④野外ステージの上で
「決闘法の決闘には大きく分けて5種類が御座います。こちらの看板をご覧ください。」
「はいはい。」
祭りを運営するギルドハウスの番台より、俺たちは備え付けられた看板を指され視線を移す。
「まずは一番上から、
――『決闘法による規則』
【大決闘】
→氏族による3対3で行われる決闘。
【決闘】
→個人による1対1で行われる決闘。
【召決闘 及び 小決闘】
→召喚された魔獣を戦わせる決闘。
【決死闘】
→どちらかが命単品を賭けの対象に置く決闘。「入場規制G・死者アリ」
【死闘】
→両者が命単品を賭けの対象に置く決闘。「入場規制G・死者アリ」
となっておりまして、本日予定されていますプログラムは主催者、つまりはメディール家を対戦相手に置きまして、
10:30より「【決闘】VS 自由参加」
12;00より「ランチイベント【召決闘】VS オオクロイノシシ(解体ショー)」
14:00より「【決闘】VS 自由参加」
16;00より「メインイベント【大決闘】VS アマデイル家」
と、なっており。入場料はどなたでも1DAY1000イェルから承っています。」
「――高かいな。帰るか。」
俺は颯爽と踵を返し、アルクと見合わせる。アルクは少々苦い顔をしたが何も言わない様子であった。
「えぇ~、みないん?」
対してプーカは心底不服そうな顔を見せた。
「いやだってね。高ぇ金払って素人の戦い見ても面白くないでしょ?それに、ランチ出るクロイノシシだって別途料金が掛かんのさ。想像してみろよ高級な巨大クロイノシシが目の前で調理されんのを見ながら俺たちは持参した弁当でおからを齧るんだぜ、嫌だろ?なぁ嫌だろ?」
「えぇ~。」
プーカは拗ねた顔をして身体をくねらせる。仕方がない。うちには金が無いのだ。
「そういうことで申し訳ない。今日のところはお暇させて……」
「――待ちたまえ冒険者。」
そう言って唐突に背後から声を掛けてきたのは、はにかんだ真っ白い歯がギラリと光る金髪のロン毛男であった。ワイシャツは胸元まで大胆に開けており、ピアスにはダイヤが煌めいている。こいつはどの角度から何回見ても、貴族だ。
「ダイアンさま。」
番台のおっさんは驚いた顔を見せ、颯爽と現れたナイスガイに深々と頭を下げた。見上げるとかなり高いことに気付く、身長は190cmを超しているか。
「君らみたいなパーティーは始めて見た。思うに、国々を転々とするような冒険者の方々は良い広告塔になってくれる。ここは初回無料特典としゃれこもうじゃないか。」
「はぁ……」
俺はぴくぴくと主張の激しいふと眉をみながら、鬱陶しさに溜息をもらしてしまう。
「おぉっと、そうか。名乗るのを忘れていた。ダイアン・メディール。次代のメディール家当主だ。82歳の叔父が死ねば、次は僕が当主となる。そう、まぁほぼ当主だ。」
――どんな自己紹介だ。
ダイアンは胸筋をぴくぴくと震わせながら、前髪をかきあげてそう言った。
「{クラン・ユーヴ}です。ではご招待してくださると?」
俺は探りを入れる様に聞いた。第一印象、何ともいけ好かない野郎。
「――もちろんだ。3人くらいどうってことない。今宵の決闘。次期当主であるこの僕の活躍をその美しい眼`sに焼き付けて頂けるなら、いくらでも招待しよう。イノシシもいっぱい食べていいぞ?僕の奢りだ。」
「はぁ、貴方は神です。お慕い申し上げますダイアン当主。」
「神ぃ~~」
俺とプーカは両手を組み、祈るようにしてダイアンを見上げた。
「次期ッ、当主だ。まぁ良い、それも気分が良いッ!!ではさらばだっ、はぁーっはっはっはっはっ!!」
