①錆びれた村の会議部屋に穴
第10譚{運命の村
村長の娘である私の家は、村の役人たちが集まる集会所となっている。私は彼らがこの錆びれた村についての議論を重ねる様子を、この床にと天板に空いた一つの隙間から良く眺めていた。姉であるニーナマは上から眺める私とは違い、その様子をポツリと横から眺めている。村を背負った長女であるから、話し合いにはいつも参加しているのだ。
「あぁー。」
くるりと回ったゴザの上、私は天井を眺めながら、出しあぐねた手紙を拾って見つめた。
――私はこの村が好きだ。
『工芸品をもっと売り出すべきだ。』
『誰も来やしないよ。道を整備しなくちゃ。』
『道を整備したって変わらない。誰も使わないから道も錆びれたんだ。』
床から響いてくる激しい討論は、毎度キテレツな所に収束する。
『客は少ない。ならば今期も巫女覧に投資をすべきだ。』
『もっともだな。』
村は集めた金を村の為に使う。毎度その額は少ないが、この村長宅に集められる。ささやかながら集められる。
――ドタドタドタ……。
階段を駆け上る軽い足音たちの正体は、この村の宝物。
「――ミッちゃんあそぼっ!!」
「しぃー、こら!お父たちがまだ話し合ってるでしょ!!ねぇミッちゃん?」
この村は豊かだ。川には多くの魚が住み、山にも多くの食料がある。溢れ出る天然の温泉は旅人の喜ぶ黄金色の濁り湯。遠い昔の文献によれば、かつてこの村は美しく栄えていたという……。
「いいよいいよ。どうせ今日も下らないこと話してんだよ。」
しかし、村の客足は突如として途絶えた。残ったのは、大昔に土砂崩れの予防整備としてつぎ込んだ多額の借金。そして繁栄を極めた過去の遺物に対するプレッシャーと劣等感。要因など幾らでも考えられる。戦争、モンスター、盗賊、馬賊、ダンジョンの難化による赤字もよくある話だ。いずれにせよ客足は減り、この村に通じるインフラは腐っていった。
「ミッちゃん。なにそれ、ラブレター?」
「そんなところかな。」
客足が少ないのなら、客単価を上げればいい。私は年下だらけの友達を見ながら。もとい同郷に住む家族を見ながら、手紙を握る。私の姉は私より優秀だ。だからこそ私が未来に投資する。
「行こっか。」
私は彼女らを連れて河原へ出る。そう言えば、旅人から聞かされたこんな話があった。この村の怪談話は有名だと。お化けだとか霊だとか。そんなもののせいで人が寄らないのなら、全くもって本末転倒である話だ。
「その前にポスト行かせてね。」
「んー、いいよー。」
もうすぐ姉の誕生日だ。そして彼女は、もうじき死ぬのだろう。だから彼女が、もう一度この村を嫌いになる前に、私は私の賭けに出る。




