⑩ex,旅の回帰
「ナナシ。次はどこだ。」
「うん、今回はもう決まってる。」
・・・・・・
曇天が立ち込める生憎の天候。サステイル領・決闘の国を離れ北上する俺たちには、ウザったい様な軽い雨が落ちようとしていた。
「――えぇっ!!学院に戻るのかい?」
「あぁ。ノスティア領の最北域で予定通り炭を売ったら、の話だけどな。」
この国の四大地方を『領』と呼ぶのは、大戦の名残である。もし四大地方がなんらかの摩擦で争うものなら、その領内にある国々や街々は自身の『領』の元に結束してきた。特段ノスティアという地方にはその精神が息づいており、忠実、結束、あるいは支配的であると言える地域である。
そしてアルク曰く、大陸でのトレードの鉄則は「対岸の物を売れ」だそうで、基本的には北の物品は南によく売れ逆もまた然り、西の物品は東によく売れ逆もまた然りなのであるそうだ。
「な、何か用事が有ったのかい?ナナシ、僕自身の意志としてはあんまり戻りたくないというか、大口を叩いて出た割に今はあんまりトレードが上手くいってなくて……。」
アルク・トレイダル。その実家は有力な交易商である。その長男であり跡取り息子である天才交易商のアルクには、政略の為に決められた許嫁が存在していた。つまり彼は現在、絶賛逃走中なのである。
「気持ちは分かるが、先生からの書簡が最近増えててな、かなり圧力を掛けられてる。」
「――オルテガ・オースティック。どんな人なんだろう……」
テツはボソッと呟いた。シーカーであるならばその名前を一度は聞いたことがあるだろう。
ウェスティリア魔術学院『冒険士寮{シルフィ―ド}・寮監督教授』元S級探索士クラン・トーチライツ隊長。最高位アポストル(エルゾーンから帰還したマスターに与えられる称号)シーカー。サステイル地方エル=ダンジョン。『神々の墓標』生還者。異名:求道者・導きのオルテガ。確かに有名な人物である。
「それはナナシがまだ一通も返してないからでしょ。わざわざ帰る必要が有るのかい?」
俺は不満げな顔を浮かべるアルクを宥める様に話す。
「……実は、一通だけ返したんだ。俺たちが丁度大陸を一周した頃、ウェスティリアからまた出るついでに。」
「――なんて返したんだい?」
「生存報告と、……仲間が出来たって返した。それからはあからさまに送られる書簡が増え始めて、新大陸渡航のヒントを教えるから帰って来なって。」
「……なるほど。」
プーカ、テツ、リザが仲間になる過程で、ユーヴサテラは俯瞰的に見れば時計回りに大陸を回ったことになる。その間、様々な初級ダンジョンやクエストに触れ知識を蓄え、俺達はすなわち現在、チュートリアルが終わった段階にやっとのこと立っている状況にあるのだ。
――だからこれは、良い機会かもしれない。
「ってことで、一旦帰ろう。……面倒だけど。」
新たな道の為に、旅の回帰が始まっていく。
次に目指すはウェスティリア城。その大城下都市、ウェスティリア冒険者ギルド。旧ウェスティリア城を改築し革命の象徴として建立され、数多の伝説を残した傑物たちが教壇に立つ舞台。その地下には高難度の監獄迷宮が入り混じり、狂気と謎を内在させた巨大な学舎『ウェスティリア魔術学院』。
急がば回れと言い聞かし、ここに一つ、憎愛すべき古巣への帰省が始まる。
{決闘の国}
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{一冊目相当(完)}
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