①とある朝方の二度寝
青々と生い茂った草木を踏みながら、朝露にキャラバンを濡らし、そよ風と同じ速度で前へ進む。船内には5人と1匹。無論数え間違いではなく、ジマリ街から受けたクエストを受注し、子供を一人乗せている。
そして、朝日と心地良い風に吹かれながら、採れたての新鮮なニュースがもう一つ。
――俺は、短剣を無くした。
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『――え?――えぇええええッ!!!? まずいじゃないかナナシ、あの短剣で二つの秘石を砕いたんでしょ? そ、それならこれからあの短剣が、エルダンジョンへの鍵になるかもしれないって!! それに誰かに奪われたとするならば……』
まくし立てるように喋るアルクを仰ぎ見ながら、眠気のままに欠伸を一つ、頭の後ろで組んだ手を耳に当てがって口を開く。
「まぁまぁ、時間が経てば見つかるさ。今回は宛が有る。」
「今回は、って……、前回は骨董品に流されたあの短剣を僕がどんな思いで、どんな伝手を利用して、どれほどの労力をかけて見つけ出したと思っているんだい?!」
「その節はどうもお世話に……、ホント今回は自分で見つけるから。」
俺は屋上の欄干に足をかけて目を閉じる。心地良い向かい風はこの場所の特権だ。そよ風に頭を冷やし、状況を整理する。実に探し物をするのは難しい事ではない。どんな場所で、どんな時間帯に、どういった状況で失くしたのか。この理解が有れば消去法でなんとかなる。きっと短剣は遠くには行っていない。
「そうかいナナシ、言質は取ったからね!!それで戦闘は?」
「いつも使ってないでしょ。無くったってほとんど変わらないよ。」
「それもそうかも知れないけれど、それはそうじゃないかも知れない時だって……。」
「……分かった、分かった……。」
ジマリ大洞穴の事件から数日後。大陸の主要なメディア機関『S TEPS~ステップス~』の新聞は、ジマリダンジョンが特殊ダンジョンへと変貌し、大規模な死者を出したという記事を大々的に報じた。
シーラという特殊ダンジョンの存在が、また一歩公の舞台に近づいたのである。
しかし新聞の一面を飾ったのは、全くもって別の話題である。この世界ではよく死者が出る。ダンジョン探査という生業は、国家間を現在進行形で脅かす魔法戦争の数々に比べれば、大した話では無いのかも知れない。
――イーステンの小国滅亡。
ダンジョン内で起きた宗教団体による陰謀も、戦争の前では小競り合いに過ぎない。もちろん情報統制は日常茶飯事だ。メディアには大国の圧力が掛かっているのかも知れないし、シーラという概念はまだ知名度が低い。
今はまだ、"世は正に、大探索時代!!" とは行かないのである。
俺は流れる雲を見ながら思い出す。あの日、俺達が洞穴のシーラから生還した日。必要な手続きを取った後、簡単な謝意を受けてから俺達は直ぐに街を去った。ユーヴサテラと言うクランの素性をなるだけ漏らさない為である。確認したが新聞にも名前は載っていなかった。有名になるのは悪い気もしないが、シーカーとしてこのクランが独り立ちするその日まで、悪目立ちは避けねばならない。
俺たちは悪神教にマークされている。
クラン証書やその他の証明書、個人情報を司る書類には、目を通した者を記録する保護魔法が施されている。仮にもギルド協会の魔法だ、素性はバレ難いはず。キリエは秘密結社的であるが、表舞台ではニッチで健全な宗教団体だ。彼らのメンツを保つためにも、今回のような過激な犯行は起こしにくいと考えられる。俺らのような偶々目的の重なった一冒険家はザラにいるだろう。ジマリ大洞穴の実行部隊も今頃ブタ箱だ。ジマ洞穴の時もそうだが、中々英雄凱旋とは行かない。大手柄に着いてきたものと言えば、口数の多いクソガキだけだ。
「御飯できた。」
屋上へテツが顔を半分出した。伸びた髪を後ろで括り柄の無いエプロンを着けている。
「いらない。」
「ダメ。」
今日の炊事当番は彼女である。




