②最高峰のクエストギルド
「着いたな、セントヴァン城下街。」
城門は重厚で簡素だ。何か利便性を突き詰めたようなシンプルさがある。守衛のチェックを終えキャラバンで城門を抜けると、まず初めに見えたのは食べ物の川だった。果物から魚、肉、肉を加工したもの。連なる食料品の色彩が流れる終着点には爽やかな青の噴水が、そして噴水の周りを囲むように住居と宿舎が並んでいる。市場が居住地を囲み、居住地が城を囲んでいるような街並み。その中でも城から少し離れた所に城と同じ大きさ程の建設物が有る。
「あれが学校か?デカいな...」
「うぅ、違います……。」
「ん?」
「ひぇッ…!!」
――ビビるなよ。
俺が振り向くとニーナマが小動物の様にプルプルと震えていた。敢えて言うが誘拐ではない。連れ出したのである。別に奴隷市に売る訳でも無い。
「なんだよ。」
「コロっ...コロシアムですぅ。」
「はぁ、なるほど。...そういえば名前聞いて無かったな(直接は)。」
正直、幸薄そうな顔は見てられない。連れ出した身ではあるが申し訳無くなってくる。
「はいぃ...ドラコ・グランデ、と言います。」
「そうか、じゃあグランデさんは....」
「――私じゃないです…!!」
まぁ知ってるけど。
「おい、ナナシ。」
ニーナマをおちょくっていると小声で俺を呼び掛けたエルノアが俺の肩に乗る、俺は同時に首を少し下げ、彼女はうなじに巻き付くように器用にバランスを取った。
「なに?」
「何?...じゃなくて、気が抜けてるだろ。」
「否定はしないが、いつもだろ。」
エルノアは呆れた様に溜息を吐いて続けた。
「はぁ……、ならいっそ肯定しろ。ナナシ、一応言っておくがこの街は嫌な予感がする。というかずっとしてる。そして強くなってる。」
エルノアは普段よりも語気を強めて囁くように静かに、俺に話かける。しかし個人的な考えはむしろ逆だった。
「気のせいじゃないのか。村を抜けた辺りから何も感じない。」
「この街で? それは正常なのか?」
――確かに……。
勇者の街だと言うのにパッとしない。強い人間の野心的な目線だとか、濃い魔力の気配だとか、時々人間から漏れ出るような、冗談交じりの軽い殺気だとか。
「――ならば、答えは絞られる。そしてそれにボクは関与しないし、説明しないし、君を救わないぞ。」
回りくどい奴だ。
「あっそ。」
俺はエルノアを枕にする様に体重をかける。すかさず嫌そうに、彼女は俺の後方へ飛び降りた。
「知らないよ。」
(どうなっても)知らないよ、か。
含みの有る捨て文句を残して、エルノアはプーカの部屋へ消えてった。
――――――
{ドラコ・グランデ闘技場・受付}
巨大なコロシアムにはクエストギルドと酒場が併設されていた。この街自体にはダンジョンが無い。しかし近くの丘には凶悪なダンジョンが複数有る為に、クエストギルドの規模やその役割はとても大きいのだろう。そしてジマリ街との突出した違いはやはり手厚い情報管理体制にある。通常ダンジョンと、特殊ダンジョン、更にクエスト受注、発注の受付番がそれぞれ分かれ、それぞれに詳細な現場の状況、モンスターの特性や種類、強さなどが提示される。さすが“勇者”と名の付く者らを支えるギルド。凶悪な依頼に挑み行く者達の、そのサポートも伊達じゃない。
「最後に、ドラコ・グランデにてトーナメントが開催されています。ただいま受付期間中ではございますが…」
「あれ、お姉さん..。どっかで見たことが?」
「――どうなさいますか?、ユーヴサテラ。」
この淡々とした感じもジマリの受付嬢に良く似ている。何か喜怒哀楽の感情が抜けているような暗い感じ。職業病だとか、類は友を呼ぶだとか、そんな理屈だろうか。
「いや、特にそういったものは、」
「でしょうね。」
――でしょうね!?
「いや、まぁ...報酬次第で出てやっても良いかな。」
「はっw貴方が?wそのランクで?w」
――う、うぜぇ。人を蔑む時は感情豊かな顔をするじゃないの...。
受付嬢は往々にして正確に難が有るらしい。どいつもこいつも嫌な奴だ。それに弱小クランをバカにする時はもっと聞こえないところでコソコソと陰口みたいに……。いや、それも傷つくんだけど。
「クランランクはTier7!著名なクエスト実績0!総合シーカークラスは辛うじてⅮクラス!ダンジョン推奨難易度レベル3(警戒領域・詳しくは『世界のマタタビ大全Ⅲ』を参照。)!ハッキリ言います。カスです。」
――はっきり言ったな。
「カスですか…」
ダンジョン推奨難易度、最高レベルは10。これは神々の領域に挑む者のみが与えられる数値だ。一方レベル3。レベル5を通常プロのハイエンドと据え置くこの組み分けとしては、まず初めに抜け出すべき新米クランの証明値である。
「はい、カスです。そしてこのグランデ祭に参加する挑戦者たちは幾多のクエストで実績を積み、近郊にある魔王城と呼ばれる極悪ダンジョンを制した“数多の勇者隊”に在籍する隊長たちです。最高レベルは6、平均でも4.5は下らない猛者の集まり。そんな英雄たちの中にレベル3推奨者が飛び込む?正に冒涜、不敬の極み。以上の理由から貴方には推奨されません。」
別に褒めるところを探す訳じゃないが、非推奨の理由をしっかりと伝えてくれる辺りは流石だ。職業病かもしれないが、説得力も有るし納得してしまう。
恐らく狂いの無いプロの眼で判断されている。やはりこう言った職人には頭が上がらない。舌刀、毒舌、暴言の類は心に来るものが有るが、無駄死にするようなルーキーが引退する分にはプラスだ。やはりダンジョンやクエストを通した冒険の安全は、彼女たちの不断の努力のおかっ――
「参加する。」
エルノアが番台へ飛び乗り口を挟む。
「きゃ、きゃわいぃ...?」
すかさずお姉さんがにやけながら言葉を漏らした。
「は?」
――きゃわいい...じゃねぇよ...。あと、参加しねぇよ。心折れたもん。
「なんだお前、横から。」
「報酬を見ろ。君に選択権は無い。」
「はぁ?」
俺は受付嬢の頭上にデカデカと掲示された看板の広告を見る。"優勝報酬①ヴルヴァン王国セルフ王女との婚約権。②"皇女の短剣"(ハイエンドの短剣)
――"皇女の短剣"
「いや、アレ俺のなんだけど……」
俺は看板の写真に指を指した。異彩を放つ複雑なフォルムに美しい刃が光沢を見せる、そんな業物。
「――なんだ、男気あるな。お前。」
「①じゃねぇよ…。分かってて言うなぁ。」
その隣には首の脂肪がたるんで重なった、ポッチャリ系女子の御姫様がいた。




