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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第9譚{とある旅人の譚}

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③とあるキャラバンの戦闘


 馬賊ばぞく。この辺りでは有名な盗みの一団の総称。盗賊の亜種みたいなもの。機動力に長け、俺達みたいに鈍そうで警備の薄そうなキャラバンを狙ってくる。それも中々捕まりはしない。理由は多々あるが、拠点を転々と変えることが出来ることかつ、国境の境に身を置くことが要因としては大きい。ある種、奴らが見えたら国境の上だと判別できる指標。


「大丈夫だ、撃て。」


――ダァーンと、重々しい音がキャラバンの屋上から鳴り響いた。これは常套手段である。屋上では手始めにテツのライフルで敵を威嚇をし力量を計っている。というか「名乗れ」と脅している。これで、逆行でもしてこれば遂に開戦となる。


「今のなに!?」

 アラタが頭を抱えながら叫ぶ。


狙撃大気銃オーパーツだ。弓矢より正確かつ破壊的な兵器で敵を牽制してる。――テツ、状況は?」


「近付いてくる。」


「意味ないじゃん!!」


 驚くアラタに対して、場慣れした経験値が俺たちの冷静さを保ってくれている。


「そうだな、…厄介な敵だよ。未知の兵器にも怯まず乱れず、手慣れていると読める。敵側の馬の足が遅く、一時間以上の長期戦にでもなれば大抵の生き物はスタミナ切れで撒けるんだが。馬賊の駿馬とかは例外的に速くて決着も早い。相手がその気なら戦闘はまず不可避。」


 速度を上げ続けるキャラバンの横で確実に距離を縮めながら馬賊たちは並走する。手に持つものは弓矢などでは無く、携帯型の短い杖だ。


「撃ってきた。」


 テツの声とほぼ同時に重みのあるボウリング球ほどの火球が、――ドォガン!と、爆音を立てながらキャラバンの横腹へ勢い良く衝突した。


「――うわぁ!!」


 激しい赤色は四方八方から地を抉り、草を燃やし、着弾し、度々轟音を響かせる。しかしそのほとんどはキャラバンに届くことなく直前で落下していく。回避行動を取るこのキャラバンに着弾するのはほんの一部である。


「と、と、と、届いてないじゃないか!!?」


「あぁ、奴らに火薬を使ってると思われてる。さっきのライフル。アレに対する定石的な反撃手段だよ、普通ならな。」


「か、火薬ってなんだよ!?」


 カルチャーショックならぬカルチャーギャップ。火薬も知らないなんて良い所に生まれたんだろうな。いやむしろ逆か。それが分かっていながら"深い質問"をしているんだろう。本当に賢い。


「おい!呆れた顔をするな!!」


「――ったく、してねぇよ。火薬っていうのは燃えやすい粉だ。ただ魔素に対しても過剰に反応するから、火薬を使った武器は爆発してすぐ壊れる。奴らはそれを誘発させようとしてる。」


「――ば、爆発!!?」

 アラタは目を丸くしながら壁に張り付き驚いた声色で叫んだ。


「しないよ大丈夫だ。テツのライフルは空気を送ってるだけで火薬は使ってないからな。でも無論、当たればケガをする……。」


 そしてこの銃はシーラでも使える。それ故にオーバーパワー、それ故にゲームチェンジャー。


「どういう原理だよ!?」


――それこそがダンジョンの秘宝。


「分からないから"オーパーツ"なんだろ。」


 俺はガラス窓から外を覗き敵との距離を測る。


「テツ、散弾いけるか?」


「分かってる。」


 忙しなさの中にも冷静さがハッキリと混じっている声。集中してる。こういう時に弾を外した彼女を未だに見たことが無い。絶対的な安定感。圧倒的な信頼感。


「リザ、力丸離して。エルノア、カバー解除だ。アルクは後ろ乗って。」


 俺はてきぱきと指示を送り、先頭デッキへの扉を開け一頭の馬へと飛び乗った。


「さっき、カモフラージュって...!!」


 キャラバン内からはアラタの遠い声が聞こえた。騎乗した馬にはアルクの重みが加わり俺は手綱を横へ引っ張る。


「二頭は本物だ!!顔出すなよ!!」


 敵は7頭と9人。うち3頭の馬へ散弾が当たり、悲鳴と共に流血が見られた。そう、致命傷じゃなくていい。馬の速度さへ落とせれば戦力は大幅に削げる。


 機動力が残っている騎馬は一人乗り左右一頭ずつの2頭。2人乗りはスピードとスタミナが落ちてきている。もしくは狙ってサポートの役回りに徹しているか。とにかく後方へ退いているようだ。


