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ノアの旅人 ‐超・高難易度ダンジョン攻略専門の底辺クラン、最強キャラバンで死にゲー系迷宮を攻略する譚等 - / 第6巻~新章開始   作者: 西井シノ@『電子競技部の奮闘歴(459p)』書籍化。9/24
第8譚{洞穴シーラの街}

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⑧手遅れを告げるモノ、二度目の別れ

 

 五感の全てが彼女に劣る。第六感的な部分でもそうだ。ともすれば、俺の疑念は彼女の顔で確信に変わる。それは拒絶をむき出しにしたような、嫌悪と憤りと呆れが混じったような、真剣な顔だった。


 この洞穴シーラは不思議なことに高山に似ている。ゴツゴツとしたガレ場に移動を制限する乾いた足場。引きずり込まれるような傾斜。しかし、いやだからこその違和感が一つ。これだけ高所の環境に似ているというのに寒くない。湿り気のある温かさ。加えて匂いが有る。微かな匂いだ。土とか、汗とか、遺体とか、遺体とか、遺体とか、遺体とかの腐敗した臭気だとか。あとは遺体だとか。


「――ナナシ。」


「……えッ、あぁ。」


 ここまで悲惨なものだとは思わなかった。傷口はドス黒く変色し、鮮度の落ちた生肉の様に熟れた四肢とむき出しの骨格が服を着ている。寂しいだとか、悲しいだとかの感情は無い。ただ高鳴る鼓動に送られる血液が細胞を目覚めさせるように、緊張感が増し、辺りへの警戒が強くなる。この中に知り合いはいない。でもこれだけの死体が有る場所には、今俺たちが立っている。


――ここで、何が有った?


「C2はここにしよう。」

「え、逆に!?」

「まぁ開けてるし。死体が食われてない。匂いは焼けば消える。古い死体も見えない。」


 テツの冷静な分析に加え、プーカが辺りを散策する。この手の光景には成れているのだろう。


「キャンプ跡もあったよ!」


 プーカの一言で不気味さが増した。というかそれは、確信だった。旅にデジャブは付き物である。



―――――――

{ジマリ大洞穴・第二層C2(夜)}



「かぁー。水だぁ、助かったぁ!!」


――おっさんは裂傷。


「やぁー!ありがとう命の恩人ですわ!!」


――こいつは骨折。


「命の恩人じゃわい…」


――ご老体はほぼ無傷、これが経験の差...?


 食料はC2用だけで10日分ある。それが現在は2日分にまで減った。現在、隊の人数は23人、内、重傷者は18人。軽症者数は2人。3人は俺達。医薬品も底をついた。水も恐らく底をつく。焚火の燃料はもう落ちちゃいない。


「限界だろうな。フレアを焚こう」


「そんなんで応援が来んのかい?」


 右腕の骨を折ったオッサンが不思議そうに眺めてくる。まぁ確かに、こんな穴倉でフレアを灯そうと、視覚的には効果が無いだろう。


「基本的には匂いだよ爺さん。微かにマタタビを燃やしてる。うちには鼻が強い仲間がいるから中間層までこのフレアは届く。あとは匂いを辿ってやってくる。」


「はえ~」


「――んで、何があった。」


「はぁ、そうだった。」


 能天気なおっさんだ。最も重要な話だろうに。


「まず…先行隊が全滅した。わしらがそれを知ったのは先行隊の一人と会った時、そやつは{ユーブサテラ}の主力じゃったそうで、ポツリと独り俯いて、佇んでおった。そして全滅の経緯を聞いている暇に奴が現れた。」


「牛…でしょ?」


 テツが白湯を飲みながら呟く。


「んん?!――そうじゃ、足跡を見たのか?良くできるお嬢さんじゃわい。でもただの牛じゃあ無いわ。そいつぁ本来は二層の奥地に生息するジマリ牛の長老。」


「牛肉!!?ミートボール!?」


 プーカが飛び切り嬉しそうな顔をした。


「ほほう!食べたでの?ジマリのミートボール?ジマリの食卓で食べられている牛は、ダンジョンの強くて大きな牛を飼い慣らし、後に家畜としたものなんじゃ。わしも一度行ったことが有る。二層の奥地はここいらの栄養を全て吸い取った牧草の楽園の様な場所で、見たことも無いような巨大なジマリ牛が香りだかい香草をふんだんに食べておる。体長は小さなものでも5メートルは下らない。ワシらはその群れと1層と2層の間で出会った。普段なら魔法の得意なものが追っ払って解決なんじゃが、何故か逃げる羽目になっとって、ここにいる者達はみな隊の後方に位置していたもの達じゃろうから、ガレ場に不慣れなものから始まる渋滞を契機にジマリ牛に滑落させられこの有り様じゃ。」


 老人は笑いながら話す、これは大方予想通りだ。テツの。


「しかし何故なにゆえ、こんな奥地までわしらを引きあげた?頑張って戻って、お主らが定めおったそのC1とやらに何故導かんかった?」


 導く。ダンジョンでは進むトレイルを定める者を命を預ける者として、導き手(トレイルリーダー)と呼ぶ。パーティーにおけるその責務は重い。そしてこの役目ロールは、必ずしもクランリーダーが担う者ではない。パーティーにおけるトレイルリーダーは、シーカーの中では、最終的な判断を下すパーティーリーダーと一線を画すのだ。何故なら導き手には変人が多いから...。直感タイプも、頭脳タイプも。


