄災を退け世界に平和をもたらした。ところで、ここで一つ疑問が沸く。最強とは何だろうか?もしくは誰であろうか?この世界で脈々と伝わるそんな論争を彼女は一蹴してみせた。
「最強とは概念であり。私である。」
往々にして、幼かった俺に彼女が伝えたかった趣旨とは、最強なぞ所詮は名ばかりなもので、最強を倒したものが概念的に最強になるのである。ということであった。そして同時に、俺にはこんな感じで聞き取れた。――そんなものは下らない、と。
そんな最強と名高い彼女は、しかし実に最強に固執していた。それは何故ならこの世界の片隅における最強とは人であってはならないから。すなわちそれは、最強とは「私たちの神のみであり、最強を名乗る輩は異端。」そんな厄介な教義を謳う連中に命を狙われるということであったからだ。
では、この世界における本当の最強は一体誰なのであろうか?時々それを妄想して、暫くして俺は、俺のことを鼻で笑う彼女の幻聴を聞くのであった。
――サテラ・カミサキ。
俺は双眼鏡で索敵しながらパンを頬張り、アラタと話していた。
「アポストルシーカー。エルゾーンと名の付く高域帯以上、通称{神々の領域}から帰還した誉有る十二人のシーカーが、現在最高位の称号としてそう呼ばれている。さっき会ったミック・ラインズはその一個下のマスターシーカー。彼女のクランの先代隊長と副隊長は{アポストルシーカー}だった。暫くして先代隊長は死に、それからフェノンシーカー隊はミック・ラインズを新たな副隊長に置いた。そして今もっともアポストル13人目の席に近いと言われている人物がミックラインズ。」
横で蹲りながら風を浴びるエルノアは気分が悪そうに項垂れている。
「先代が死んだら12人目になるんじゃないのか?」
「いや、空いた12人目はまた別の人だった。その人はエルノアと一緒に、誰もが目指していた未踏破の領域に辿り着き帰還した。そのダンジョン、もとい「魔法制限領域」の名前こそ、{神々の山洞=エル・クルマ}そこは新大陸に有る黄金の高地洞窟で、彼女はそのエル・クルマを踏破した功績を認められアポストルの称号を得た。異例中の異例だったのは、その人がマスターシーカーからの昇級では無かったこと。」
「え、じゃあ飛び級ってこと?というか、エルノアもアポストルなの!?」
「エルノアは人じゃないからな~」
俺はエルノアの顎をふさふさ撫でて噛まれる。
「飛び級は、まぁそう。でもイメージとしては縦じゃなくて横に飛んだ。彼女は元々シーカーじゃなくて、パスファインダーっていう未開拓領域専門の情報屋だった。その目的は主に敵対組織の根城、潜伏先を見つけて破壊する為だったんだけど、他国からしたら印象が悪いから、平和都市から何かシーカーに似た特権を与えられたのが始まりで、そっから気付いたらアポストルだった。」
「それは違う。サテラは結局アポストルを蹴った。ミックが上がれば12人目だ。情報弱者め。」
エルノアが機嫌悪そうに口を挟んだ。
「へぇ、、それは知らなかった。ほんと何も教えてくれない。」
「嫌われてるんだろ。」
「それは無いだろ~。」
俺はつい双眼鏡を離しながら会話してしまうのを思い出し、マルチタスクを意識する。前方敵無し、敵対魔力無し。嫌われても無し…。
「そういえばアイギスってなんだ?」
不思議そうに首を傾げアラタが俺に問う。
「お~いおいおいおい、情弱くんめ。平和都市アイギスを知らないなんてこの世界の人間じゃないぜぇ。そう、アイギスってのは正に理想国家よ、水有り、飯有り、寝床有り。治安も良し景色も良し、祭りもあるわ歴史もあるわ、ウハウハな国なんだよ。恨めしいことにセカイが通ってる学校もアイギス領、バースから西北に向かえば近くも無いけど、遠くも無い。お前もいつか行くといいさ。」
ちょうど進行方角はバースまでの北方向。この風もアイギスから吹いているのだろう。溢れんばかりの花の匂い、芳醇なパンとスープの香り、ハーブは少々、紅茶をしばいて、三時にはアップルパイが焼ける。俺は目をそっと閉じ、アイギスの風に身を任せた。
「オロロロロロ…!!!」
エルノアが小さな口からソッとゲロを吐く。
「うっわ…。じゃなくて、大丈夫か?」
あまりの空気の読めなさに一瞬引いてしまったが、割かしキャラバンを動かしてもらってる分、労わらないのは申し訳ない。というか、シンプルに辛そう。
「大丈夫な訳無いだろ…。なんださっきの急発進。全部持ってかれた。身体の中の魔力体力気力全て出てった。ゲロ吐いたみたいだ。」
(いや吐いてますよ…)心の中で、そう呟いた。




