⑥洞穴のシーラ
「シーラ?」
尋ねる番台嬢に振り向き、首を掻きながら答える。
「あぁ、正式名称はシーカーズ...えっと、何だっけな。…まぁ頭文字だよ。知られ始めたのは最近だが、シーカーってのはダンジョン冒険者と同じように昔から存在していた。そしてここの第二層三層合併最終層、つまりは旧最終第二層{伽藍洞}は恐らくシーラ、《《超高難易度ダンジョン》》。」
――恐らく、もとい間違いなく。
「待ってくださいっ!そんな大事な情報を私が知らない訳ッ…」
「――知らない訳が、有るかもな。」
俺はその事情を思い浮かべ、少しばかり辟易としながら語った。
「シーラは既に公なものだけど『オーパーツ』が絶大な力を持ってるんで、欲に眼が眩んだ権力者たちが揉めていたんだ。現場の安全なんて二の次で、利益と暴力の為に足を引っ張ている奴らがいる。つまり、いやおおよそ、ここを管轄する王様もその一人だったって訳だろうと。」
「欲望が目を眩ませる?ダンジョンは元よりそういう場所です。」
「確かに...」
俺はしくじったと一瞬頭を巡らせた。
――確かに、ここの情報に規制が掛かっている理由は別にあるだろう。
「まぁ…なんか有るんじゃないの。知らんけどさ。それよか大方、読みは当たったな。」
俺は語りながらに取り出した瓶詰めに入った魚の水煮を開封。突っつきながら、箸を持ち上げる。テツもそれに賛同するように、大層ざっくりとした洞穴ダンジョンの地図を広げて、とある地点に指をさす。
「1層、2層間の通路には何人か倒れていたのが見えた。それと大型の足跡が二層の方角へと続いていた。恐らくはこの通路の初めから魔法が使えなくなっていたんだと思う。魔法で抗戦した痕跡が無かった。……そうだ、お姉さん。帰ったらこのダンジョン、新たな三層構造に分類したほうが良いと思うよ。具体的にはこの通路を新たな二層にするとか。」
ダンジョンの層というものには既定の為のルールがほとんど無いものの、その全てに、作成者がこれから挑みゆく冒険者に伝えんとする教訓や意図のようなものが存在する。
「いや、まず…帰れるんですか?」
「無理かも」
受付嬢の言葉にテツがサラッと、脅し文句を言い返す。
「ひッ…。ふ、ふざけるな!!」
――この子供。さっきまで伸びていた癖に、急に元気になりやがった。
「とにかく。今回は順応を省いて、俺とプーカとテツはこの先の二層まで行ってくる。本当は金稼ぎもしたかったけど…、どうやら救助する対象が多すぎるみたいだ。恐らく遭難者の過半数が最終第二層にいる。それ以前の、まぁ、中間層に倒れてたやつは全てそっちに任せた。」
「――お…お前ら、3人が行くのか!?」
「なんだぁ、ガキの癖にお前も来たいのか?いい度胸だ。」
「いい~度胸だぁ。」
プーカが俺の言い方を真似して唱える。
「そ…そいつだってガキじゃないか!!」
少年はプーカに向かって指をさし、怒鳴った。
「そ...それに、お、お前だって殴られてばっかだし、そっちの影薄い奴だって良く見たら女じゃないか!!――お前らどうかしてるよ!!滅茶苦茶だ!イカれてる!!」
「プッ…w よく見たらだってのw」
「うるさい。」
――ドスッと重々しく、テツが俺の腹を殴る。
「――ダッ!!、…痛ぇって、ダンジョンで催して死んだらお前のせい。。だかんね。」
殴られた俺の腹はグルグルと唸るウルボロス…。邪龍の封印は解かれたみたいだ。
「いって…。魔界の門が...。じゃなくて、あー、あのなぁ、じゃあ一言だけ伝えておく。」
俺は胸を張って叩き、ビビり散らかす子供を見下ろしながら偉そうに言った。