ダイアンは颯爽と去っていく。なんと明朗快活でナイスガイなのだろう。友達に成りたい。
「ナナシ。君って奴は打算的というか何と言うか、現金なやつだな。」
――お前が言うな。
俺は溜息を吐くアルクへ、心の中でツッコんだ。
―――――――――
「レディース&ジェントルメェン、ボーイズ&ガァルズは……今日はお家でお休みぃ。――ようこそお越しくださいました、年に一度の『救世祭』主役はもちろんコイツだぁぁああああ!!!!」
歓声が鳴り、舞台からは火花が散って、楼台には一斉に灯がともる。野外ステージの中央から颯爽と現れたのは、記憶に新しいあの男と、それを取り囲む従者たちであった。
「――ダイアン・メディィイイ、ルッ!!!!」
『FUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!』
うるせぇよ。
「楽しくなってきたね、ナナシ。」
アルクは満面の笑みでそう言った。
「楽しいままなら、良いんだけどな。」
・・・・・・・
――日が昇り、昇り切り。
中央の楔から鎖で繋がれたオオクロイノシシが、楕円形の巨大な決闘台に放たれ、討伐され。
香ばしく焼かれた匂いが立ち込み、グツグツと煮込まれた匂いが立ち込み。
プーカが調理されたそれらを大方食い締め、立ち並ぶ屋台の品を無料券で食い荒し、大方荒し終えた後。
決闘台が汗に濡れ、流血に濡れ、祭りが佳境を迎えた
――その時であった。
「さぁ、本日のメインイベントVSアマデイル家はぁ、メディール家の”圧倒的”な一人勝ちで終わりました。」
アナウンスが終わり、ダイアンはマイクを掴んでパフォーマンスをする。
「アマデイル、中々手強い相手だったよ。」
皮肉たっぷりの言葉に両家はニヤッと笑い、会場は歓声に沸いた。
「ダイアン。お前は例年通り大したことなかったが、後ろの妹君が睨んで来るものだからね、集中できなかった。」
「――はっはっは!」
「まぁ、腕は上げたんじゃないか?完敗だ。君は【大決闘の悪魔】さ。まさか一人でここまでやるとは……」
アマデイルの当主が主催のダイアンを称え、後ろからは赤い布に包まれた何かを執事らしき男が運んで来る。
「お望み通りくれてやる、伝説の名画【アイギスの解放】だ。――さぁみんな!!今宵のヒーローに拍手をッ!!!!!!!!!!」
『――おおおおおおおおお!!!』
手渡された一枚の絵が、決闘法という慣わしにも似た祭りの醍醐味を引き立てているのだろう。その価値は如何様か。恐らくはメディール家の提示した巨大農耕地と吊り合うほどには貴重なのだろう。
「俺たちが勝てば貴族入りだな。」
「そうだね。」
アルクはニヤリと笑って頷いた。
刹那、決闘台を正面に向けた野外ステージのマイクが――キィーン、とツン裂いて音を響かせる。
『大悪党ッ……!!俺はお前を裁きに来た……。』
その声の主を俺たちは知っていた。
『――メディイ・・・・・・イイイイルッ!!!』
響き渡り若い声に、会場は静まり返る。
「……なんだ、なんだ?」
楽しそうにざわつくのは酒に酔いきった奴ら、事態に焦りを見せるのはプログラムを把握している司会進行と会場の警備だ。そう、これは決闘に参加しようと意気舞う当選者でも、サプライズの為に用意されたイベントでもない。
決死闘を仕掛けんとする、一人の若者の痛切なる叫びである。
「あちゃ~。」
その腕は痛々しく、真っ赤な紋様に抉られ血に染まっていた。露呈した肉と焦げ切った皮、黒く染まった手先、中途半端に伸びた鉤爪。さて、どれほどの痛みに耐えたのだろうか。それでも、フシンは「竜四肢の呪書」に選ばれなかったのである。




