②ゴミ溜めの上
「テツ!」
細く湿った暗い路地を正面に、小銃を軽く構えたテツが佇んでいた。
「見つけたか?」
「うん」
俺はそう声をかけ、体制を崩す様に寝転んだ少年と目を合わせる。
「お前リーダーがいるっていったな。僕でも分かるぞ……。なんでこんな弱い奴に従ってるんだ!?」
――出会い頭に失敬な奴だ。
{ブルックリン街・未整備の退廃地区}
路地裏に伏せ込む彼は、テツの前で鋭い眼光を放ったまま叫んでいた。外傷も無く抵抗もしてこないところを見るに、上手く脅したらしい。
「君には関係ない。」
「うるさいロボット野郎!!――お前は自分より弱い奴に付き従う大馬鹿の奴隷だッ!!この国の腐り切った貴族に飼われた家畜以下の大ボケと同じ、野良犬だよッ!!」
「違う。」
テツは冷静な声色でそれを否定した。
「違くない、お前みたいなクソ野郎は一生後ろのリーダーぶったやつにこき使われるんだ!!そうやって騙された奴からみんな死んでった!!」
「違うって。」
「違うなら証明してみろっ!!」
テツは眉をひそめ、困った顔で言った。
「証明は出来ないけど。……僕は、女だよ。野郎じゃない。」
――そこかよ。
「え、……女?」
俺は恥ずかしそうな、かつ少し怒ったような顔をしたテツを後ろに下げ、少年との間に割って入った。
「ウェスティリア冒険者ギルド所属クラン以下略、お前を捕まえる。理由は勿論お分かりですね?さっさとお縄についてたぼれな少年。」
用意した縄をピシっと張り、正面へ構える。こんなんで5万イェルを貰ってしまうと、他のクエストが馬鹿々々しく感じてしまうだろう。
「近付くなっ!!」
しかし少年は最後の抵抗と言わんばかりに書物を広げ、血だらけの腕を描かれた魔法陣の上へと置いた。
「なんそれ。」
「僕は撃ってないよ。」
テツは補足をするように少年の怪我へ指差した。
「竜四肢の呪書、マヌケなトグルの道具屋が価値も分からずに撃っていた骨董品。自分の四肢の一部を贄にして力を得られる禁忌だ。これが有れば僕は強くなれるッ!!」
――呪いか。
「止めとけって。」
「近付くなッ!!」
少年の気迫は本物だった。俺の頭の中では「ドブドラゴン」コースが次第に現実味を帯びていく。もしそうなれば5万イェルじゃあ安すぎる案件。いや、それでも妥当なのか、恐ろしいな。
「分かった。近付かないよ。」
俺は自身の掌を斬って、手に持っていた縄と短剣を地面へと落とした。
――カチャン、と音を鳴らし倒れる短剣と同時に、俺は手を挙げ降伏の意を見せる。
「それじゃあ降参。――しませんっ!!」
フリを見せ、俺は手の平から滴る流血を魔法陣目掛けて巻き散らした。我ながら何とも清潔感の無い攻撃だろうか。しかし。
『クソッ!!――竜四肢の解ッ!!……あ?えっ?」
効果は抜群らしい。俺はそのまま足を伸ばし、膝から先をしならせるように少年の胴体へ蹴り込んだ。
「カッハァッ……!!!」
少年の指先は微かに燻り、焦げる様に黒く染まっていた。
「竜四肢の呪書。古代文字は読めないが今の感じだと炎竜系統。お前の左腕を焼き焦がし、竜腕に変える代物。」
「なんでだっ!!どうしてっ!!?」
「さぁな。いずれにせよ聞きたいことが出来た。5万イェルは勿体無いが、とりあえずキャラバンまで来てもらう。」
俺は呪書を拾い上げプーカへと投げる。
――ボトッ。
振り向くと、さも当たり前のようにキャッチしないプーカが、本を睨め付けていた。
「ちょっと、プーカちゃん?!」
「重い。」
「――お前はポーター何だけどっ!!」
「こんぐらい自分で持ちなはれ。」
そう言われると、そうするべきな気がしてきた。(子供じゃあるまいし。)と君はそう言いたいのかい?うん?
「まぁいいや。立て少年。」
「フシンだ。」
「良いから来い。街のお偉い人にお尻ペンペンされて、挙げ句一生治らない痔を抱えながら牢獄で死にたく無かったら、"こんな弱い奴の背中を追っかけて"付いてくるんだな。」
俺は思い出した悪態をここぞとばかりに言い返した。




