②不死鳥の残党
八代目団長{メイリオ・エイツ}が殺害されて以来、不死鳥団は事実上解体された。しかし平和都市アイギスから派生する世界の均衡は、不死鳥団の手によって保障されねばならなかった。
平和都市アイギスは軍隊を持たない。
東西南北、四つの超大国に接しながらも、いずれの国とも事を構えず、領土の拡大をしない。しかしながら、彼らが侵攻されようとした時、諜報機関として、非公式の義勇軍として、不死鳥団は他国の軍師や幹部らを暗殺してきたとされている。
故に軍隊よりも脅威的で厄介な秘匿存在。アイギスを守る為、世界的な暗躍を続けてきた不死鳥団の影響力は、言伝に広がる噂如きでは消え去らなかった。
事実。団長没後から解体された不死鳥が、フェノン騎士団として再度復活するまでの大空白期。その解体を誰もが信じず、どの国もアイギスへの侵攻を画策しようとすらしなかったのである。
しかしその裏には、解体された不死鳥団の残党と各国から集めた精鋭らを束ねた少人数特殊部隊の存在があった。
彼らは後に、こう語られる。『場繋ぎのレプリカ』と。
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{北サステイル地方・樹海街道の脇道}
「はぁ……っ、はぁ……っ、はぁ……っ。爺ぃ、彼らからの連絡は?」
「ありませんっ、やはり無謀だったのです!王子、今すぐここから離れるべきです。」
「――ダメだッ!!これ以上の犠牲が出るのなら、もはやあの国は元には戻らない。ならば僕は、ここで死ぬしかないッ!!残存兵力救いながら不死鳥団と共に追手を迎え撃つ!!」
迫り来る足音が徐々に大きくなっていく。死闘までのタイムリミット。あるいは絶命までのカウントダウン。数百人の追手を迎え撃つは35人の残党軍。体力も気力も士気も、既に明確に底をついている。
「もし来なければッ!!」
「――絶対来るっ!!!」
「王子っ!!」
『――それは分からんでしょう。』
腕を組みながら楓の樹に寄りかかり、その少年は呟いた。片手には手紙を持っている。奪われたメテイル王国を追い出された、彼らが送った手紙である。
怒っているような、あるいは嘲笑っているかのような、魅惑的な上目遣い。背丈の低いその少年は、同じくらいの背丈である王子を睨めつけて口角を上げた。月明かりがボサボサに膨らんで揺れる灰色の髪を照らす。今にも迫り来る大部隊の行軍を背に、王子はその目を離せずにいた。
「リスクヘッジをしなければならない。別に君の代で国を取り戻せなくとも、敵からすれば正当な血統が生きているだけで脅威となる。分かるかい?あの国は元に戻らないだとか死ぬしかないだとか、全くもって安直の極みだよ、理解に苦しむね。」
少年は急にまくし立てる様に口調を早めると、ワイシャツの袖を捲り手紙をポケットにしまって、ついでに両の手もポケットに収めた。
「へ?」
「しかしながら、難儀だね。敵か味方か分からなんだ。作戦も杜撰だし僕らも20人程しか連れてきてない。人を救うってのは人を殺す以上に大変なもんで。まぁ、もう大方……」
辺りを見渡せば護衛の姿が消え去り、目の前には追手の軍隊が伸ばした槍の矛先が、眼前にまで迫っていた。
「終わったけど。」
呟くように少年は言い捨てる。瞬間辺りは景色を変え、目の前には山小屋が現れる。開けた森のとある平地。そこに揃っていたのは見知らぬ者らを含めた40人程の兵士たちであった。
「な、なんなんだ……?」
「王子っ!!ご無事でしたか!!」
「え?爺ぃ。それにみんなも無事・・・?」
王子は不思議そうな面持ちのままに、顔を上げた。
「じゃあお前たちは、フェノンズなのか?」
その言葉に少年は笑う。
「違うね。僕らは名前を名乗らない。故にアイギスの争いの火種にもならず、賊に悪用されることもない。僕らはそういう組織だ。だから一先ず君はこう聞くべきなんだ。お前は味方か?とね。……まわりくどいかな?でも、そういう事こそ重要なんだよ。」
「はぁ。」
「アイギスへ当てた手紙を読んだ。友好国との絆は大事にしていかなければならない。故に僕らはここにいて、故に君らを助け出す。さぁ、話を聞こうか。」
そう言って少年は戸惑いを隠せない彼らを山小屋へ手招きした。




