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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第14譚{護衛の任務}

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③Wish you good luck


「さぁ、話してもらおうか。」


「何を話せばいいのかしら。」


 カタカタと車輪を鳴らすキャラバンの屋上で、向かい来る穏やかな風を受けながら、俺はとぼけた顔をしたセカイの隣に腰を下ろす。


「とぼけるな。」


「・・・」


 往々にしてプライドが高い女だと感じる。風を受けて揺れる淡い藤色の前髪は仮面の上でひらひらと揺れ、後ろ髪は気持ちよさそうに靡いている。


「髪切ったのか。」


「うん。」


 竜装という魔法は特殊なものだ。元来一人の魔術師が複数体を使役できるものではない。通常は一人に付き一体を武器や装具として召喚、具現化し身に纏う技。しかしセカイの魔法はあらゆる性質に適応させる柔軟さを持ち、複数体の竜を使役することを可能としている。そして彼女の魔法が持つその柔軟性はときたま命を狙われる彼女自身を隠すカモフラージュにもなる。すなわち今は変装をしている。本来持つ固有の特色を消し、魔素の性質を別人のように変えたことで髪の色や身に纏う竜装の相性が変わる。そして彼女のルーツは鬼人とされている。柔軟な魔法性質に加え鬼人として肉体的にも骨格をコントロールし得る。ただしそれでも、髪の長さは変わらないはずだ。


「イメチェンですか…」


 ヤキ=セカイは仮面の中で黙っている。


「君を危険に晒したね。私は…」


 しばらくの沈黙を経て彼女は急に本題を話し始めた。依然俺の顔は見ず、真っ直ぐと正面を向いて風に吹かれている。会話のペースは彼女が握っている。だからカタカタとキャラバンが音を鳴らそうが、風がヒューッと顔の横を抜けようが、俺はジッと彼女の言葉を待つ。そして、待てなくなる。


「そんなことは、無いだろ。」


 少しはフォロー出来たら良い。


「そうだな。私はいつも正しい。」


――選ぶ言葉を間違えたらしい。調子に乗るなよ、貴女のせいですからね。


 難儀なことに、セカイは俺の心を部分的に読む。今もそれが出来るのかは分からないが、厄介なことに、これはセカイからエルノアが受け継いだ能力の一つ。


「それでも少しは弁解しましょう。何から聞きたい?」


「ミックを殺したとか言ってたな。」


「殺した...ね。ミックを。正しくはミックの皮を被った"操り人形の一般人"だった訳だけど。殺されかけたから、首を跳ねたね。」


「そうか…」


 俺は陽気な青空で揺蕩う、遠くの真っ白な雲を見つめた。そして深く息を吐く。セカイはかつてたった一人でジェノサイドを起こした。それ故の世界皇帝。それ故に現在は執行猶予的監視対象であり、つまり人々からの信頼が無い。そのジェノサイドにも色々ある。俺が彼女を庇う理由だって無論そこに存在する。しかし民意はそうじゃない。不安や偏見はいつだって燻り続ける。であるから、どんな理由が有ろうとセカイが一般人を殺した罪は重い。ただ純粋に、重過ぎる。


「跳ねたつもりだったんだけど、飛ばしたはずの首は、飛んでいかなかった。」


「え…?」


「つまり私が持っていたのは…、私の剣は、君のだった。」


 生命の剣は生命を奪わない。首を跳ねようとも、脳を裂こうとも。


「あぁ、そう。」


 俺はどうでもいいフリをする。実際はとても安堵しているけれど、関係ないよとフリを決める。そしてセカイが言うには、ことの発端は、全ての元凶は、そのミック(本物)に所在が有った。すなわちスポンサード・バイ、ミック・ラインズの異世界ダンジョン視察イベント。兼、自クランへのスカウト。元々は大方テツの予想通りではあったが、その為にシーカーの試験に似た形で大会は運営されることになった。


『特定危険指定迷宮、仮名称はデス・ランド。』


「デス・ランドねぇ。夢の国って感じだ。」

 

 そして事件は俺たちが転移した後に起こる。


 それは偽物ミックを含む複数名の操り人形が起こした計画的暴動である。首謀者は未だ不明。しかし恐らく組織グループである彼らは、今回のイベントに何らかの複合的な動機を持って事を起こした。中でも確定的な動機は「セカイの暗殺」と「もう一人の旅人の暗殺」誰だか分からないとセカイは濁すが、間違いなく、多分、考えたくも無いが、俺である。無論、ミックラインズという線も捨てている訳では無い。しかし、ともすれば犯行組織の素性もおおよそ見当が突く。セカイだってそうだろう。分かっていて濁している。


