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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第12譚{隕石の街}

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③最強の魔法使い

「団長、ノスティアの"おいしいミルク"です。」


「おぉう。くるしゅうないぞ、カンル君。」


――ずずぅっと音を立て、少年はカップに入った牛乳を啜る。


「・・・・」


「なんだい?」


「お前、名前は?」


「ふてぶてしい奴だな。」


 少年は新聞を広げ、目も合わせずにそう言った。


「貴様っ!!ベイル王子に何という口の利き方か!!」


「ん?」


 少年が目線を上げ、緊張感が迸る。しかし王子は冷静にも執事を宥め、首を横に振った。


「まぁ、別に良いさ。……そうさな。名前はナナシ。この部隊の隊長を務めている。所属は無論口にしないが、まぁそういうことだ。」


「失礼ながらナナシ。僕には君らの部隊がメテイル王国を奪還できるとは思わない。」


「へぇ。言うね。」


「当たり前だ。僕はフェノンズに"国を盗れる程度の兵力"を要求した。つまりはサテラ・カミサキ。アイギスの最高戦力を要求したんだ。そしてアイギスの王家はメテイルに大昔の借りが有るだろう。これは君らのメンツの問題でもある。」


「小さいのに頭が回るじゃないか。」


 ナナシはおちょくったように言った。


「そうだ。僕はもう子供じゃない。父上は恐らく反乱軍に殺された。ならば、現状を打破できるのも、兵を牽引できるのも、民を先導し次の王と成り得るのも僕しかいない。」


「ふーん。」


 新聞を少しだけ降ろし、ナナシは目線を合わせる。ベイル王子に備わっている堂々たる威厳と覚悟。そして賢さと行動力。確かにフェノンズもといアイギスに取っては、メテイルの反乱を許すことはメンツどころか積み上げてきた外交的信用まで瓦解しかねない問題であった。すなわちベイルは的確に外交関係を理解し、フェノンズへ助けを求めたのである。特段アイギスに取って問題となるのはメテイルが保有するオーパーツの防衛戦力、巨神兵。つまりナナシらにとっては対岸の火事とはいかない問題であった。


「はいはい、仰る通りだ。けれどでも、しかしならばそれじゃあそれならしたらばさすれば、君はそのフェノなんたらが間違った判断をして、僕ら20人を戦地へ送ったと思っているのかい?」


「それは……」


 ナナシは新聞を畳んで机に置いた。


「いいかい?情勢は難儀だが、僕らは20人でメテイルを制圧する。どんな形であれ、主権を君らの元へ戻す。それが出来るからここにいるんだ。コードネームは『カラビナ』。フェノンズのっ……じゃなくて、まぁその、最強の少数精鋭部隊だ。それに君が稀代の女嫌いというから、その情報を受けて、サテラの代わりに弟子である僕が来たんだ。違うのかい?。」


「ぐっ……、誰からそんなことを……。」


「けけ、女の子が苦手なんだって?」


 ナナシは楽しそうに聞いた。


「ちがっ!!いや、違わないけれど……。話せなくなるんだ。相手が女だと。」


 王子は怒ったように言葉を返す。


「ならば僕で良かったじゃないか。ここに最強の魔法使いが来たところで、会話にならなきゃ作戦の建てようが無い。適材適所、本件の適任は僕なのさ。」


 ナナシは得意気にそう言うと「カンル!」と呼ばれた男から大きめの地図を受け取って、机の上に広げた。


「えぇこちらは参謀のカンル、外の見張りには副隊長のレンネがいる。ちなみにレンネは可愛い女の子さ。それと人員不足時の代わりとして、相談役兼調理長にルイザが付いてる。ルイザはゴッツいオネェ。そう言えば君オネェでも緊張するのかい?……なんつって。あぁーあ、不機嫌な顔をするなよ。冗談さ。」


 ナナシはそれぞれの名前が付いた白いマグネットを用意する。部隊『カラビナ』総数21名。彼らのマグネットがメテイルの城壁を囲まんと展開されていた。


「最後に改めて、現在この『カラビナ』を率いている隊長のナナシだ。よろしくベイル。君が王に"なる"まで、よろしく頼むよ。」


 執事は少々ムッとした顔をしたが、ベイルは真剣な面持ちでその手を取った。


「すまない。賊に盗られたこの国を、一緒に……」


「あぁ、取り戻そう。」


 固い握手を交わした後、ナナシはすんすんと鼻を鳴らし、不快感を示した顔を浮かべた。


「ちょっと汗臭い。」


「し、仕方無いだろっ!!」


「仕方無くない。……まぁ丁度良いよ、この山小屋は元温泉宿だ。お湯を溜めるから皆と入ろう。決戦前夜、英気を養うんだ。」


 そういってナナシは外に出る。


「見張りの交代だ。僕が見るから皆は温泉に入る様に。」


 その様子をベイルは呆然と眺めていた。


「カンル、だったか。君らのリーダーはいつもあんな感じなのか?」


 カンルは思い悩んだように顎に手を当て、答えた。


「まぁ、そうですな。我儘な人間だが、カリスマ性が有る。だからこんなご時世でも、皆が背中を追っている。」


「こんなご時世?」


「ん、……いや忘れてくれ。深い意味は無いですよ、次代の王。」


 カンルは困った様にそっぽを向いた。



――――――


「あーん。わたしも男湯に、入・る・の・ぉ?」


副隊長レンネが困るだろ。それか隊長の見張りを手伝ってこい。」


「イヤよ☆」


 ルイザは服を破り捨て、圧倒的な筋肉を見せつけた。


「お前、……替えの服どうすんの?」


「筋肉は鎧よ。」


「――うるせぇよ。」


「それに隊長は探したけれど、何処にもいなかったの。」


 温泉は石造りの露天風呂であった。お湯は湯畑と呼ばれる冷まし場を通り、気温や天候に合わせて最終的には火を焚き温度を調節する。


「あっちィ!!」


「馬鹿共、心頭滅却すれば火もまた涼し……、アッッヅ!!」


 阿鼻叫喚の中、露天への扉を開けナナシが顔を出した。


「盛り上がってんね。」


「た、隊長ッ?!。見張りは良いんですか?」


「並行してやってるよ。温度はどうだい?」


「なんというか、少々……。」


「そうかい。じゃあ下げてくるね。」


 そう言って瞬間、ナナシは姿を消す。


「消えた……。」


「魔法だ。」


 カンルは星を眺めながら呟くように言った。


「それも。最弱の、魔法だ。」





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