「――俺はこのクランのリーダーだ。仲間を死地へ連れていくってのに友達ってだけで同行させると思うか、ノリが良いからって同行させると思うか、金に釣られるからって同行させると思うのか、地元の人間で土地勘が良いからって同行させるのか、あるいは人数が多くって、やれ費用も莫大で、やれ準備も完璧だからって同行させるのか?」
思い浮かべるのは同業者らのパーティーだ。ギルドハウスに居たものは全て、心の何処かで互いの力量を計っている。あのパーティーは戦闘向きだ、あのパーティーは開拓向きだ、あのパーティーは発掘調査向きだ、困った時に頼れそうなのはアイツらだ、とか。しかし未だに俺は、このパーティーよりも優れたメンバーのいるクランを見たことが無い。ただそんなものを全て超越して、一つだけ甘んじてはいけない責務がある。
「よく聞け。その答えは、圧倒的に否だ。」
ダンジョンとは人が死ぬ場所である。かつて、偉大な獣人シーカー{ククルト・フランデ}が死の間際にそう言った。
しかしそれでも、届く範囲で仲間を守る。
「――何故なら俺には使命があるから。」
「使命...」
そうだ、反省しろ。今回の事故には依頼主のお前にも非が有る。なんせ義父親が行方を眩ました危険地帯へ、結果的に大勢を送り込んだんだから。
「――あぁそうとも。俺はこの探索家の護衛師。如何なる理由が有ろうとも命を張って仲間を守る。それに、ここにいるのは紛れも無く。見た目がチンチクリンだろうが、貧乏だろうがみすぼらしかろうが、性別不詳だろうが、女々しかろうが、プロの探索士達だ。ただの冒険家じゃない。探索士なんだ。」
俺は堂々と言い切る。
「シーカー...。」
衝撃の事実、公認のプロは一人だけ。
「その通り。じゃあリザ、エルノア、後は頼んだ。」
「――僕も僕も!」
「アルクは死なないように、非力なんだから。」
「…いや、本気で心配しないでよ。」
俺達三人は食事を終えキャラバンの戸を開いた。洞窟の涼しげでミネラルたっぷりな空気が肌を撫でる。テツはゴーグルと首巻きと帽子を身に纏い背中には大気銃を装備。プーカは100㎏程の荷物を背負いながら軽々と跳んで見せる。一方俺は、ただ短剣を装備して羅針盤を首からぶらっと下げ、最もラフな格好で準備完了。何も出来なさそうだ。あと弱そう。
「――あっと、忘れてた。」
俺は受付嬢の方へ顔を向き直し、念の為に言葉を交わす。
「我がクラン{ユーヴサテラ}は、危険度未定=特殊領域{ジマリ大洞穴・第二層}への入窟許可を求めます。」
これをやると成果を出した時に金が貰える。或いは、価値の高い報酬。
「――え…、ユーブ?」
「許可します。(裏声)」
受付嬢は咄嗟に振り向くが、彼女の首元に浮遊したエルノアは瞬間、二ヤついて姿をくらました。それよかやはり、先程は聞き流していたらしい。
「よし、それじゃあ行ってきます!!――そっちは頼んだぞ...!!」
「えぇ!?――まだ何も、ちょっと!!」
俺たちは逃げるように第二層への境界線へ飛び込んだ。空気は薄く、順応不足で指先がピリッと痺れるが、妙に懐かしい感覚がする。
「シーカーなのは僕だけだけど。」
テツが呟く。
「あ~、返す言葉も御座いませんで...。」
立場上、俺とプーカは飽くまで同行者だ。ここにプロシーカーは1人しかいない。
「まぁ行けるっしょ!!――アユレディ~!!?」
『Fu~~~~~!!!』
「ナニそれ。」
俺とプーカは拳を突き上げ目を合わせる。プーカはジト目のままニヤリと口角を上げ、それを言い表した。
「呪いの言葉ぁ~。」
「あぁ、それだ。」
「止めてよ...。」
そう今まさに、足場の悪いゴーロ帯を走り抜けながら、バカ二人と本物のプロシーカーによる超高難易度ダンジョンでの救難任務が始まったのである。




