⑤とある最強が使う魔法の一端
「動くな。」
「降参する。」
――早いな。
少女はロッドを持ったまま手を上げ動きを止める。
「武器をゆっくり落とせ。」
俺の言葉に少女は冷静な表情で答えた。
「勘弁してくれ、私の杖が転移出来ない。高いんだ。」
目の前のこの女は転移の事を悟っていた。大会関係者の線もあるだろうか。或いは事情を把握し運営と内通しているか、観察眼が鋭いか。しかし取り敢えず収穫は有った。
「そうか、転移で合ってたんだな。」
事故の線は消えた。計画的に大会は進んでいる。つまり大方の予想は的中したと言える。的中?いや、それは違う。俺たちは理解していた。当てるとか当てないだとかの次元じゃない。何か、思考の何かがズレた。一瞬だけ、飛ぶように、ズレた。
「へぇ、理解していたの。しかし不思議だね。4人は転移されずに死体のままそこに転がっている。無残にも貴方に首を刎ねられ血を流し、この世界に留まり続けている。この現象は何…?」
「お前もこうなりたく無きゃ質問に答えろ。」
「え?あぁ。そうか、君が、君が。そう。君、その。そ、そのワッペンを壊れたものに触れ、……触れ?……アレ?」
「――あッ、ああああああああわああああああああ!!!!」
唐突な叫び声が遠くから聞こえる。女性の狂気的な叫び声だ。俺の目でも捉えられる場所、しかしここから200メートル離れた荒地の上。人数は二人。
「触れ、触れ?触れるんだ!――えっ、何に?えへへへ、アハ、あははははははあははははははあはっ。はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!!!!!!助けてッ……!!」
見た目に反した声を上げている。物静かそうなタレ目の癖して狂気的な言動。それも二人が同タイミング。何かが起こっている。恐らく仕掛けられた。今ここで。
「や、やめろぉ!来るな、来るな!来るな!来るなァ!!くそ、お、あ、やだぁあああああああああああああああああああ!!!!」
最後の一人、岩裏に隠れていた男も叫び始めた。だが男の目の前には何もない。何も起こっていない。幻覚? 或いは高度な認識阻害。トリガーは俺の攻撃か?いいや違う。こんなパターンは始めてだ。何故こいつらは錯綜している……。
「――テツ!」
テツは俺の声に反応し距離を詰める。こういう時はまず集まる。集まってその後は…、滅茶苦茶考える。素早く。真剣に。
「新手か?」
「もしくは精神汚染だ。僕はかなりこっちを推してる。」