「――よーちヨチヨチ、頑張ろうなぁ力丸!テツ、右は頼む!」


 敵の戦意はバラバラだろう。俺たちが攻勢に転じようと動いた瞬間に、刹那の判断で少なくとも4頭は逃げている。(フリかもしれないが…)そして、そこに連帯感は見られない。迅速な退避と、キレた頭の回転は賊の優秀な狡猾さと冷酷さを物語っているが。退く意識に見られる低い士気と連携の浅さ。


――臆病だな、大概。


「アルク、狙えたら腿ッ!!」


「よし、」


 糸のように呼吸を細く絞り、同時に狙いをも絞る。杖から伸びる光の線が作り出す光弓の矢。張り詰めた弦から放たれる渾身の一射。


――ダァン!と散弾した右側の射撃音と共に、アルクの矢も左を走る敵の馬へ刺さった。ヒヒンと甲高い鳴き声と両翼共に落馬した賊を見て、俺は手綱を強く引き、リザもそれに合わせ、ゆっくりとキャラバンのブレーキを踏んだ。


「さすが貿易商一族、秘伝の弓……。」


「家から盗んできて正解だったよ。」


 アルクは満面の笑みで衝撃の事実を暴露した。


「そりゃ怒るわ。」


「えへへ。」



――――――


{ユーヴサテラのキャラバン・屋上}


「プーカ。しっかり縛ったか?」

「多分、ギュギュっと。」

「かゆみ止めは?」

「ほら」

「よし」


 俺はプーカ特製の虫刺され用塗り薬が入った瓶の蓋を捕虜の鼻へ向けて開いた。


「ヴッ…ヴァアア」


 アンモニアに近い独特の刺激臭がたっぷりと、槍の如く鼻腔を突いてくるだろう。


『――ぷはぁツ!!!!!ウワァッ!!オェッ!!』


 アンモニアを嗅がせるのは気絶したボクサーにも用いられる常套手段だ。効かない筈が無い。


「起きたか。……おい、お前らのアジトを言え。」


「こ...この先の村の小屋だ!農民のフリをして賊を続けてる!!助けてッ...!!」


――もうゲロった。


「裏切り早ぇな。」


 無精ひげを蓄えた顔面が真っ青になっている。何故賊になったのか不可解なほど臆病な気質。


「まぁ良い。飯も手に入ったし、野ざらしで許してやる。」


「ナナ。馬刺し!馬刺し!」


 プーカが上機嫌に梯子を下り調理場へ向かっていく。正直なところ気分は優れないが肉を食べれば変わるだろうか。


「馬刺しって敵の馬?」


 アラタがぼんやりと聞いてくる。


「そう。曲がりなりにも戦果だよ。不条理なリスクにも往々にしてリターンは有るものさ、有難く頂こう。」


 肉を食べれる。気分が良くなる。でも一時だけだ。何故か鼓動は早いままで、何故か力が抜けきらない。不穏な予感が身体を包んでいた。なにか身震いのする様な、気の抜けない緊張感。


「そういえばナナシ。その短剣使うことってあるの?」


 アラタは本体を失った鞘を指差して言った。服に隠れて見えないだろうが、刀身は無い。


「え、あぁ。」


 アラタの声が霞んで耳に入ってきた。

 ランチを取ったら一眠りしよう、そうしよう。索敵はまたテツに頼めば良い。問題は無い。憂慮すべきことは…。いや、何も無い。大丈夫だ。


「滅多に使わないよ。大切な物だから。それに少し特殊だし、本気を出すときにしか握らないようにしてる。」


「へぇ、じゃあ御守りみたいな?」


「近いかもしれな....」


 喋り終える手前の、たった一時の暇の、肩の力を抜いたその刹那であった。




『――ウアァァァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!』




 声は動きの後に発せられた遅れでしかなく、縛られていたはずの男は何処からかの刃物を握っていた。狙いは良く見える。テツの首元に対して垂直に、逆手に持ったナイフの柄をスライドさせるように、その喉を断つが為に。


 それは洗練された、無駄のない動き。


 殺意を込めた、命懸けの一撃。








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