③三日後に死ぬ
「次は村長補佐兼相談役からの挨拶。」
「ようこそ旅の方よ遠路はるばる、こんな田舎によく...」
――あぁー、うるせぇ。社交辞令とかどうでもいいからさっさと買うもん買って売るもん売って、早くこの村から出ていきたい。用意された座布団は何か湿っぽいし畳の匂いは少々鼻を突く。
「ナナシ。敬意が足りないよ。」
隣で座るアルクが、耳をほじる俺を見かねた様に声をかけた。
「ところで我が村には代々、よく当たると言われている特殊な占いが伝統として残っておりましてな。」
長い白髪と腰の折れた小さな婆さんが雰囲気に合ったことを言い始める。
「その占いを紙占いと申しましてな、修行を重ねた占い師が紙にその方の未来を写し出しましてな、伝統的な古代ウヌメン文字によって言語化し現代語に形を変え未来を占うという大変に崇高なですな、神の啓示、示されました未来と言うものをですな、神の代理物でございます紙に写し出す、正にえぇ、崇高なですな、えぇ正に占いを続けております。」
「へぇ。興味深いですね。では次の街で私たちのトレードがどれほど上手く行くかを占ってもらえませんか?」
アルクは人差し指をピンと立て営業スマイルで婆さんに聞いた。
「もちろんですとも、もちろんですとも。ただし我々も商売です故、お駄賃を頂きませんのは"最初の一回のみ"とさせて頂きますな。よろしいですかな?」
アルクは俺たちと顔を見合わせて様子を伺った。リザ、俺、テツの表情は大体同じような興味無さげといった顔であったろう。一方プーカは二回目は無いと悟るや悲しそうな目で無言のアピールをしていた。アラタは澄ました顔でいながらも、目はキラキラと輝き、今か今かと期待している。
「えぇ、大丈夫です。」
「えぇー!!」
露骨に嫌そうな声をあげたプーカの口をリザがパっと抑え、声を留める。婆さんとその取り巻きはその様子に微笑ましい顔をし「よろしい」と答えアルクに近づいた。
「額に紙を付けますな、少しばかり動かないで下さいまし。」
そういうと婆さんは何やらジャラジャラ、フンフン声と音を出し、20~30分後に「ハァッ!!」と発声して締めくくると、アルクの額に着けていた白い紙をこちらへ向け「どうですかな?」と正座をしているアルクを見下ろした。
「占って貰った内容と違うのですが。」
アルクは笑顔で淡々とそう言うと「ほう。」と婆さんは驚いた顔をした。
「なるほど、お告げが違いましたとな。でしたらばそれはより重要なこと。神様が伝えるべくして伝えた内容が載っている筈ですな。どれ宜しければ私共めに聞かせては貰えませんかな?」
「―おい、どうなってんだ。何にも書いてないだろアレ。」
リザが俺に耳打ちをし俺も小さな声で言葉を返す。
「さぁ、あそこに座れば見えるんじゃないのか?光のアレでさ。」
「そっかそっか。」
そういうとリザはにじって進み少し前に座るアルクの背中から紙を覗いて帰って来る。
「いや、何も書いて無かったぞ!」
「嘘だろ、よく見てみろって。」
コソコソ喋っているつもりではあるがアルクには微妙に聞こえてそうなボリュームでリザと俺は会話をする。しかしアルクはただ婆さんの方に視線を送り続け、しばらく閉ざしていた口を開いた。
「鋼に打たれ、三日後に死ぬ...擦れた字では有りますが、そう、書いてあります。」
アルクは彼にしか見えない文字を読み切り、顔を上げた。
「ほぁ…。なんと…!!」
緊張感漂う空気が部屋を包み込み、対照的にシリアスな時代劇を見ている素行の悪い客の様に、プーカとリザはエンジンをかけるように笑い出した。
「可っ哀想~w」
プーカが端を発する。
「えッ死ぬの?アイツ?w」
リザがそれに続き、俺たちは笛を加えたようにヒュー、ヒューと堪えた笑いを噴き出した。
「死ぬ。急にアルク死ぬwwww」
「ブブッ…!!アイツ三日後死ぬって!!ブハッ!!こwれwはw傑w作w!!」
「おい、お前ら…笑うなっw笑うなってwwww」
その賑やかな場を一蹴するように、爺さんが口を開く。
「――笑いごとではござりませぬ!!!」
ピシャリ、と空気を断つかのように、張りの有る爺さんの声が俺たちの声を消し去るように響いた。
「お仲間が危ないという時にッ!……いいですかな、この占いは主の言葉そのものなのですぞ!もし彼がこの先、この運命に逆らおうものならまず神の許しを請い、次に神への願いを成就させる為に幾多の過程を経ていかなければならないのですッ。過程を経るのは簡単では御座いませんが、たった一つでも、せめて神への許しを請う儀式だけでもされていかれることがお仲間様の御身の為。そうでなければ神の言葉は呪いと化し、死に呑み込まれるという結果は避けられないものになるでしょう。」
――何もしなくても死ぬ。抗っても逆ギレで殺される。とんだ神様だ。
「へぇ!助かる方法が有るんですね!!」
俺は爺さんに食い気味に答えを促した。
「無論、我々が全力で助力をさせて頂きます。しかしながら儀式に使われる神器、その他消耗品はこの村では大変貴重なもの。我々も生活が有ります故にその面では協力をしていただかなければなりません。」
消耗品とは、この村が生産を得意とする工芸品のことだろう。
「では、結構です。」
「なにぃ?」
アルクは一言、そして会釈をしその場で立ち上がった。
「申し訳ないのですが、この村で長居をしてしまうと僕より先に死んでしまうものが有りますので。」
「はて?」
アルクは笑顔で続けた。
「鮮度です。我がキャラバンには冷凍保蔵庫が有りませんので、商品の価値が死んでしまう。…その前に、この村から出なくてはなりません。」
アルクはそう言い切ると「行こう。」と手を招いて屋敷の外へ進み始めた。
「え、ちょま、待って下され!!」
俺たちはその声の元へ振り向き、睨みつける。
「ま…待って下され。我々は無論良心から言っておるのですぞ。その証拠に昨日、三日後に“蒸発して死ぬ”と予言をされた村の娘が明後日、遺言を残しに屋敷へやってきます。是非、是非とも、その子の最後を見届けてやってからご自身の行く末を判断されてはと思います。」
「村の娘なら助けてやらないのか。」
俺は純粋な疑問を爺さんに投げかけた。
「その娘は、お金が無いですから故に、、、」
「なるほど。」
定められた運命は抗い得ぬお告げ。この村に滞在し行く末を見届けるまでは、安易に動くことは難しい。何故なら呪術とは、未知であるから。そしてトリガーに成り得る儀式なら、アルクは既に終えてしまった。
「分かりました。三日だけ、様子を見ることとします。」
俺はそう宣言する。




