②和風ホラーに眠り姫
とある村に着いた。地元特有の癖の強い異界文字で{→入村}と書かれている看板は、シミの有る木製でコケが付いており、色褪せていながら擦れていた。その不気味さは例えるならばホラーゲーム、とりわけ和風ホラーの様相を呈している。
「本当にここで合ってんのか~?」
リザは頬杖を突きながらキャラバンを止め、背中越しの俺に聞いた。彼女は男勝りな性格を持ちながら、性根はビビりだ。このビビりめ。
「そう書いてあるしな。進めばいいんじゃないの。」
「えぇ、でもな~。」
弱々しい口調で髪を左手でクシャクシャにしながらブレーキから足を離さないリザの肩へ、エルノアはストンと乗っかり耳元でヒソッと囁いた。
「――ビビリザ。」
「はぁ?こいつめ。」
エルノアの軽口にリザが舌打ちをしキャラバンの舵を切る。道の舗装はその杜撰な管理を物語っていたが、余裕ぶった表情でリザは片手運転をし始めた。
「間違ってても知らねえからな!」
ホログラムの馬が4頭。キャラバンを引いている様に映る。オリジナルで実体の有る力丸と白彩はキャラバンが所有する亜空間でぬくぬくお休み中だ。
「大丈夫だっての。」
適当に言ったが無論確証は無い。何故なら確かに看板なんて、その実信用に値するものでは無く、悪戯だとか劣化だとかで時折大いに旅人を苦しめるのだ。加えて道幅は狭く歪曲で、一寸先はまた曲がり道と言うように蛇行しまくっている。
「…湿気スゴイね。」
プーカが机に体重をかけながらフロントガラスを覗いた。運転席はキャラバンの中へ引き込まれている。雨天時、荒天時、接敵警戒時、視界不良時。この席はデッキからキャラバンの内側へ格納されるのだ。そして今はどれにも該当しない。
「珍しいな、内側で運転すんの。」
「...ッるせぇよ。そうでもねぇだろ。」
日頃強気な奴の打たれ弱い姿は、どうにも新鮮で面白い。
「視界も良いのにな。」
俺が言葉で詰め寄る。
「――寒いだろうが。」
「怖いんだろ?」
エルノアが冷やかす。
「――なんだよ!?怖くねぇよ!!」」
リザがキャラバンを叩きながら視線を外し俺のことを睨んだ。なんだかんだ彼女を気遣っているのか景色が見たいだけか、運転席の周りにはテツ以外の皆が集結して前方を眺めていた。
「あれ、霧だね。」
アルクが呟く。
「霧か、あぁもちろんな、先読みだ知ってたぞ。だからなぁ、あ…あらかじめなっ!」
水を得た魚の様に、食い気味に、ここぞとばかりに全ての窓をロックし、リザは姿勢を正しながらハンドルを握り直した。
「なんで窓を閉めたんだ?」
アラタがロックされた窓をグッと手で押し、不思議そうに聞いてくる。
「あぁーそれはな。視界が悪くなるだろ?今から。だから1つは敵対策、運転手は狙われやすいから荒天時は中に籠る。こういう時は大抵索敵の得意な戦闘員とマンツーマンで運転すんだよ。こういう時はな…、」
リザは俺の背中を叩き、運転しながら話を続けた。
「まぁただ、ここらは森を切り開いて道が出来てるから。適任はナナシじゃない、別にいるからな。――プーカ、テツを起こしてくれ!」
「……俺だけじゃ不安ですかね。」
「あぁ不安だね、無駄口を叩く奴が背後にいると私の完璧な走行に支障が出る。」
「へぇ」
――なんだ、だいぶ根に持ってやがるね。
プライドを感じる発言だ。まぁそれよか、しかし、なんにせよ、ウチの最強シーカー様は多くて12時間は寝ている超ロングスリーパー。確かに、そろそろ働いてもらう時間だという考えにはすこぶる同意したい所存。そして代わりに俺が寝る。
「プーカ?テツは起きたか?」
リザの言葉を聞いて、ロフトで寝ているテツを覗くプーカが首を横に振る。
「…ううん。まだ~…。寝顔可愛い~…。」
「よぉし、そのまま起こすな~。私も見たい。」
――ルーズ過ぎる。
「おい、もうすぐ村に着くんだ。どっちにしたって起きてもらうからな!」
俺はぼんやりした頭で吐き捨てるように言った。しかし、ロングスリーパーの彼女はただの常人のそれでは無く、長く眠れば二日間は抜群の集中力を保たせる怪物へと変貌する。つまり今回、見張り番の時間も削いでたっぷり寝て貰ったのには相応の理由が有った。それはこの村の不穏な噂の為である。{ウヌメン村}ここの村にはその別名として皮肉的に、とある伝道師がこう字名を付けた。『囚われし“運命の村”』と。
「プーカ。まだ起きないのか?」
「うん。」
テツの寝床であるロフトに赴いたプーカが帰ってこない。
「プーカ?」
「んん…まだ。」
「――プーカ!!」
その場を覗いた俺の声に、リザたちは緊張の糸がピンッと張ったかのように一斉に視線を向けた。
「どうした!?」
リザがブレーキを踏んで振り返る。
「お、こ…こいつ……、釣られて寝てやがる...!!」
俺がそう言って驚くと、テツの右目が薄く開き、彼女の口は「...うるさい。」と静かに声を漏らした。




