④あと、3人。
「はぁ...はぁ...」
「君たち大丈夫か!?」
残る精鋭は七人。俺たちを含めればこの場に十人、モンスターの攻防は激しさを増していくが、彼らが遮蔽物などを利用せず未だにこんな広場で戦ってる理由が分からない。数の優利で言えばモンスターに軍配が上がっていることは自明の理である。
――こいつら間違いない、アホだ。
「はぁ、助かったよ。馬車に隠れてたら急に全て消えてってさ...全く参ったよ。」
俺は乱れてもいない息を乱して、膝に手をつき深くため息を吐く。
「なぁ...アンタら強いんだろ?はぁ…、教えてくれ、はぁ…、俺達は助かるのか?」
弱者の演技は得意である。弱者だから。
「いや…それは、正直分からない。ただ獰猛で足の速い奴を狩りつくせば必ず安全な場所まで逃げられる。今は耐え時だ、一緒に戦ってくれ!!」
そんな保証は何処にも無いだろうに。ここは見知らぬ土地だ。
「なるほど。はぁ…はぁ…、悪いが俺は魔法が使えない。はぁ……っ、だから俺のことはいい...妹と弟だけは、家族だけは守ってやってくれないか?!」
「――兄ちゃん!!」
アラタは俺の服の袖にしがみ付き、今にも泣きそうな顔をしている。
――良い演技だアラタ。
「オ、オニイチャン。……コワい。」
――大根役者キタァ、棒読みかよッ。
なんでちょっと兄の部屋を覗いて気まずくなってからにドン引きしてる妹のトーンで来たんだ。思春期に出る「お兄ちゃん」だぞソレ。でもコレはコレで有りだ、有りだとしよう。しかしそもそも根本的に妹の武装が全く弱そうじゃなかった。この娘ライフル持ってた。これは他人設定で良かった。通りすがりのスナイパーとかで良かった。クソ、でも言わせたかった...。そこに後悔は、無い...!!
「わぁー、お兄ちゃんー。怖い;;」
――怖いのはお前の演技だ。それ以上喋るな、テツ!!
「大丈夫だよ妹ちゃん。君には俺が付いているさ。なんせ俺は魔王城遠征隊で三番隊の隊長を務めていた男だ。こんなんでもやる時はやるんだぜ。さぁ、俺の背中に隠れてな!!」
――ナイスガイだ。戦況を立て直した。
「わぁー、ありがとう。...じゃあ遠慮なく。」
テツは背中越しに語る男の肩にスナイパーライフルを置き、スコープの中でクロスする照準線を小さなドラゴンの群れに合わせる。
「ちょ、お嬢ちゃん...?」
「いや、あの、動かないで。」
「えぇええ!?」
テツがスタンバイに入る。俺は屈みながらアラタの背後に回り、背中を撫でるようにアラタの向きを変え、砂が柔らかそうなスペースに狙いを定めてアラタを固定する。
「あ、耳は塞いでて。いやでも、動かないで。」
「どっちだいお嬢ちゃ…ン"ン"!!!!!!」
―パァァアン!!!と轟いた有り得ない程でかい銃声に、人型バイポッドとなっていた男がライフルの逆側へ崩れるように倒れ込み、意識を失ってそのまま転移される。
――これでほぼ確定。転移魔法に致命的なバグは無い。そして気絶程度の攻撃で飛ぶ。一方魔法で生成された空気の弾は小型ドラゴンの群れを率いていた先頭の一体、その片翼の関節を貫き、群れの軌道をこちらへ墜落するような飛び方へと変えた。
――よし行けッ!!
俺はアラタの背中をグッと押し、ドラゴンの群れが今にも降り注がんとする地面の小スペースへ走らせる。
「もう、おしまいだァァアア!!!」
本音だろうな。演技じゃない。
「待て!!弟よぉおおお!!!」
傍から見れば、あまりの恐怖から錯乱してこの場より逃げ出した少年が、たまたまドラゴンの目先へ飛び込んだような構図。しかし全てが計算通り。アラタを追って出た瞬発力の高い勇者のお兄さんズが、アラタとドラゴンの間に割って入り、筋肉の隆起した双肩から放たれるガッツリとした斬撃で群れを捌いていく。
『山林式炎魔術ッ!!』
所作の全てが速い。そして結集する魔力量は非凡の域に達している。
『煉獄……ッ、大炎撃!!!』
続けざまに声が上がる。
『ケルノス(特雷)』
『切裂け。レヴァート(飛翔する火炎の片翼)!!』
『パルゴス(加速する氷塊)!!』
先頭の連撃に対してサポートが繰り出す戦闘特化型の属性魔法群。それもどれも学院では習い切れないような超強力な上級魔法だ。
正面切って戦えば間違いなく無事じゃなかった。魔術学院なら新米近衛兵として認定卒業したゴリゴリの武闘派でも、あの魔法を発せられるものは確実に天才か変態と呼ばれるレベルの大技。偉大な魔法使いと呼ばれるようになる境界線上の絶技。それを扱える剣士が三人も揃い、その上ズバ抜けた上級剣術を扱えるものが一人先頭で構え、迎撃と追撃の猛攻を繰り返す。これは、正直なところ……ッ
――やってらんねぇ。
「げ、玄武陣...!!」
その場に倒れ込んでいたアラタがどさくさに紛れ、直径一メートルほどの円に六角とそれに巻き付く紐の様な線を引き、『玄武陣』と、そう叫んだ。
「あっ、き、きみ!何をしてるんだ!!ちゃんと伏せて!!……お絵描きしている暇なんて無いんだぞ!!」
「う、う、ごめんなさいぃ。ただの、落書きなんですぅ、それもこれも全部アイツが悪いんですぅ!!」
四人の勇者の立ち位置が結ぶ、アラタを囲んだ"ひし形"の陣の中へスルリと合間を縫って入り、俺は何事もなかったかのように落書きの上に立った後、その動きに、最初に気付いた後衛の氷使いと目を合わせる。
「速い。なんで...?というか脚のケガは...?」
俺からすれば、こいつらのケガの方が酷い。良く戦って来たものだ。それに、この最終局面であんな大技を披露しやがる正真正銘のエリート、怪物級の冒険者。
――しかし、剣技はもっとシンプルで良い。
『居合。』
居合から放たれる斬撃はこの場にいる誰よりも、そしてどの技よりも速く飛び、360度の円を描いて水平に四人の首を刎ねる。当たり前だ。重さの無いこの幻影に、届く剣など存在しない。俺はクルリと一回転させた右足を地に着く。地面を擦ったその痕跡で玄武陣は二重の円を纏っていた。
原理は単純。魔法陣にダガーの鞘が溜めた魔力を当て、疑似的に魔力を宿した斬撃を生み出す。魔法が使えない俺が編み出した玄武剣術からの応用技。
『玄武陣・幻一閃。』
ワッペンは男たちの首が本当に飛んだと錯覚し、彼らの転移を始める。しかし4人ともが動けなくいる様子を見るに、彼らも自分が殺されたと誤認しているに違いない。飛ばされた斬撃は勇者らの虚を突き、意識の隙間を塗って衝撃的な幻視を見せつける。跳ねられて飛ぶ己の頭部。湧きだす血。諦めにも似た思考を宿せば、幻視は更に深く作用する。
「さて……、あと3人。」
その異変に気付いた魔法帽の少女は、こちらをジッと見つめていた。




