②To the Birth
「ふんむ。ミックだ。ミックだよ~。久しぶりだなぁ!少し目が細くなったかね?」
「寝てるんですよ…。」
車輪がガタガタと岩を噛んで音を鳴らす。背中の感触はいつもの寝床ではない。緊急用で無駄に幅を取るキャラバンの医療用ベッド。割とここも寝慣れている。
「え?いやいやほらぁ、目開いてるよ!」
「あ、ホントだ。」
テツとミックが俺の顔を覗き込む。聞いてた話と違う。状況も一変した。もう何がなんだか分からない。
「やぁ、おはよう!」
脳みそは時間を覚えている。相当寝ていた。相当寝た時の寝起きの気怠さ、身を包む空気すら覚えが無いほどに冷たく湿っていた。
「ミック…」
「そうだよ!」
「死んだって聞いたぞ。」
「HAHAHAHAHA サプラーイズ!!いやぁこの度は本当に、本当に、ほんとーに。面目無い...」
――意味が分からない。
「詳しい話は嫌でも聞けるさ。ゆっくりと話したらいい。しかし存外、私には時間が無くてだね、私からの謝罪とテツ君への愛ある勧誘はしばしば保留とさせて頂きたい。」
「僕はここを抜けない。」
「わかぁーたって!分かってるよ、睨まないでくれよ、分かってるよ。でも、もし良ければだねぇ?」
「しつこい。」
「はぁ...はぁ...そんなに睨まれると、はぁ...何かに目覚めそうだから私はもうお暇しよう。ありがとう{ユーブサテラ}そしてすまなかったナナシ君。セカイ君にもよろしく伝えておいてくれ、おぉっとコレは、私としたことがそのあのあぁ、まぁ彼女には死ぬほど誤ったからそこんとこは頼んだよ。」
――意味が分からない。そしてこの世界は、どこか朧気だ。それは蒙昧な意識の為か。
「じゃあね!!」
バタっとドアを開けたミックが、背中越しに挨拶する。
「待てミック。師匠は?」
「師匠って。あぁ、彼女なら元気さ。元気過ぎて良ろしくないね。」
「あぁ、そう」
「逢いたいかい?」
「いや。」
「冷たいな。彼女には元気だったと伝えておくよ、もし私が逢えたならね。」
そう言ってミックは走っているキャラバンから飛び出した。ある程度、速度の乗ったこのキャラバンからよろけることなく地に足を着け、二歩目には跳躍する。学者気質な見た目に反する俊敏な動き。
「うぅ...寒ッ。プーカ閉めて。」
「ほあぁぁい。」
傷口には包帯がグルグルと巻かれ、薬液の匂いに身体が塗れていた。
「ありがとうございます。ほんとうにいつも」
薬師兼ポーター兼医師。優秀過ぎて恐ろしい子だ。
「プーカは神だかんね。それにあんま酷くは無かったんよ。」
「そうですか。」
俺は用意されていた茶をすすって正面を見た。リザがいつものように眠そうに運転している。いつものキャラバンだ。いつもの景色。そしてキャラバンの進路は城門へ向かっていた。
「リザ、何処に向かってんの。」
「バース。」
「もう出るのか。」
「三日もここに居たからな」
「三日か。あぁ、勿体ねぇ…」
――バース。別名を{転生の村}セントヴァン城下街の勇者もそこで産声を上げたものが多いと言われている。名前の通り、人生何回目だってくらい強くてマセた子供が産まれるらしい。その知名度からかなり発展した村となり、治安も国絡みで維持され、あらゆる街の中継点にもなっており、観光業も良く栄えていた。話によればその規模感はもはや村ではない。
「バースって、村の中の村じゃないですか!?私、すっごく興味が有ります。」
「お前とアラタにはそこで降りてもらう。」
「……えぇ、うぅ。」
「旅に別れは付き物だ。出会いが有るのと同時にな。」
「その通り。」
珍しくテツが相槌を打つ。結局この街にはあまり関われなかった。しかし俺が寝ていた間はテツがしっかりとクランを支えていたらしい。新しい受注クエストの張り紙に食料、燃料、服装、冬支度。完璧にこなされている。この要領の良さに加え、臨機応変な対応力と、シーラでの攻略力。ミックが唾を付ける理由も頷ける。
――あげないかんね。
「着いたぞ。」
城門を出る時はいつも寂しい。ただ、仲間とこの想いが同じなら、志は次へと向かう。それは今日までの後悔も、失敗も、ネガティブな思考も一新して、新しい風に吹かれがら前を向くような心地よさ。この身軽さ、心も体も軽やかで、言ってしまえば気分転換なのだ。
「さて。みんな、お客さんだよ。」
テツが俺の知らない事象について俺の知らないところで話を進めた結果の、ドアを開ける。
「新クエストの護衛対象。バースの村まで同行してもらう、、、」
"重責の塊"のような奴キタァ...
「アリスさんだ。」
――嘘を吐くな。。。
それは白銀のショートヘアで貴族の私服を身に纏いながら、腰にはしっかりと竜装のレイピアを身に付けた、セカイだった。




