⑥審議の上で
「……な、な、な、何やってるんだい、テツ……!!」
決闘台の経過を見ながら、
俺のフードには魔法を使ったエルノアが
――スッと現れ、フードの中に体重を乗せた。
「何処に行ったかと思えば、あそこか。」
あそこか、じゃないでしょ。
「はぁ、迷子じゃなくて良かったな。で書類は?」
「君の右ポケットに入ってる。結果は黒だった。というより何で止めなかった。」
「止めるも何も気づいたらアレだ。」
テツは鋭い眼光でダイアンを睨みながら、
彼の靴底を短剣で弾いた。
「子供をっ……、蹴るな……!!」
「また乱入者か。興が冷めるな。」
テツはそのまま、ダイアンへ詰め寄ろうとする。
「――マズいんじゃないか。」
「潮時か。」
俺はエルノアにそそのかされ、決闘台に飛び乗った。
「ち、ちょっと君っ!!」
乱入者パーリィーだな。
「――ん? おいおい、三人目かい。頼むよ……。折角良い所なんだ。それに君は、見知った顔だ。」
目の前に来ると相当でかい。2mは有るかという気迫が有る。まるで金髪の大天狗。盛り上がった筋肉に4枚の翼が靡く異様な怪物。俺はダイアンの呆れたような顔を一瞥し、笑顔をつくって見せる。
「――いやぁスミマセン。あっ、皆さんもゴメンなさい。お前も何やってんのテツ。ダイアンさん怒ってるだろ全く。」
「ん……?」
会場は興醒めも良い所。無言の圧力と軽蔑の視線が、決闘台の上に一人だけ全く戦う様子の無さそうな俺に向いてくる。
「それにしてもこんな所にいるとはなぁ。よぉし捕まえたぞ、窃盗犯。言い訳はキャラバンで聞かせてもらおーう。」
俺はそう言ってフシンを担ぎ、立ち上がろうと膝を曲げた。
「おいおい、何やってんの?ここ、何処だか分かってんの?」
アドレナリンだくだくのダイアンはレイピアの針先を俺に向け、威嚇する。
「部外者が決闘台に上がるのは犯罪。ましてやココは決死闘の舞台。それがどういうことだか分かっているのかい?緊急時でもない限り……」
「緊急時。……ですか。」
俺はダイアンの言葉を遮り、一枚の紙をビシッと張った。
「――緊急クエスト。☆0(部類:難度不明)『スラムの亡霊の拘束』
・依頼主:道具屋店主「トグル」
・達成条件:道具屋の商品を盗んだ犯人の確保、拘束。
・達成報酬:5万イェル 」
「なんだいそれは?」
「……クエスト受注日は昨日。つまり、この決闘が始まる前から彼は犯罪者であり、俺たちの拘束対象。
現在、緊急クエストの犯人を正式に確保した《《明らかな緊急時》》ですが何か問題でも?それとも法律は良くご存じで無いようでありますかダイアン閣下。決闘法は緊急時のみ部外者が決闘台に上がることが出来る法律であります。この際の緊急とは無断で借用されたトグル店主の呪書の回収。今この時も左腕の呪物はその効用は失われつつありますが、まだ左腕を斬り落とせば売り物になるかもしれませんので。」
俺は腰の鞘から短剣を抜き、担いだフシンをテツに、そのまま台から降ろさせようと背中を押す。
「ちょっと待て。ベラベラとうるさい御託ばかり。たかが窃盗如きで決死闘を止められると思っているのか?金を払った客はどうなる、地下室の開示を賭けた僕はどうなる。そんな猪口才な理由で彼を降ろせると思っているのか?」
――正論だな。
「ならば刑が確定した後にでも続きをやれば良い。ましてやあのダイアン・メディールともあろう人間が、まさか日を置いただけで負かされるかもと杞憂する"小心者"ではないと信じたいものですが。」
「ふん。言うじゃないか。――それならばこの状況はどう収集する。貴様らの横槍で遮られた観客たちの不満は、そして勝ち勝負を持ち越された僕の立場は、このフラストレーションは、どう解決する。お前らが生み出した、この舞台をッ!!」
ダイアンは4枚の両翼と槍のように長い両腕を伸ばし、観客の声を味方につける。会場の熱は、俺たちという共通の敵によりヒートアップ。「そうだそうだ」と不平不満の声と共に飛んできた缶や空き皿のゴミを避け、俺は奥の手となる書類の束を右のポケットから出した。
「次は、なんだい?」
「さて、何でしょうね。私もまだ詳しく読んでいないもので、報告書のようにも見えますが。いささか文字が小さくてね。びっしりと内容が詰まっているみたいだ。えぇー、報告書のタイトルは……」
俺が発した言葉に、ダイアンは鋭く顔色を変えた。
「タイトルは、――ブルックリンが死んだ日。」
「なんだと?!」