「つまり、転移を補助する魔術師が何人か殺されてしまってね。私の準備した保険が不幸にも機能してしまった訳だけれど、その保険も大して強くない役立たずで、彼の仲間も、私がいるからって彼への支援をサボった。」


 保険とは逆鱗を持たされた俺のことだろう。やれ自分だって、息を荒げていた癖に。ん。ともすれば、その支援者って一体――


「誰のことだ。」


「テツだよ。彼女は私がいるからって満身創痍になるだろう君を置いて、こっちへ戻ったんだ。」


「テツは俺を信用してたんだろ?」


 その言葉にセカイはフフッと小さく笑った。


「そんなわけ無いでしょ。テツが頼るのは信頼とか信用とか、君ならできるとかいう感情論じゃない。」


「えぇ。ひでぇなそれは、」


「でしょ?わたしもそう思う。わたしだって大変なのにさ…あのサボり魔め。」


 セカイはあざとく足を揺らしながら言った。


「――なに?」


 薄い目をしたテツがチラリと顔半分を覗かせる。


「うっ、なんでもないです。」


 セカイの肩がビクッと跳ねた。


「セカイ、巻き込んだのはどっち?」


「うぅ...ごめんね!」


 元々は単純に、短剣を無くした俺への当てつけだった。つまりクランの仲間は、テツたちは最初から最後まで丸っきりの被害者。俺は素直に謝るセカイの、表情の見えない横顔を見て感心する。昔とは違う。彼女は一人でここまで変わった。仮面の中で変化する雰囲気も仕草も口調も。


「勉強したんだよ。人付き合いってやつをさ。」


 彼女は恐らくまた、俺の心を読む。人当たりの良さも性格も、学んで手に入るものなのか、彼女を見ていると心底苦しむ。色々なことが辛くなってくる。そして同時に貰えるものもある。それは何か形容し難い、活力のようなもの。


「確認が取れました。あなた方で最後です。クラン{ユーブサテラ5号}良い旅を…、そして祈ります。貴殿らの旅路に安全と、祝福のあらんことを…!!」


 勇者の街の管轄を区切る厳重な関所の兵隊が運転手のリザに別れを告げる。


「――あぁ。行くぞナナシたち、どっか掴まれー。」


 そして、言い忘れてたかの様にめんどくさそうに声を上げたリザが、運転席のシフトレバーをガコンと倒した。


『えっえー、こちらミートボール、通過完了。はぁー了解。ヘディングゼロゼロゼロ。オールチェックとシステムレディー。――カウント3…、2…、1…、イグニッション。』


 運転席へ繋がる連絡管越しで、リザが誰かと連絡を取り合い、独り言を呟く声が聞こえた。


「はぁ...良くもまぁ集めたよ。私の傑作に似せながら、外面と速度性能だけは無理やり合わせてきやがった。どうせハリボテだろうけど。技術力もまぁまぁ、物資と資金力は比較にならねぇ。まぁ肝心なところ提供した私の功績を考えれば妥当な……」


「どうした?」


 キャラバン後方では、龍が火炎球を吐く前のような音が、シュルシュルと鳴っていた。


「あぁ、しっかり掴まったな?」


 言うが早いか、動くが早いか、キャラバンはロケットスタートを決め猛烈な速度で前進する。キャラバン内部ではまるで重力の方向が変わったかのように、身体に激しい負荷が押し寄せてきた。


「――うわぁ!!なんだコレあああああああ!!」


 俺の問いかけにリザは淡々と答える。


「魔動スラスターだ。ドラゴンの火炎袋と火打石でうんたらかんたら…。で、私が作った。」


「――うおぉぉおおおおおお!!!説明不足だっ!!」


「言っても分かんないだろ~」


 爆走。プーカがキャラバンの正面へ乗り出し声を上げているのが聞こえる。そして同時に、別方向に、俺たちを挟んだ四台のそっくりなキャラバンが道を隔てて進んでいく。デコイだ。護衛対象{セカイ}を守る為の囮が、散らばる様に速度を上げて進んでいく。


「うぉぉおおおおおおおおおー!!!」


 俺もなんとなく声を上げて手を振ってきた右のキャラバンに手を振り返えす。知らないクランの知らない人間、でも何か一体感のある五台はそれぞれの道を進んでいく。出会いと別れは唐突である。それでも心に余裕が有れば、願わずにはいられないのである。



――貴方がたの旅路に、幸あらんことを





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