③酒屋と、黄金の大編成
「ナナシ。クランティアって何のこと?」
アルク率いるトレード隊と動いていたアラタたちが、市場での売買を終えて戻ってきた。正直ダサい所は見せたくないが嘘を吐くのもまた良くない。俺はトーナメントの申込書へ自分のサインを書きながら、傍らでアラタにダンジョン攻略者についての細かい説明をすることにした。
「えーっと。まぁその、クランTierってのはクランの強さだとか凄さだとかを表す値で、全部で七段階あるもの。それで俺たちはその値が一番下だから、色々と審査が大変になってる。」
周りからは知らないクランのクスクスと言った笑い声が聞こえてくる。正直俺が彼らの立場なら同じように笑っていたかもしれない。それこそ冒険者になる前の俺なら笑っていた。
しかし現実というやつは非情なもので、俺たちのクランTierは中々に上がらなかった。もっとも根本的な原因は既に明確であるのだが。改善の余地は無い。
「こと、特殊ダンジョン。シーラに関してはもっと審査が厳しい。クランTier以外にも総合力を示すクランシーカーライセンスやクランとしての実績が必要になる。シーラで無いにしても、この街に住む周りのクランはジマリよりも数段階レベルが高いから、比較されて苦労してる。だが裏技として、B級ライセンスを持つテツのお供として俺らがいるってことにすれば、少しだけ上のダンジョンにも潜れる。厳しい審査だが搔い潜る方法も伝統的に沢山あんのさ。」
俺は時折小声にボリュームを抑えながら、説明してやる。するとアラタはしたり顔で番台嬢に聞こえるようなトーンで言葉を返した。
「なるほど。じゃあ、お姉さんは大したこと無いんだね。ナナシたちの実力を分かってない。」
――お、良いぞ良いぞ...もっと言ってやれ。
「貴方は何が言いたいのかな?ボーや。」
――ピキってる、ピキってる。。。
受付嬢がアラタを睨んだ。しかしそこは天性のクソガキ。全く動じない。
「へぇ、知らないの?ナナシたちは僕の故郷ジマリで、高難易度ダンジョンをクリアしてるんだ。それも何人ものケガ人を救いながら、悪者を倒し、三日もかけずに攻略した。だからお姉さんは、きっと見る目が無いんだね。」
アラタは場の空気を読み、俺たちに有利な言葉を的確に伝えてくれた。クランメンバーに名前の無い第三者として。要領の良い小賢い子供だ。子供なのかが疑わしいほどに頭も切れる。要所要所で短気なのが傷だが。
「はぁ、……何を吹き込まれたのか知りませんが{ユーヴサテラ}のジマリでの実績は浅層部の探索のみで、ほぼゼロです。」
「え…?なんで。」
アラタは驚いた顔をするが、それも仕方が無い。実に冒険者には、こういうことが良くあるのだ。
「まぁー、新規のシーラは難易度の比較が難しいのと、うちは比較的無法者クランだから色々減点されてるんだ。ライセンスを持たない奴(テツ以外)のシーラでの援助や同伴は基本的に良しとされてないんだよ。見てみろよ俺たちをさ、テツ以外はライセンス無しで潜ってる。それにアルク以外は詳細な身元情報を協会に出してない。年齢も生まれも分からない、あるいは開示することでデメリットがあるからだ。それは第三者からすれば、つまりギルド協会からすれば、ほぼ野盗と変わらない。」
言葉にして思う。我ながら凄いクランだ。俺はペンで机をノックしながら、セントヴァン城下街近郊のダンジョンにおける注意書きを読み進める。
――ライセンス未収得者及び、証明書を持たない者の同伴は実績の無効及び減点を…うんたら、かんたら。
「"了承"っ、と。」
我がクランはこと実績に関して伸びしろが無い。しかしそんなものは二の次で、最も大事なことである人命の安全とダンジョンにおける攻略のしやすさを天秤にかければ、このメンバーのスキルは何物にも代え難く、替えが効かない。
「ナナシは勿体ないことをしてるよ、特にテツさんの評価は実力に見合ってない。」
アラタは鋭い所を突いた。
――確かにな。
「テツは単身ならもっと深い所まで行ける。それも事実だ。だから俺はクランがバラバラになっても、それを止める権利を持たない。でも」
「でも、僕はそれで良いんだよアラタ。それに、このクランには無駄が無い。僕からしても皆が足を引っ張ている気はしない。あるいは、皆がみんな、足を引っ張ている。そうやって、完成してる……。」
テツの言葉を補足するため、俺は注意書きの裏面に箇条書きで役割を書いた。
「教えてやろうアラタ。我々の職業に語り継がれる、伝統的に完璧な編成を...」
「――向こうでやって下さい。」
