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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第13譚{勇者の街・b}

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⑦異世界の異世界


 生命の剣。大陸の中心にある世界樹で作られた木剣であり、セカイの短剣と交換した世界樹の宝剣。エルノアの"倉庫に有る"ということ、その意味が示す所は"決別"だろう。 


 俺はたった一人きりで異界の荒野を歩いていく。襲い掛かるバカな生物共には短剣が見せる幻覚などは意味を成さない。奴らは首を刎ねようが足を断とうが、俺の身体を喰らおうと噛みついてくる餓鬼だ。だから実態にダメージが入るこの剣はなんにせよ都合が良い。いや、良いのだろうか?この剣は相手の生命を奪わない剣だ。むしろ都合が悪いのかもしれない。いや、こういう時の為の使い方が有った……。でも、もうどうやるのかも忘れてしまった。


――あぁ、考えろ。思い出せ。……何故思い出す?自分の為?何をしている?目的は?何処へ向かっている?俺は何処にいる?何故一人なんだろうか?何故こんな選択をしたのだろうか?


 これは、多分、後悔だ。もう二度としない。絶対にしない。クソが。みんな死ねばいい。そうすれば楽だ。開放がそこにある。いっそ寝てしまおうか。


――いいや...変われるのは、自分自身。動かせるのは自分自身だけ。ならば俺には...


 足取りは重い。


――あぁ。眠い。


「足がぁ……、足が痛い!!」


――声を出せ。


「……かかって来いッ!!!」


――気力を保て。


「まだまだァ...!!ハァ...!!」


――意識を繋げろ。


 迫りくる龍の群れ、骸骨の大群、オークの行列、ゴーレムのスクラム。


 止まるな、歩くな、囲まれるな。


 何キロ走っただろうか。一体あと何体刻めば、何匹刺せば、逆鱗に魔力は満ちるんだ。転移魔法が簡単じゃないことは分かってる。エルノアですら俺に剣一本送るのが限界だった。肉体を送るなんて尚更途方も無い魔力の集積を要する。異界なら尚更。


――あぁ!考えるな!!


 酸素が勿体ない。この酸素は脚へ、脚へ、脚へ送らなきゃこの痛みは増してく。臓器は揺れている。眠気が脳を揺らす。焦点が合わない。物陰が少ない。20kmも走れば火山を囲む黒い森林に辿り着く。20km。遠い。遠すぎる。


――止めだ。今は…斬るしかない。


「来いッ‼」


 踵を返す。土煙が身を纏う。敵の速さはまちまちだ、近付いてくる順は決まっている。攻撃する方向を絞れ、正面だけで戦え、近い奴から素早く刻め。


――殺せ。


 その時に思い出した。生命の剣は、殺意によって裏返る。


「グッ…!!」


 親指を軽く切って血と共に魔力を送る。生命の剣は通常、斬った箇所を強制的に回復させ、敵の魔力と気力を奪い眠らせる。しかし裏返れば逆。傷口は外界へ向かう為に暴走し血液は吹き出るように舞い散り、細胞は瞬間的に腐敗して変色していく。傷口が生きることを拒み、次第に壊れていく。そういう剣だ。そういう剣を今から振りかざす...。


 刀身は血脈の巡ったようなドス黒い赤へと変色していく。


――殺す……、殺す……、殺すッ……


 森羅反転、殺生白刃。


「殺りたいなら。殺られる覚悟をしてくれや。」


 敵にも知性は有る。人間に近しいオーク種や哺乳類の中でも賢い奴らは、戦いの中で理性的な士気を持つ。ドラゴンやそれより賢くない奴らの群れはもっと本能的な士気。こいつには勝てないと思わせろ、より鮮やかに血を飛ばせ、目を潰せ、膝を砕け、絶望させろ、俺が絶望する、その前に。


「――がぁ‼」


 斬っては進む。進みながら斬り殺し背中を取らせない。敵を斬ることは重要じゃない、敵を殺すことが重要なんじゃない、敵に殺られない為に敵を殺す。死なないことが最優先事項。その為に進む、その為に斬る。その為に叫ぶ。



「はぁ...はぁ...はぁ...はぁ...あぁ?」



 何百体かを斬り伏せたところで土の色が変わる。敵を斬る為に踏み出した一歩で、目に見える全ての敵がパッと消えた。俺は戻る様にステップを踏み直し、ここにいるであろう見えない敵を斬りながら前へ出る。


「はぁ…?」


 剣は骸骨の骨を断ちながら、俺の目はまた敵の大軍を捉える。ただ背後には誰も展開しない。空中を飛ぶドラゴンも囲むようにゆっくり動くゴーレムも、何か見えない境界線があるように、俺が立っている直線上から後ろ側へは進まない。俺は敵が見なくなった境界線を骸骨兵のあばらを掴みながら入る。


「――キェェエエエエ!!」


 その骨のどっから声が出てるのか知らないが、苦しんでいるらしい。その境界線を越えるとドラゴンの鳴き声もゴーレムの足音も、骸骨らの歯ぎしりも消えた。静かな空間にただ一体の骨が叫び声を響かせている。


「...うるせぇよ。」


 俺は袈裟を斬るように主要な骨を断ち、黙った骸骨兵をそっと離した。状況だけを見れば取り敢えずは助かったらしい。俺は目に見えない境界線から顔だけを出し、敵の様子を伺う。…近づいては来ない。というか顔を出すまで認知されなかった。敵の一部は、ここでお開きといった感じで去っていく。土の色が変わり、国境を越えたかのように、世界が変わった。より薄暗くより静か。


「なんだここは...。――ってか、ダメだ。…もう眠い。」


 眠くてイライラする。というか意識が離れていきそうだ。静かな空間と安堵。呼吸をゆっくりと戻しボロボロになった身体を見渡す。


「・・・・・・・・」


 そして、気が付く。


「足……。」


 が、無い。





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