「明日は、この奥を探索する予定だからキャンプ地として...です。」


 テツが答える、


「なんと!!大口を叩くのう。第二層に挑み行く者達を見たじゃろう?みな歴戦の冒険者、装備も洗練つくされておる。人員も申し分なく挑んでいる。やはや、……なんと。恩人の為にワシが言えることはただ一つじゃ。主らを冒険者と理解した上で言うぞ。――それは、止めなさ…」

 

 俺は真っ先に、きっぱりと答えた。


「嫌です。」

「えぇ、牛ぃ!!」

「却下。」


 パチパチと火の中の小枝は爆ぜ、おっさんは呆れた様に笑って茶を啜った。


「なんと...まぁ。」



―――――――

{ジマリ大洞穴C2・キャラバン隊合流}



「ただいま、エルノア。」


「しぶといな、」


 いつも通りの辛辣な猫だ。まだ生きてたのかと言わんばかり。


「まだ生きてたのか。」


 言った。


「お帰り!!無事でよかった!!」


「コイツらが、《《こんなとこ》》で死ぬわけねぇだろ。」


 ――カッハッハッと、リザはたっぷり笑いながら言い放ってくれる。実に痛快で嬉しいことだが、負傷者の前でそれを言うノン・デリカシーっぷりも相変わらず清々しい。


「こっちで発見したのは30人くらいだ。うち10人は死んでる。そっちは?」


「こっちは12人。全員生きてた。」


 キャラバンに載せる客の人数は32人前後。工夫すれば行けるだろうけど、防備が手薄になりそうだ。


「行方不明者は、あと15人くらいか。」


「そうだね。」


 アルクが俯いて相槌を打つ。


「テツと相談したんだけど、《《終環点》》まで行こうと思ってる。」


「なるほど……。ここからなら、悪くはない。と思う。」


 アルクは顎に手を置きながら考える。交渉専門とはいえシーカー隊の一員だ。ダンジョン探索でも良く頭が切れる。


「…終環点って、なんですか?」


 そういえば連れて来てたな。ここに来て討伐対象クソガキと女の、たった二人分のスペースが惜しい。


「終環点っていうのはシーラの終点。この特殊領域に不思議な現象を起こしている要因で、そこには時に貴重なオーパーツが埋まってたり、高価な湧き水が出てたりするような場所です。シーカーを目指す人々やシーカーという生き方をする人は、誰しもがその終環点、特異の中心が生み出す美しい価値を掴みにシーラへ潜るんです。」


 アルクが丁寧に説明する。


「そしてその場所を弄れば一時的にシーラの出入りが容易くなったり、危険度が下がったり、もはや危険じゃなくなったりと、とにかく特典がいっぱいある。」


 俺はアルクの説明に乗っかって話すが、


「でも、そこを目指して大勢死んでく。」


 リザはハッキリと現実を伝える。


「エルノア、倉庫を開けてくれ。」


 俺がそういうと「ふん。」と鼻を鳴らし、エルノアはキャラバンの中へ入っていった。俺とテツはその背中を追い、四角い印の有る壁の前に立った


「マスター、いつもので。」


「僕も」


「命令するな。」


 エルノアは何だかんだ言いながら、内壁の印を紫色に光らせ倉庫へと繋げた。


「なん...なんですかソレ?」


 すっかりと好奇心のままに動いている受付嬢は目を丸くしながら眼鏡を弄った。


「えっと、このキャラバンには居住場所や台所とは別に、亜空間に倉庫が繋がってる。っていう感じかな~?詳しくは知らない。」


「勝手に教えるな。」


「――じゃあ、今のは無しだ!」


 俺は受付嬢にそう言い切った。エルノアは一方、不機嫌な顔をした。



―――――――


{ジマリ大洞穴・第二層C2キャンプ地跡}



「ここは解体しといて。」

「ハイハイ。」


 アルクが笑うと、俺はエルノアを撫でる手を止め立ち上がる。


「僕に触るな。」


「願掛けだよ。生きて戻れるか分からない。」


――いつもそうだが。


「大丈夫だ、すぐ迎えに行く。」


 リザは袖を捲りキャラバンの中へ消えた。


「あぁ、頼む。」


 一時の別れもいつだって空虚だ。心に穴が開いたように虚しさが残ってしまう。それを埋めるこの昂ぶりは、俺たちがここに残る理由の一つだ。


「んじゃ、行ってくる。」


 でも、例え心が空虚になって。それを埋めた好奇心があぶくとなって。進んだ先には闇しか無かったら…。


「牛肉~!!」


 プーカの声が遠ざかる。


「余裕有ったらな~!!」


――いいや、それでも。帰る場所が有るならば、笑いばなしにでもして返ろう。


 俺たちは消えゆくキャラバンへ手を振りながら、笑顔のまま、更なる闇へと踏み込んだ。圧倒的に広大な深淵に、ぽつりと二人。経験と知識だけの灯火で、この暗闇を照らしていく。








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