受付嬢が睨みを効かせる。
「へぇへぇ。」
俺はさっさと承諾書を提出するとアラタを連れてテーブルに紙を広げた。
「ペンも返してくだっ…」
「――少し!!」
俺は人差し指と親指を突っぱねて隙間を縮めるジェスチャーをする。それを見た受付嬢は不機嫌そうにしながら次の冒険者の対応を始めた。
「次どうぞ。」
「ふぅー。こぇーおんな...」
ペンの羽をエルノアの前でフリフリさせて引き戻す。エルノアは一瞬ウズっとして、知らんぷりをした。猫め。
「さて、手短に話そう冒険者の世界を。……まず初めに、高難易度ダンジョン及び特殊ダンジョンには生還率を向上させる基本的な編成が有る。それは太古の昔から『完成させれば、どれほどの危険地帯であろうとも死者を出さない。』と伝えられてきた黄金の編成。まぁ飽くまでも理想だけれど。」
「どういうこと?」
アラタは興味深そうに首を傾げる。
「うん。具体的に言えば、パーティー内で役割を分担する。優れた探索士を集めるんじゃなくて、専門職同士で組むってこと。」
俺は広げた紙に文字と絵を書きながら新たに説明を試みる。
「まずはジーク。→護衛役、パーティーを守る人。
次にトレイルリーダー。→先導手、ルートを決め隊を導く人。撤退の指示もコイツが出す言わばそのシーカー隊の前頭葉。
次にテスター。→未開の地から栄養源を見つけ出し調理や判別をする人。
メカニケ。→罠やオーバードの価値、装置を解析する人。
メディック。→ケガや不調を直す人。
ポーター。→荷物を運ぶ人。
最後にシスター。→運を呼び込む人。
基本はこの七人で編成されて、金が余り、質の良い人材がいれば、
ガイドっていう→ダンジョンを良く知る地元民を雇う。Tier1の在籍者数が100人くらいいる探査隊も最前線を開拓する時にはこの七人七役+1人で挑むことが多い。もっとも呼び方は地方によって変わって来る。学説も様々で違う役割になっていることもある。だが往々にして、この大編成は別名{黄金編成}或いは{黄金の七人隊}と呼ばれていて…」
「――違う七賢編成だ。」
短髪を逆立てたガタイの良いオッサンが、酒樽を持ちながら紙に指をさして笑った。また酔っぱらいか。遠くでは楽士の一行が別の曲を弾き始める。イントロは弾むように明るい。
「それは東の言い方だ、西では黄金...」
「――違う、英傑の七編だ。もっとも初代の英傑たちは本物のシスターでは無く、盗賊っていう不確定要素を入れたとされるが、それはただこのシスターと呼ばれる盗賊の英傑がクソほど美女で…」
――誰だよコイツら。
「なんだなんだ、格下クランの癖に良く知ってんな!ちなみに俺の思う最強は単独で全てを網羅すあのシーカーだ。名前はなんてっか、まぁ結局は単独こそが…」
「――ちげぇんだよなぁ!それじゃあマンパワーが足りなくてリアリティーが無ぇ。しょっッせんは御伽話のアリスッ↑↑(よっこら)」
「るっせぇよ、ロマンというもんはッ...!!(なんだっけ!!!!)」
「―――違いますねぇ、生還率こそが全てのファッ―――!!」
アラタと俺の周りには、いつのまにか知らない連中が集まり賑わっていた。そして全員が等しく酒臭い。クエストギルド特有の陽気さが漂った雰囲気。特段彼らは実力者なのだろう。シーカーという存在自体が広まっている街は、見聞も広く知識も豊富な冒険者が多く、死人も少ない傾向にある。シーカーという存在が公になって以来こういう奴らが多いか少ないかが、その街の活動が成熟しているかどうかを測る一つの指標となった。これは個人的な話ではあるが。とかく、俺の話が知らない奴らの笑い声と怒号でかき消され、各々の形で波及していく。隣の席からまた隣へ、勇者の街の酒場は中々に、祭りのような明るさが根づいていた。
「――つまりだなぁ!!(誰だコイツ)」
「あぁんん!!?(酒が足りねぇ!)」
――うるせぇよ...、あと汗臭い。
「…つ、つまりだなアラタ。俺たちはその七役を既に五人でカバーしている。加えて役割が重複して…」
俺の声は別の声が、別の声が更に別の声に、かき消され、四方八方で格子を描くように広がる会話の網目が幾重にも靡いて波及していった。
「だからマンパワーがッ!!」
「――知るかッ!!(知るか!!)」
「ナナ~?お腹スイたー!!(腹減った~)」
「ですが現に最強と名高い...」
「はい旦那、この商品はですねぇ!!(売れる……。)」
「違う!まず、時代の流れはだなぁ...」
「なぁ私のキャラバンは世界一なんだぜ?!ハッハッハッ!!!!」
「はぁ。。。次どうぞ~。」




