①極寒キャラバンの中
第6譚{周期を逃した七人}
ノアズアーク。
「――なぁ、ナナシ。」
……俺たちのキャラバンには、特別な仕様が有る。
・1つ目は姿形が変わること。どんな難所だろうと素早い追手だろうと、その時々に合わせた姿に変わり、直面した危機を乗り越えてしまう。
・2つ目は魔法を使って動くこと。少しの魔力さえ有れば何十キロと走っていける。
・3つ目は魔法が使えること。それは時と場所を選ばずに、閉鎖されたキャラバンの中で有れば、魔導士は魔法を扱える。これは取り分け、シーラと呼ばれる魔法制限領域内でとても有用。
「――おい、ナナシ。」
そんな特別なキャラバンを所有するのが、俺たちだ。
「……あぁ。」
ウェスティリア冒険者ギルド登録クラン【ユーヴサテラ】
専門職・『探索士』
主な活動はダンジョンで発見されるロストテクノロジーや叡智の財宝である"オーパーツ"の収集、その研究、及び売却である。
しかし、俺たちみたいな新参クランには入窟が許可されないダンジョンも存在する。つまりダンジョンでの宝拾いだけでは《《採算の付かない》》事が多々有るのだ。これは非常に世知辛い。
そこで重要な収入源こそ、特色見られる珍しい物品や食料の交易。そして街々で受注出来る"クエスト"の達成報酬。
「――ナナシ、見張りは?」
真っ黒い毛並みの猫が、器用にも俺の肩に乗りながらそう喋った。
「あぁ、はいはい。分かってますとも……。」
俺は筆記途中のペンを置き、重たい腰をゆっくりと持ち上げて起立する。
「つらつらと何を書いてたんだ、遺書か?」
黒猫はヘラッと笑って言った。
「そうだな、それに限りなく近い。」
見張りというのはキャラバンの見張りである。
何故俺たちが乗車中のキャラバンに見張りが必要なのかと問われれば、それは遭難したからだ。遭難すればすることは一つしかない。
何もしないこと。
何もしないことで熱量消費を抑え、食料燃料等々の浪費も抑えている。しかしながらそれでも外部環境は苛烈を極めていた。まぁダンジョンとは往々にしてそういうものだ。今回で言えば寒さがその苛烈さに当たる。
寒すぎるから俺たちは、キャラバンが接続する魔法部屋の1つ『禁書庫』に籠っているのだ。ここは外界から遮断されている。よって寒さも届かない。
しかし全員が籠っていれば肝心のキャラバンはもぬけの殻である。いざ寒波が去った後にモンスターにでも荒らされていれば、怒髪が天を衝きながら、一方で床に向かって箒を掃き散らすハメになる。そこで俺は最大限の防寒装備を整え、魔法部屋の戸を開けキャラバンに戻るのだ。最悪の事態を避ける為に。
――ガチャリ、と。
「――うッ。……はぁっ、凍れる……。」
白い息と共に思わず声が漏れ出てしまう。刺すような寒さを顔面一杯に浴びて、手袋の上でも手を擦りながら首を縮こめて鼻を啜り、凍える顔をすっと上げた。
――!?
「えっ……。」
あぁ、しかし。見張りに出るには少々遅かったらしい……。
キャラバンの中には、ガチガチに鼻水を垂らして震えているオッサン2人が並んで立っていた。さぞ驚いただろう。今更になって人が出てきたのだから。
「――うぁッ!!」
そう、これは俺たち新参『探索家』が過酷な特殊ダンジョンで経験した、周期を逃した時の話である。
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{周期を逃した七人}




