①魔術学院の教室にて
第14譚{護衛の任務}
「フェノンズシーカー団、副団長のミック・ラインズだ。今日この場で初等生向けの授業を請け負った経緯は、近年新大陸が発見されたこと及びシーラの活発化ダンジョンの開拓、解析、調査におけるシーカーの認知度と需要が高まって来たことに伴い、シーカーというものの素晴らしさとその愚かさとを実際に現役シーカーとしてクランに従事するこのミックラインズが……」
生徒らと、教壇に立つ眼鏡の女性、ミックラインズとの温度差は激しかった。何故なら彼らの過半数が冒険士の中の探索士というマイナーな役職に興味を示していなかったからである。
「ふんむ。」
退屈さから騒がしさを増していく教室を見渡して、ミックは「まぁいいや……」と呟き、話を続けた。
「実に要点を語れば、今日の特別授業を風邪にやられた高導科のオルテガ殿の代役としてマスターシーカーという忙しい身でありながら私が直々に引き受けた理由としては、君らの先輩に位置する若輩者に、とある護衛の任務で借りを作ってしまった為であり、君らをシーカーなんていう愚者にさせないためであります。」
その言葉に教室の生徒は少々ミックに興味を傾けた。シーカーという概念を教える身でありながら、そういう体裁の授業でありながら、シーカーを愚者と下げたミックに疑念を抱いた為である。
その一抹の関心をミックは察知し、ニヤリと笑った。
「では先生らしく質問。君たちは寝て起きた時、自分の顔面に鉄楔を埋め込まれたらどう思うかな?」
ミックは黒板に精巧で平均的で端整かつリアルな男性の顔面図を描き、その鼻骨部より下側に三本の黒く小さな楔が貫通したのを描き、口元にも口内から頬や顎上を貫くように剥き出した楔を描いた。
「時にこれがシーカーの本質だ。その地に根付いた文化や伝統を踏み潰し、開拓という大義の元に破壊する。神殿だろうと神山だろうと英雄墓だろうと、正にその土地の人々を代表する文明の顔であっても、私欲の元に楔を打ち込む。」
ミックの絵はリアルさと虚構の入り混じったショッキングな絵であった。楔を刺した鼻を階段に見立て、片目を消しては洞窟の入り口として描き直し、闇の中へ冒険士らが足を踏み入れる。耳から侵入を試みた探索士は諦めたような素振りを見せ、耳の上に乗った探索士へ頭蓋をピッケルで掘る様に指示を出している。木々に見立てた髪の毛はチリチリと火災を広げていき、現存する森の中には魔物の群れが追いやられていた。
「な、クソな仕事だろう? 彼ら先住民の意志が往々にして尊重されない理由は、私欲の強さにある。すなわちオーパーツ。世界のパワーバランスをひっくり返すゲームチェンジャーと成り得る未知の技術。この魔性の魅力を前にすれば人間は果てしなく愚直になれた。当たり前のことすら当たり前でなくなった。」
上等な探索士はダンジョン内での詳細な記録を残す為の能力が求められる。それは具体性のある文章であるとか、精巧なデッサンであるとか。ミックは特段絵を描くことには成れており、黒板の絵は徐々にミックの独創的なアイデアと発する言葉に関連するように加筆がなされていった。
「なぜ人を殺してはいけないのか。これもまた"当たり前"を語る上での大きな命題だが、……うーんと。君はどう思う?」
ミック目の前の女生徒へ向けて問いかける。
「え、じ、自分が殺されたら嫌だか……」
「――違う。」
ミックは間髪入れずに言葉を遮る。
「人を殺すとリスクが有るから殺してはいけない。これが答え。すなわち厳密に言えば人は殺して良い。」
ミックは黒板の男の首へ縄を括りつけ、絞まっている様にシワを描く。
「人を殺してむしろリターンが有る場合も存在する。例えば死刑制度なんてその典型だろう。人を殺すことで犯罪抑止という御釣りが貰えるわけだね、人を殺してはいけないなんて命題は当たり前じゃない。しかし君らは当たり前と考えていただろう。常識が常識で無くなる、当たり前も当たり前として存在しない。ただ普遍的に正しいことは、勝てば正義、負ければ悪。そこには正解も不正解も無い。ということ。」
唐突にミックは笑いながら腕を振るい、黒板消しに男が消えた。
「さて話を戻せば、私たちは探索士だ。当たり前に人が死ぬ世界を当たり前に渡り歩き、当たり前に生還する者達。だから当たり前のように君たちが、目指す未来へ据え置いて欲しくは無い。ただこの刺激的な日常を語らずにはいられないもので、それらがもし君たちの背中を押してしまったとしたのならば、とてもとても残念に思いながら、今日は最近あった冒険の話。絶対に死んだなと思った時の話でもしようじゃないかと思ってる。無論レポートはいらないよ、だって監督者もいないからね!」
大いに盛り上がった教室で、ミックは笑いながらその日の絵を描き始めた。




